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Lycorisーリコリスー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 あの世からの再スタート編

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第拾捌巡 まるでロボットみたい……でしょ?


「ん……朝か。」

 柔らかな朝日がカーテンの隙間から差し込み、俺はゆっくりと目を開けた。


 昨日までの出来事が夢だったらどれだけ良かっただろう。

 そんな淡い期待も虚しく、見慣れない天井が現実を突き付けてくる。


「やっぱり夢じゃないんだな……。」


 ベッドから身体を起こし、大きく伸びをする。

 ふと隣の部屋を覗くと、翔(かける)の姿は既になかった。


「……もう出掛けたのか。朝は早いタイプなのかもしれないな」


 昨日会ったばかりだというのに、妙に気さくでこちらのことを何かと気にかけてくれた。


 そんな翔と同じように、昨日会った女子生徒”紫音(しおん)”と会話を思い出しながら

 俺は頭を掻いた。


「しかし、思い出すって言ってもなぁ……。」


 紫音との会話が脳裏に浮かんだ。


 幼い頃に交わした筈の約束――

 だが、内容を思い出そうにも手掛かりが何もなく、

 考え込んだところで答えが降ってくるわけでもない。


「そういや……白が学校に行けって言ってたな。」


 昨日、案内された校舎を思い出す。


「紫音も通ってるかもしれないし……」

 そう考えると、少しだけ気持ちが動いた。


「他にやることもねぇし、とりあえず行ってみるか」


 いつまでも部屋に閉じこもっていても仕方がない、何かを思い出すきっかけがあるかもしれない。


 そう考えて、俺は立ち上がった。

 制服は自由だと言われていたので、棚に用意されていた服へ着替え

 最低限の身支度を済ませると俺は部屋を出た。


 学生寮から学校までは徒歩十五分ほど。


 街路樹が整然と並ぶ広い並木道を歩いていく。

 昨日は驚きのあまり周囲を見る余裕がなかったが、改めて歩いてみると

 この街は本当に普通だった。


 いや。普通すぎる、と言った方が正しいのかもしれない。

 街を行き交う人々の他愛のない会話に穏やか日常。

 それは、昨日まで俺が生きていた世界と何も変わらない。


 死んだ人間が暮らす世界――

 そう聞かされていなければ、普通の都市としか思えない、

 そんなことを考えているうちに、巨大な校門が見えてきた。


「でっ……。」


 思わず足が止まる。

 目の前に広がっていたのは、学校というより一つの街だった。

 何棟もの校舎に広大なグラウンド。

 中庭には噴水まであり、図書館に講堂。

 そのどれもが現世の大学より立派に見える。


「これ、全部学校かよ……。」


 しばらく呆然と眺めたあと、ようやく我に返る。


「……って感心してる場合じゃなかった。」


 俺は校舎へ足を踏み入れた。


 だが、すぐにある重大な問題に気付く。


「……自分のクラスを知らねぇ。」


 勢いだけで来たものの、教室が分からなければ意味がない。

 周囲を見回すと、一人の女子生徒が静かに廊下を歩いていた。


「悪い、ちょっと聞きたいんだけど…?」


 少女は足を止め、こちらへ向き直る。


「ご用件は何でしょうか。」


 綺麗な姿勢に丁寧な口調。

 まるでホテルの受付係のようだった。


「ああ、えっと…俺のクラスが分からなくてさ。」


「真城空(ましろそら)様の所属は二階、Bクラスになります。」


「……え?」


 俺は思わず瞬きをする。


「あれ?俺、名前言ったっけ?」


「いいえ。」


「じゃあ、なんで?」


 少女は一切表情を変えない。


「登録情報を照合いたしました。」


「……登録?」


 意味が分からず、俺が首を傾げていると、少女は静かに一礼した。


「他にご用件はございますか。」


「え?ああ……いや、大丈夫だ。」


「かしこまりました。」


 それだけ言うと、少女は機械のように一定の歩幅で歩き去っていく。


「……。」


 俺はその後ろ姿をしばらく見送った。


「なんだ、今の……?」

 見た目は普通の女子生徒だ。

 髪も、顔も、服装も、歩き方も、声も、人間そのもの。


 それなのに。


「……なんか、違うんだよな」

 昨日から感じていた、この世界の不思議さとも少し違う。


「感情がない……っていうか。」


 違うな、もっと正確に言えば――


「――ま(・)る(・)で(・)ロ(・)ボ(・)ッ(・)ト(・)み(・)た(・)い(・)……でしょ?」



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