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Lycorisーリコリスー  作者: 小鳥遊 千夜
第二章 あの世からの再スタート編

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第拾伍巡 これからよろしくな

 

「そうだけど……お前は?」

 振り返ると、一人の青年が立っていた。


 薄い金髪に、白を基調とした制服。

 身長は俺より少し高い。一八〇センチくらいだろうか。

 整った顔立ちに、人懐っこい笑顔。

 初対面なのに、不思議と警戒心を抱かせない雰囲気を持っている。


「あっ、ごめんごめん。先に自己紹介だったな。」

 青年は頭をかきながら苦笑すると、俺の前へ歩み寄り、右手を差し出した。


「オレは”天王寺翔(てんのうじかける)”、あんたのルームメイトだ。これからよろしくな。」


 その笑顔はとても自然で、つられて俺も笑みがこぼれる。


「”真城空(ましろそら)”だ、こっちこそよろしく。」


 差し出された手を握る。

 力強いが、どこか優しい握手だった。


「白って死神から聞いたぜ。間違ってこっちへ連れて来られたんだって?」


「……まぁな。」


 苦笑いするしかない――普通なら冗談にしか聞こえない話だ。


「災難だったな。いきなり知らない世界へ放り込まれたら、不安にもなるよな。」

 だが、翔は笑って茶化すこともなく気遣うように頷いた。



「分からないことがあったら何でも聞いてくれ。オレ、この街じゃそこそこ長いからさ。」


 その言葉に肩の力が少し抜ける。

 初めて会ったばかりなのに、こいつは人を安心させるのが上手い。


「ありがとう、助かるよ。えっと……天王寺さん。」


「おいおい。ルームメイトなのに『さん付け』は寂しいだろ?」

 翔は少し大袈裟に肩を落とした。


「翔でいい。オレも空って呼ぶからさ。」


「ありがとう。じゃあ遠慮なく……よろしくな、翔。」

 俺は笑って頷く。


「ああ!任せとけ、空!」

 翔も満面の笑みで親指を立てた。


 初対面とは思えないほど自然に名前を呼ばれ、少し照れくさい。

 でも、不思議と嫌な気はしなかった。


「さぁ、着いたぜ。」

 翔の後を着いて行くと、廊下の奥を指差す。


「ここが今日からオレたちの城。……ようこそ、四九〇号室へ!」

 翔が勢いよく扉を開ける。


「へぇ……。もっと狭い部屋を想像してたけど……結構広いんだな。」

 部屋へ入った俺は思わず声を漏らした。


「だろ?」

 翔は得意げに笑う。


「四LDKだからな。こっちがリビング、向こうがキッチン、その隣がユニットバスとトイレ…。」

 案内しながら次々と指を差していく。


「で、廊下の奥が寝室。左がオレの部屋、右がお前の部屋な。」


 部屋を覗くと、ベッドに机、本棚、クローゼットまで一通り揃っている。


 家具も新品で、とても学生寮とは思えない。


「好きに使っていいぜ。」


「ありがとう。」

 俺は部屋を見回しながら頷く。


「これ……下手なマンションより快適じゃねぇか。」


「ははっ。ここに初めて来た奴はみんな同じこと言うんだよ。」


 確かに、これなら長く住むことになっても不満はないだろう。


「さて……この後どうする?」

 翔がソファへ腰掛ける。


「そうだな……。」

 俺は肩をぐるりと回した。


「今日は風呂入って寝るかな、色々ありすぎて頭が追いついてねぇ。……」


「それなら決まりだ!一緒に大浴場行こうぜ!」

 翔が勢いよく立ち上がる。


「大浴場?」


「ああ。」

 翔はニヤリと笑う。


「この寮一番の自慢だからな。行って損はしないぜ。」


 そこまで言われると少し気になってくる。

 部屋のシャワーでも十分だと思っていたが、せっかく誘ってくれたんだ。


「ああ、案内頼む。」


「任せろ!」

 翔は親指を立てると、鼻歌交じりで廊下を歩き始めた。



 地下へ降りると、大きなのれんが目に入る。


『天然温泉』


 その四文字だけでも期待が膨らむ。


「ここが、寮自慢の大浴場だ!」

 翔が胸を張る。


 中へ入った瞬間、思わず足が止まった。


「……でかっ。」

 広々とした浴場、湯気の向こうには露天風呂。

 さらに奥にはサウナまで見える。


「おいおい……。学生寮だよな、ここ?」


「その反応が見たかった。」

 翔は満足そうに笑う。


「どう見ても高級旅館じゃねぇか。」


「だろ?オレも最初はびっくりした。」


 二人で笑いながら湯船へ浸かる。


「ふぅぅ……。」


 思わず声が漏れた。


 温泉独特の硫黄の香り、全身を包み込む柔らかな湯。

 今日一日の疲れが、じんわりと溶けていく。


「極楽ってこういうことを言うのかもな……。」


「まだ天国じゃないけどな。」

 翔が笑う。


「細かいこと言うな。」


 俺も思わず笑ってしまう。


 死んだと言われた翌日に、まさか温泉でくつろいでいるなんて。


 人生って本当に分からないものだ。


 湯から上がる頃には、身体だけでなく心まで軽くなっていた。


「どうだ?良い風呂だっただろ?」

 髪を拭きながら翔が聞いてくる。


「ああ、最高だった。

 ちょっと入りすぎたみたいで、のぼせちまったよ。」


「ははは!初心者あるあるだ。」

 翔は豪快に笑う。


「少し夜風に当たってから戻るよ。」


「了解。ならオレは先に部屋戻ってるぜ。」

 翔は軽く手を振る。


「迷子になるなよ、空。」


「ハハッ……そんな子供じゃねぇよ。」

 苦笑しながら見送ると、俺は火照った身体を冷ますため、静かな夜風が吹く外へ足を運んだ――



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