第拾肆巡 夢みたいだ
「……まるで向こうの世界、そのまんまじゃねぇか。」
どう見ても"あの世"には見えない。
「……夢みたいだ。でも……夢じゃないんだな。」
夢でも幻でもなく、本当にもう一つの街が存在しているようだった。
「ええ。」
白はどこか誇らしげに頷く。
「細かな違いはありますけれど、基本的には現世とほぼ同じように作られていますの。
亡くなった方が戸惑わないように、という配慮でもありますわ。」
「なるほどな……。」
確かに、いきなり雲の上だの極楽だのへ放り込まれるより、ずっと落ち着く。
白は歩きながら街を案内してくれる。
「あちらがショッピングエリアですわ。」
指差した先には、大きな商業施設が建ち並んでいた。
「日用品や衣類はもちろん、本や趣味の品まで、一通り揃っていますわ。」
「へぇ……。」
見れば見るほど普通の街だ。
あまりにも普通すぎて、自分が死後の世界にいることを忘れてしまいそうになる。
ふと、現実的な問題が頭をよぎった。
「そういやさ……。
俺、いきなり死んだから財布どころか金も何も持ってないんだけど……。」
「あら、その心配はいりませんわ。」
白はポケットから一枚の白いカードを取り出し、俺へ差し出した。
「こちらをどうぞ。」
「これは?カード?」
受け取ると、見た目は現世のクレジットカードによく似ている。
だが、表面には文字も番号もなく雪のように真っ白だった。
「この世界で使う身分証兼サービスカードですわ。
現世でいうクレジットカードのようなもの、と考えていただければ分かりやすいですわね。」
「へぇ、あの世にもお金ってあるんだなー。」
「いえ。この世界には本来、お金という概念はありません。
ですが、魂が安心して次の人生を考えられるよう、現世に近い生活環境を再現しているだけですわ。」
「なるほどな。」
「ですから、生活に必要な物はこのカードで自由に入手することが出来ますわ。」
「自由…もしかして買い物し放題?」
思わず聞くと、白が微笑む。
「ええ、お好きなだけどうぞですわ。」
「マジか…、生活する分には困らなさそうだな。」
カードをポケットへしまいながら、俺はようやく少しだけ肩の力を抜いた。
「そして、ショッピングエリアの左側には海岸エリアと山岳エリアがありますわ。
海水浴や登山、釣りにキャンプ。季節を問わず様々なレジャーが楽しめますの。」
白が街の向こうを指差す。
「へぇ……。」
死後の世界って、もっとこう……雲の上をふわふわ漂うような場所だと思っていた。
まさかレジャースポットまで完備されているとは。
「右側はビジネスエリア。企業や研究施設、イベント会場などが集まっておりますわ。」
視線を移すと、高層ビルが建ち並び、その奥には巨大なホールのような建物も見える。
「そしてこちらは、学校エリアですわ。」
今度は落ち着いた街並みの方へ案内される。
制服姿の学生らしき人たちが行き交い、校舎らしい建物がいくつも並んでいた。
「あなたはこちらへ通えるよう、すでに手続きを済ませてあります。
もちろん強制ではありませんので、通うも通わないも、あなたの自由ですわ。」
「学校、か……。」
向こうじゃ、受験勉強の真っ最中だったし、正直もう勉強なんてしたくない。
けれど、この世界について知るには一番手っ取り早そうでもある。
「……まぁ、特にやることもないし、何か元の世界へ帰るヒントが見つかるかもしれない。
とりあえず顔だけ出してみるよ。」
白は満足そうに微笑んだ。
「ええ。きっと良い経験になりますわ。」
さらに歩くこと数分、一棟の大きな建物の前で白が足を止めた。
「そして、こちらが学生寮になります。」
白を基調とした近代的な建物は、ホテルと見間違えるほど綺麗だった。
「おぉ……。寮っていうからもっと古い建物かと思ってた。なかなか良さそうじゃねぇか。」
「気に入っていただけて何よりですわ。」
白は嬉しそうに微笑む。
「他にも案内できますけれど、いかがいたしましょう?」
街を見回したい気持ちもあったが、さすがに今日は色々ありすぎたし
精神的にも身体的にも限界だ。
「いや、今日はもう休むよ。…さすがに疲れた。」
「かしこまりました。それではお部屋は四九〇号室です。
どうぞ、ごゆっくりお休みくださいませ。」
「ああ。今日は本当に色々ありがとうな。」
「それでは、またお会いいたしましょう。」
俺が礼を言うと、白は柔らかく微笑みスカートの裾を摘まんで優雅に一礼する。
次の瞬間――白い光が身体を包み込み、その姿は幻のようにゆっくりと消えていく。
「……相変わらず神秘的な消え方だな。」
俺は苦笑しながら寮へ向き直る。
「さてと……四九〇号室は……。」
部屋番号を探して歩き出した、その時だった。
「おっ。あんたが真城って奴か?」
背後から爽やかな男の声が飛んできた。
振り返ると一人の青年が笑みを浮かべながら、こちらへ手を振っていた。




