第拾参巡 死後の世界へようこそ
「それでは白、彼を滞在区画へ案内しなさい」
都市王の声が静かに響いた。
「かしこまりましたわ。さぁ、こちらへどうぞ。」
白は一礼すると、俺へ振り返る。
「滞在区画?」
「ええ。空様が夢を見つけるまで生活する世界ですわ」
「世界って……ここ以外にもあるのか?」
「もちろんですわ。」
白はそう答えると、俺の疑問を楽しむように微笑んだ。
「それも含めて、これからご説明しますわ」
転生の門へ続いていた回廊を離れ、別の通路へ入っていく。
壁面には淡い光が流れ、足元を照らしている。
明かりそのものが設置されているようには見えないが、それでも暗い場所は一つもない。
「……本当に不思議なところだな」
「そうでしょう?」
「こういうところを見ると、やっぱり現世とは別の世界なんだなって思う」
「死後の世界ですもの」
「まあ、そうなんだけどさ」
しばらく歩いたところで、白が足を止めた。
「こちらですわ」
その先にあったのは、円形の小さな部屋だった。
中央には、金属とも石ともつかない不思議な材質で造られた装置がある。
壁面との境目もほとんどなく、全体が一つの機械として作られているようだった。
「……何だ、これ?」
「移動用の装置ですわ」
「見た目はエレベーターみたいだな」
「ええ。仕組みも似たようなものですわ」
「死後の世界にもエレベーターがあるのか……」
妙なところで現世と共通している。
「乗ってくださいませ」
「……また妙な乗り物だな」
「大丈夫ですわ。……危険なものではありませんから」
白が先に乗り込む。
「それならまあ……」
俺も続いて装置の中へ入る。
扉が静かに閉じた、次の瞬間。
ふわり。
「……!」
身体が一瞬だけ浮いたような感覚。
「さて、乗り心地はどうでしょう?」
「飛んでいるとは違う、浮いてるみたいな…不思議な気分だ。」
「ふふっ…まさしく天に昇るような感じでしょう?」
白がくすっと笑う。
「確かに。まぁ……実際似たようなもんだけどよ。」
そんなやり取りをしているうちにも、装置は静かに進んでいく。
外の景色は見えず、どこか遠くへ運ばれているような不思議な感覚だけがあった。
「さてこの世界についてですが、この世界は、大きく六つの階層に分かれていますの」
白が口を開く。
「どんなところなんだ?」
「まず、死神が暮らす階層、鬼が暮らす階層、悪霊が集う階層……」
「……ちょっと待て」
思わず白を見る。
「さらっと怖い名前が混ざってたぞ!悪霊って、大丈夫なのかよ?」
「ご安心くださいませ」
白は穏やかな口調で答える。
「基本的に、それぞれの階層は完全に分かれていますの。
許可なく他の階層へ立ち入ることはできませんし、お互いに干渉することもまずありませんわ」
「つまり、人間の街に悪霊がうろついてるなんてことはないってわけか」
「その通りですわ」
「それを聞いて安心した」
思わず胸を撫で下ろす。
鬼や悪霊と同じ街で暮らせなんて言われたら、夢を探す前に寿命が……。
いや、この世には寿命という概念は無いんだろうけど。
「そして、これから向かうのは、人間だった魂だけが暮らす階層ですわ」
白が前を向く。
「いわば、現世に最も近い世界ですわ。そこなら、空様もきっと落ち着いて過ごせると思います」
「普通の街なのか?」
「ええ、きっと驚きますわよ」
白は少しだけ得意げに微笑む。
「現世より便利だとおっしゃる方も多いくらいですから」
「……死後の世界の方が住みやすいって、それ現世の人が聞いたら泣くぞ」
「ふふふ、……それは否定できませんわね」
白は口元を隠して笑う。
「おいおい……」
俺も思わず苦笑した。
そんな他愛もない会話を続けているうちに、装置の速度がゆっくりと落ちていく。
やがて、チリン……。っと小さな鐘の音が響くと、扉が左右へ開いた。
「さぁ、着きましたわ」
一歩、俺は装置から外へ出る。
そして。
「…………」
思わず足を止めた。
目の前に広がっていた光景に、言葉が出てこない。
「……すげぇ」
見渡す限り、街が広がっていた。
整備された道路、立ち並ぶ建物。店先から聞こえてくる人々の声。
遠くには高い建物が幾つも並び、街の向こうまで続いている。
まるで現世の街へ戻ってきたかのようだった。
「……ここが死後の世界……?」
俺はゆっくりと周囲を見渡す。
白は街へ視線を向け、まるでこの世界への扉を開く最後の言葉を告げるように。
「ええ、死後の世界へようこそ」
目の前に広がるのは、死んだ者たちが暮らす世界。
そしてここが、俺が夢を見つけるまで過ごす場所だった――




