第拾弐巡 夢なんて
俺は転生の門の扉に手をかざした。
これでようやく元の世界へ帰れる。
そう思った――その時だった。
「……あれ?」
門はぴくりとも動かない。
「おいおい……開かないぞ?」
もう一度力を込めるが、結果は同じだった。
「これは……」
都市王が静かに眉をひそめる。
そして俺へ向けて手をかざし、低く厳かな言葉を紡ぎ始めると
白い光が俺の身体を包み込み、やがて静かに消えていく。
「……やはりか。」
都市王は小さく息を吐いた。
「こやつには、この門をくぐる資格がない。」
「資格?どういう意味だよ?」
嫌な予感しかしない。
「お前には、この門を開くために必要なものが欠けている。」
「必要なもの?」
「お前たち人間の言葉で言うなら……夢。あるいは目標だ。」
都市王は俺を真っ直ぐ見据え、静かに告げた。
「……は?……夢?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
「左様。」
「いやいや、待て待て!!夢なんて無くても人は生きていけるだろ?
飯を食って働いて寝て、それで十分じゃねぇか!!」
俺は慌てて手を振った。
「確かに、生きるだけならそれで足りよう…」
都市王は否定も肯定もせず、穏やかに頷く。
「だが、それは肉体の話だ。」
「……?」
「魂は違う。」
その一言で空気が変わった。
都市王の声は静かだったが、不思議な重みがあった。
「”真城空”よ。
お前は、……人はなぜ生まれ変わると思う?」
都市王の声は静かだったが、不思議な重みがあった。
「そんなの……生きるためだろ。」
「半分は正しい。…だが。生きることは目的ではない。」
都市王はゆっくり首を横に振る。
「よいか、現世とは魂を磨くための修行場なのだ。」
「修行場……?」
「そうだ。人は自ら課題を選び、生まれる。
笑い、泣き、迷い、苦しみ、時に誰かを愛し、時に失いながら己を磨いてゆく……。
そうして成長した魂は再びこの地へ帰り、また新たな人生を選ぶ。」
「その果てしない巡りこそが輪廻であり、
魂はその旅を繰り返すことで、少しずつ高みへと近付いてゆくのだ。」
俺は思わず門を見上げた。
白い門は何も語らず、ただ静かにそこへ立ち続けている。
「……だから夢が必要なのか。」
「左様。」
都市王は静かに頷いた。
「夢とは目標。魂が進むべき道標なのだ。
行き先を持たぬ魂は、この門を越えることはできぬ。」
「目標なき者を現世に戻しても、同じ人生を繰り返すだけだからな。」
その言葉に胸が痛んだ。
思い当たる節しかない――俺はこれまで何となく生きてきただけだったから。
夢なんて諦めた。目標なんて持っても意味がないと思っていた。
その結果が、これなのか――
「だが……そんなこと急に言われても、今まで一度だって見つからなかったんだぞ!」
思わず声を荒げる。
「そんな簡単に見つかるなら誰も苦労しねぇよ!
その間に俺の身体が無くなってたらどうすんだ!目が覚めたら、骨だったなんて洒落にならねぇぞ!」
「案ずるな。お前の時間は止まっている。」
都市王は少しだけ口元を緩めた。
「時間が……止まってる?」
「この世界は現世とは異なる。そして転生の門とは通る者が望む時へ帰す門でもある。
つまり、お前は死ぬ直前の時へ戻ることができる。」
思わず白を見る。
「本当ですわ。……それにこの世界で暮らす間は、私たちが責任を持ってお世話しますから。
生活についても心配無用ですわ」
さっきまで帰れると思っていたのに――また振り出し。
それでも、不思議と絶望はしていなかった。
「……はぁ。ここで騒いでも始まらねぇか。」
大きく息を吐く。
「夢ねぇ……」
人生で一番縁遠い言葉を呟きながら、俺は再び静かに白い門を見上げた。
俺にそんなものが見つかるのだろうか?――




