第拾壱巡 その時はまた案内してくれ
大法廷を後にし、白の案内で長い回廊を歩く。
やがて視界が開け、その先に巨大な門が姿を現した。
「……これが。」
俺は思わず息を呑む。
そこにあったのは。白銀に輝く巨大な門。
見上げても頂点がかすむほど高く、左右の橋も視界に収まりきらない。
その周囲には無数の小さな星のような光が漂い、
それらは門へ吸い込まれるように集まり、そして門の向こうへと消えていく。
あれも魂なのだろうか――?
さっき見た閻魔庁の門が威厳なら、こちらは神聖そのものだった。
「……転生の門か。」
「ええ。魂が新たな一歩を踏み出す場所ですわ。」
白も静かに頷く。
頬を撫でる風は、不思議なほど温かい。
死者の世界なのに、その風には生きている世界を思わせるものがあった。
その時、白い中国風の法衣を身に着け、恰幅の良い男がこちらへ歩み寄ってきた。
落ち着いた佇まいに穏やかな目、見た目だけなら五十代ほどにも見えるが、
この世界では外見だけで年齢を判断することに意味はなさそうだった。
「報告は受けておる。私は”都市王”。この転生の門を管理している者だ。」
男はゆっくり門へ視線を向ける。
「”真城空殿”。この門に手をかざせば、魂は元の肉体へと還る。」
「……。」
その言葉を聞いた瞬間。
胸の奥にあった緊張が、ほんの少しだけほどけた。
「ようやく帰れるんだな……。」
何だか長い旅だった気がする。
実際にはどれくらいの時間が経っているのか分からないけど。
その旅も、これでようやく終わる――
「あの……真城様。」
不意に白が遠慮がちに口を開いた。
「ん?」
振り向くと白は俯いていた。
「この度は、本当に申し訳ありませんでしたわ。私の勘違いでこんなことに……。」
さすがに反省してるらしく、肩を落とししょんぼりとうつむいている。
初めて会った時の自信満々な態度からは想像もつかないほど、小さく見えた。
「……。」
正直に言えば怒っていないわけじゃない、間違えて冥界へ連れてこられたのだ。
普通なら、とんでもない話だ。
だけど――
俺はここへ来てしまったからこそ色々なものを見た――
だから、俺は小さく笑う。
「まぁ……悪いことばっかりじゃなかったさ。」
白が顔を上げる。
「豪華客船にも乗れたし、うまい飯も食えた。
普通じゃ絶対見られない景色も見られたしな。人生で一回くらい、あんな旅行も悪くない。」
「真城様……。」
白が目を丸くする。その瞳は少しだけ潤んだように見えた。
「もしいつか、本当に寿命が来たらその時はまた案内してくれ。」
俺は笑いながら親指を立てる。
「今度は間違えずにな?」
一瞬きょとんとした白だったが、やがて小さく吹き出した。
「……はい。真城様」
その笑顔は、今までで一番自然だった。案内人としての笑顔でもなく
ただ、一人の少女のような笑顔だった。
「その時には一流の案内人になってあなたを迎えに行きますわ。」
「ああ、約束だ。……それと俺のことは空でいい、もう友達みたいなもんだしな」
「…分かりましたわ、空様。どうかお元気で……」
白は一瞬驚いたように目を丸くしたが嬉しそうに微笑む。
「…じゃあな、白。」
俺は軽く手を振り、そして門へ向き直った。
白銀の光が、静かに俺を照らしている――もう迷う必要はない。
門へ歩み寄り、ゆっくりと白銀の扉へ手を伸ばした。
これで、ようやく元の世界へ帰れる。
俺はそう思っていた――。




