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【完結】神の依り代である私が、幸せで平凡な生活を味わい始めたのは、特徴的なピンク色の髪をした少女と出会ってからのことでした。  作者: Sakusaku


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第9章 : 更屋敷 璃々緒 3

 


「着きました。ここが私の友達のいる場所、吉原です」


「どんなところなんだろうね……ねえ璃々緒、ここにも家の方の商業地みたいに美味しい食べ物あるの?」


 純粋な少女の声は興奮に満ちていた。しかし璃々緒は全く違う考えだった。


「えっと……それは……ちょっと言いづらいんですけど」


 彼女もどう答えればいいかわからなかった。ここは白い布のような少女が来るべき場所ではなかった。


「どうして?」


 少女は子供のような好奇心いっぱいの声と表情で尋ねた。それが璃々緒をさらに言葉に詰まらせた。


「着いたらわかりますよ」


 結局そうはぐらかした。


 どう言えというのか。ここは公認の遊郭街だなんて。


 吉原は一言で言えば、公認の遊女街であり、唯一公式に許された場所だった。昼も夜もほとんど変わらない、夜のない街で、人々が出入りし続けていた。


 街の特徴は、両側に遊女屋が並び、路地にも点在している。メイン通りは長野町で、目印は両側に並ぶ大きな桜の木だった。


 遊女屋は大小さまざまあり、遊女と使用人は合わせて約三千人。遊女にも階級があり、トップは太夫で、芸術・和歌・音楽に長け、中間は仕置、下位は端女郎だった。彼女たちの多くは他国から売られてきた者や、貧しい家庭の娘、借金返済のために来た者たちで、妊娠すれば強制的に堕胎させられた。


「あ、入り口の門が見えました。行きましょう、若様……あら、若様? そこで何を座ってるんですか」


 突然姫子がしゃがみ込んで何かをじっと見つめていた。見ると三毛の丸々とした猫が座っていた。


「あの……若様?」


「璃々緒見て見て! この子可愛い!! 丸くてふわふわで可愛い〜〜〜〜」


 姫子は猫を撫で続け、すぐに抱き上げた。猫もとても気に入ったようだった。


「わあ……転がってる〜……この子の名前は何て言うの? 璃々緒知ってる?」


「猫です」


「猫ちゃん〜お腹見せて〜」


 彼女は顔を埋めてふわふわの腹にキスをした。猫も喜んでいるようだった。璃々緒は無表情でその光景を見ていた。


「猫が好きなんですか?」


「うん! 大好き! 大好きすぎて連れて帰りたいくらい」


「若様、猫みたいですね……」


「どういう意味?」


「人は食べたもので体ができるって言いますから」


 姫子と猫が同時に璃々緒をポカンとした顔で見つめた。璃々緒は相変わらず無表情だった。


「あ……ごめんなさい。あれはただの冗談です。気にしないでください」


「ちょっと待って!!! どこが面白いんですか!!!」




「うーん……連れて帰れないよね」


「若君様にバレたらどうなるか言わなくてもわかるでしょう? それにこの子には飼い主がいますよ」


 璃々緒は猫の首に付いた鈴の付いた紐を指差した。


「ええ……じゃあ街の中に送ってあげようか」


「そうしましょう」


 璃々緒は猫を見つけた場所から少し離れた茶屋へ姫子を連れて行った。


「お茶が飲みたいの?」姫子が純粋に尋ねた。


「いいえ。でも吉原は男性のための街なんです。女性が入るには許可証が必要で、それをここで申請します」


 そう言うと璃々緒は店主に向かって大声で呼びかけた。


 遊郭街は基本的に男性向けで、女性が入る場合は身元と目的を厳しく調べられ、遊女の逃亡を防ぐためだった。女性が入るには「切手」(木札の通行証)が必要で、小さな木の札のようなものだった。


「変なところね、ここ」


 すると厳つい顔の老女が中から出てきた。女性客が二人いるのを見て、少し声を低くして言った。


「ご用件は?」


「あの……友達に会いに来たんです。彼女はここの禿(かむろ)で、この子は太夫の踊りを見たいと言っています。私は更屋敷 璃々緒、この子は姫子です」


 老女は禿の話を聞いてすぐに警戒した。璃々緒は相手が友達を連れて逃がそうとしていると勘違いしたら面倒だとわかっていたが、幸運にも味方した。


「名前は?」


「えっと……彼女は外国の人で、名前がちょっと発音しにくいんです。コエ……カロイ……コロ……クロエです」


 本名はChloeだったが、璃々緒は西洋の名前を発音できず、クロエになってしまった。


「聞こえないな。苗字はあるか?」


「あります。確かアンリノサキだったと思います」


 その言葉が終わると老女は二秒ほど固まり、咳払いをして「少し待て」と言って店の中へ戻った。二人は顔を見合わせて首を傾げ、姫子が気づいた。


「璃々緒、ここに来たことあるよね?」


「ええ、ありますよ。どうしてですか?」


「あら、来たことがあるなら切手があるはずなのに、なんで新しく申請するの?」


「切手は三十日で期限切れになります。切れたら新しく申請しないと。私のものは一年以上前に切れています」


「期限があるのね。厳しいのね」


 老女が二枚の切手を持って戻ってきた。二人はそれを受け取り、少しばかりの心付けを払い、璃々緒は使用人たちに飲ませる茶も買った。


 二人は門に向かって歩きながら話を続けた。


 夜のない街と呼ばれるが、活動は二十四時間続いていた。遊女たちはほとんど休む暇がなく、本当に眠れるのは明け方から午前中までの約四時間だけ。起きたら入浴、食事、茶を飲み、着付けをし、芸を欠かさず練習し、客からの手紙を読み、格子越しに見える部屋(張見世)で客を呼んだ。客は主に静かなサービスを求める者たち——上流階級、商人、観光客、そして例の派手好きの池田だった。午後は太夫の行列を準備し、夕方から夜にかけて客が押し寄せ、このサイクルが繰り返された。


 門の前には三人の男が立っていた。二人は与力(中級武士)で治安維持、もう一人は岡っ引きで特に女性の出入りをチェックしていた。


「すまないが、嬢ちゃんたち……」


 二人は呼び止められた。


「少し聞きたいことがある。ついてきてもらえるか」


 璃々緒は頷き、姫子の手を引いて役人の小屋へ入った。


「ここへは友達に会いに来て、太夫の踊りを見に来たんだな?」


「はい」「えっと……はい」


「見慣れない顔だな。どこから来た? まだ子供っぽいな」


「浅草です」


「遠いな……まあ、切手を持っているなら止めたのは行き過ぎだったな」


 ずっと黙っていた姫子が、役人にこの街について尋ねた。


「あの……役人さん、どうしてここは出入り、特に女性の出入りを厳しく管理しているんですか?」


「当然だ。遊女や禿が逃げないようにするためだ」


「遊女?」


「ここは女たちが体と貞操を売って生活する場所だよ。まあ、入ればわかる。行け」


 姫子は体の中から何かが弾けるような感覚を覚えた。何かが置き換わるような、初めて直面する現実を認識する感覚が胸に広がった。


「ねえ、璃々緒」


 二人は張見世の前に立った。格子の向こうに様々な女性たちが座り、客を呼んでいた。


「ただ座っているだけで、お金をもらえるって、いいことだと思う?」


「私は毎日、ただ座って神の依代として務めをしているわ。彼らを助けたこともないのに、どうして彼らは私にお金をくれるの?」


「人形のように座っているだけで、彼らは私を助けてくれたと感謝する。それがわからないの」


 璃々緒は一瞬言葉を失った。姫子の側仕えになりたての頃、両親がいる日は「神託を伺う儀式」があると聞いていた。それは信者の悩みを聞き、解決するという儀式だった。


 しかし実際に儀式を目の当たりにした時、それがどのようなものか理解した。今はただ姫子を完璧な妻に教育するだけが仕事で、使用人である自分にその儀式に口を出す権利はない。だから放置していた。


「でも彼女たちはお金を稼ぐために必死に……私は努力したことも、自分で稼いだこともない」


 姫子は体を売るという意味を正確に知らなかったが、役人の声からそれが良い仕事ではないと察した。そして今、初めて自分が快適に暮らすお金の出所を考えたことがなかったことに気づいた。


 少女は胸が痛んだ。病気の時ほどではないが、その痛みは全身を激しく蝕んだ。


「私もわからないわ」


「そう……変なこと言ってごめんね。友達のところへ行きましょう」




「なんだと!!! もう払ったって言ってるだろ!」


「ふざけるな。お前はまだ払ってない。これは規則違反だ」


 道を歩いていると、大通りに騒ぎ声が聞こえてきた。喧嘩のようだった。


「何? 喧嘩?」


 璃々緒は誰かが仲裁に入るのを待つつもりだった。巻き込まれて姫子が怪我したら困る。しかし姫子は被害者の声を無視できなかった。


 四歳の頃、使用人が鞭で打たれる光景が蘇った。


 彼女は迷わず声のする方へ走り出した。


「だめ!!! 若様、危ないです!!!!」


 どんなに善意の警告が追いかけても、彼女は止まらなかった。猫を抱えたまま(今は眠っていた)。


 現場に着くと、遊女が客らしい男と口論していた。男は代金を払わず、ばれたら知らん顔をしていた。


「もうやめて、ちゃんと払いなさいよ!!!」


「払ったって言ってるだろ!!!!!」


 男が遊女の顔を殴ろうと手を振り上げた。姫子は速度を上げて止めようとしたが、璃々緒の方が速かった。


 男の手が遊女の顔に届く寸前、璃々緒がその手を掴んだ。


「!!!!!!!」


「ちょっとお兄さん、抵抗できない女性に暴力を振るうなんてカッコ悪いですよ」


 男がもう片方の手で璃々緒を殴ろうとしたが、その瞬間、璃々緒は地面に落ちていた木片を信じられない速さで足で蹴り上げ、手に取って男の拳を受け止めた。


 男が体勢を崩した隙に、璃々緒は遊女が持っていた箒を借りた。


「ちょっと借りるね」


 璃々緒は箒を剣のように構え、片手で男の頭を叩いた。体勢を崩したところに飛び上がり、宙返りをして男の頭を強く蹴った。


「第一課:淑女に拳を向けるんじゃないわよ〜」


 しかし男は簡単に倒れなかった。立ち上がり、仲間を呼んだ。男たちがあちこちから出てきて、六対一になった。姫子は囲まれ、璃々緒の背中に背中を預けた。


「若様は私の後ろにいてください」


「何をするつもり……」


「遊びですよ」


 璃々緒は箒の柄で一人目を叩き、掴まれたら顔を蹴り上げ、彼を踏み台にして飛び上がり、男たちの上を走った。二番目の頭を回転蹴り、三番目の首を柄で叩き、四番目の腹を後ろに強く蹴った。


 リーダー格の男が姫子を探したが見つからず、五番目が飛んできて彼にぶつかった。


「てめえら!!! 女一人に勝てねえのか!!!」男は自分を見ずに言った。そして璃々緒に向かって突進した。その時、門の番兵二人が仲裁に入った。


 勝てないと見て、男はいつもの奥の手を出した。東南アジアの田舎の老人たちが友人との酒の席や自慢話で使う手——「息子が役人になって、車や家を買って親戚に金を貸した」的な。


「嬢ちゃん、お前は俺をここまで痛めつけた。生きて帰れると思うなよ」


「どうして?」


「どうしてだって? 俺は青山を知ってるんだ。知ってるだろ、あの商人一家を。商人とはいえコネが……ぐおっ!!!!!」


 男が言い終わる前に、璃々緒の蹴りが顔に決まり、気絶した。


「第二課:幼馴染の苗字を自慢に使うんじゃないわよ」


 仲裁に入った武士たちは璃々緒を無言で見つめた。


「私はただ身を守っただけ……」


 彼らは男を町の外へ連れ出し、取り調べることにした。


「璃々緒!!! 怪我はない!?」


「大丈夫です。私は平気です。若様はどこにいたんですか?」


「あの人たちと戦ってる間、猫ちゃんが私をあの隅に連れてってくれたの」


「よかったです、無事で。それで猫は?」


「どこかへ行っちゃったわ。きっと飼い主のところへ帰ったんでしょうね」


 璃々緒は事件に呆然としている遊女のところへ歩み寄った。


「あの男、いくら借りてたの?」


「あ……えっと、二万八千文よ」


「これ」彼女は財布から一部の金を遊女に渡した。


「ちょっと!! あいつに払う必要ないわ……」


「まあ……今あいつから取り立てても金は戻ってこないでしょう。この分をもらって、後で残りをあいつから取り立てればいいじゃない」


「……ありがとう」


 その時、二人は風が強くなったことに気づいた。周囲の空気が一変した。先ほどまで彼女たちを見ていた人々が、今は後ろの方に視線を移した。


 強い風が桜の花びらを舞い上げた。人々は一斉にその方向を見つめ、徐々に近づく足音が聞こえた。


 璃々緒は本能的に振り返り、彼女を見た。


 彼女は少女でさえ息を飲むほどの美しさだった。見とれて恋に落ちたくなるほど。前に会ったことがあっても、まだ慣れない。


「まったく……何か大事件かと思ったのに、またいつものことか」


 彼女は装飾品と高価な品々で埋め尽くされた駕籠に乗っていた。牡丹の花模様の紫紅の着物は威厳と富を示し、蝶の模様は女性の美しさを表していた。長く巻かれた髪、柔らかな顔立ち、白い肌——すべてが彼女を完璧にしていた。


「この騒ぎを起こしたのはお前たちか?」


 璃々緒は驚きのあまり言葉が出なかった。姫子が代わりに答えた。


「いいえ……あの男はここのお姉さんに金を払わず、殴ろうとしたんです。私の友達が彼女を助けたんです」


「本当か?」


 被害者の遊女が頷いた。


 彼女は指を二回鳴らして合図をした。四人の男が駕籠をゆっくり下げ、左側の褐色肌の少女(日本人ではない)が彼女の足に高下駄を揃えた。右側の金髪の巻き毛の少女(これも日本人ではない)が傘を持って彼女の後ろを歩いた。


「ならお前たちは悪者じゃないな……ここで何をしている? ここは女性が入りにくい場所だぞ」


「えっと……友達に会いに来たんです。彼女は禿です。ねえ璃々緒、何か言ってよ」


「璃々緒?」


 金髪の少女が不思議そうに尋ねた。


「えっと……ごめんなさい、若様。ちょっと間が抜けてて……あ! クロエね」


「璃々緒ちゃん本物だ!!!!!」


 璃々緒はクロエ(Chloe)と呼ばれる少女に飛びついて抱きついた。


「何よ!!! どこ行ってたのよ、一年ぶりじゃない! あの派手な兄ちゃんは?」


 彼女は外国人だったが、日本語はとても流暢だった。


「私は定住しないって言ったでしょ。しょっちゅう会いに来るのも大変だし、今は彼とは一緒に仕事してないから、最近会ってないの」


「知り合いなの?」


 女性が尋ねた。


「はい、太夫様。一年前、この子が友達とうちの店に来たんです。でも女性だったので店の前で待っていて、私が話しかけて友達になったんです」


 この子が璃々緒の友達? 私たちとは随分違うわね。女性は姫子の顔をしばらく見てから、二人の少女に指示した。


「昔話は後で。今はもう問題ないわ。マーベル、クロエ、店に戻って客の準備をしなさい。お前たち二人は少し私の店まで来てもらえる? 二人に話があるの」


 遊郭での喧嘩は珍しくなく、女性を巡る揉め事、酔った暴行、金を払わない客など、いつも仲裁で収まっていたが、今回もまた平穏に戻った。




 太夫の接客室は少し狭かったが、不知火夫妻の部屋より豪華で華やかだった。花の絵画が美しく飾られ、油灯が女性の後ろを照らし、畳がシンプルに敷かれていた。


「自己紹介が遅れて申し訳ない。私は杏里ノ崎(あんりのさき) 前(まえ)。見ての通りこの店の太夫です。金髪の子はクロエ、褐色肌の子はマーベル。二、三年前に私が引き取った子たちよ」


「はじめまして、姫子様」


「初めて会うけれど、よろしくね。璃々緒ちゃん、姫子ちゃん」


「うん!! こちらこそ」「こちらこそです」


 昨夜と同じ胸の高鳴りが蘇った。数日前まで親の枠に閉じ込められていた少女は、新しい友達に出会い、数日後にはまた新しい友達——今度は二人も——と出会った。


「では本題に入るわね。ピンク髪の璃々緒ちゃん、今、君の友達はどうしているの?」



 璃々緒はすぐに眉をひそめた。なぜこの太夫は自分の幼馴染のことを尋ねるのだろう。あの男がどれだけ彼女に色目を使おうと、太夫なら仕事と私事を分けられるはずだ。あるいは別の話だろうか。


「今は京都の近江橋のあたりにいます。彼は弟と私の母の面倒を見ていますが……どうして彼のことをお尋ねになるのですか?……」


 彼女は池田の居場所を偽った。この女性が江戸の有力者とどれだけ繋がりがあるかわからなかったからだ。そして彼女が「杏里ノ崎」と名乗り、茶屋の主人の反応が明らかに緊張したものだったことから、この街の実権を握っているのは彼女かもしれないと思った。


「どうやら彼の噂はかなり広がっているようね。私も少し心配しているのよ」


 璃々緒は横目で姫子が真剣に聞いていることに気づいた。少し考えてから、彼のことを話してもいいか判断した。彼女は雇い主の夫婦から「姫子との結婚の話は絶対に口外せず、彼女を完璧な妻として教育せよ」と厳命されていた。


 しかし「外へ連れ出すな」や「日課を怠るな」という禁止事項は元々家の掟であり、後に知ったことだった。社会の闇に関する話を聞かせるなという禁止はなかったが、隠しておいた方が無難だと思った。


「あの……若様」


「ん? どうしたの?」


「少しこの辺りを散策してみませんか? 吉原も浅草に負けないくらい華やかですよ」


 それを聞いた姫子の目が輝き、歩き出したくなった。マエはクロエとマーベルに二人を連れて店と吉原を案内するよう命じた。


「三人とも気をつけてね。正午までに戻ってきて。午後にお披露目の行列があるから」


「「はい、太夫様」」


「えっ! お披露目の行列って何? すごく豪華で華やかそうね」


「午後になったら見られますよ」


 三人は外へ出た。


「本当に良いお嬢様ね。でもまあ、巫女様だから当然か」


「そうですね……私も驚きました。でもそれより、池田に何があったんですか?」


 少女の声が急に真剣になった。彼女は池田に家族を預けたままでは二人を危険に晒すだけだとわかっていた。それでも彼を信じていた。だからもし二人が何かあれば、本当に悪いのは自分だ。


「どうやら彼は突然、外国からの武器や品物の販売をやめたらしいわ。日本の有力者たちがみんな困っているのよ」


 璃々緒はマエの言葉に言葉を失った。池田を長く知る彼女は、彼がいつも自分の好きに生きる男だと知っていた。何度も危険なことに首を突っ込み、彼女が注意してもあまり聞かない男だった。


 しかし今回は急に彼女の警告を聞いたようだ。彼女は彼の決断に奇妙な違和感を覚えた。できれば今すぐ本人に聞きたいと思った。


「今、有力者や関係者たちは動いていますか?」


 マエは首を横に振った。


「まだ彼らはそれほど困っていないわ。でも一番困っているのは青山家よ。君もわかっているでしょう? これから何が起こるか」


「はい……」


「それなら……私に手伝わせてくれない?」



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