第8章 : 更屋敷 璃々緒 2
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「ううん……どうして朝からこんなに暑いのかしら」
姫子は今、言葉にできないほど満ち足りた気持ちで、少し驚いていた。いつもなら朝起きると眠気が残っているのに、今日は違った。
普段は側仕えが朝に起こしに来て日課を始めるのだが、璃々緒はそれをすっかり忘れていたようだ。
「……やっぱり朝なのに妙に暑いわね」
今日は生まれて初めて遅く起きた。
「まずい」という言葉が頭に浮かんだ。彼女は守護する神々に手を合わせ、父と母が家にいないことを祈った。そしてそれは叶っていた。幸運だったと言える。
ちょっとあの子をからかって起こしてやろうかしら?
「昨夜は私を驚かせてくれたわね。お返しをしてあげないと」
少女は楽しげな笑みを浮かべ、ベッドから降りようとした。すると足に何か異様な感触があった。まるで何かが足に絡みついているようだ。姫子はしばらく固まり、ゆっくりと下を覗き込んだ。
すると突然、ベッドの下から頭が飛び出した。
「ひゃあっ!!!!!!」
「わあああああっ!!!@#$$#^@$#^%#^#^#^#^@!!@#&*^*#^*#**!!!!!!!!」
璃々緒は頭を出した途端、狂ったように大笑いした。姫子は驚きのあまり逃げようとして転び、部屋の隅でお尻を着地させた。
「はあっ……はあ……璃々緒、何てことするのよ!!!」
「挨拶ですよ……つまり、おはようございます、って」
「おはようございますのバカ!! 私はもう幽霊に連れていかれるかと思ったわ!!!」
「でもここはお寺ですよ。幽霊は入ってこれません。お坊さんに勝てませんから」
姫子は璃々緒を恨めしげに見つめた。璃々緒は平然と目を細めて笑っていた。
「次は……私が絶対にあんたを恥ずかしい目に遭わせてやるわ」
「まあ……可愛い、じゃなくて怖いわね。楽しみにしてますよ」
璃々緒はからかうような笑みを返した。姫子は拳を握りしめ、璃々緒を捕まえようと走り出したが、彼女は素早く逃げてドアの方へ向かった。
「おやおや、意外と速いんですね。てっきり家に閉じこもって運動不足かと思ってましたよ」
「止まりなさい! おとなしく捕まりなさい!」
「それじゃあ私が困りますよ。でも捕まえたいなら、追いついてみてくださいねー、べーっ」
璃々緒は右目をウィンクさせ、舌を出して可愛らしくからかった。
「こっちに来なさいよ!!!」
「捕まえられるものなら捕まえてみてください!!!」
二人は家の中を駆け回り、追いかけっこをした。十分ほど経った頃、使用人頭の七波が璃々緒の後頭部を軽く叩き、台所へ連れて行って叱った。
璃々緒はボロボロになりながらも、引きずられていく最中に姫子に向かって親指を立てて笑った。
姫子は一人で午前の浄めの儀式を行うことになった。本来、浄めの儀式は一人でもできるが、正しく行うためにはもう一人と一緒にするのが望ましかった。
その役割を担うはずの者は、すでに連れていかれてしまった。
祈りを唱えながら、彼女は先ほどの出来事を思い出して集中できなかった。姫子は儀式の広間で小さく笑い、こんな時にこんな気持ちになることに少し罪悪感を覚えた。
「祈りを一回か二回サボったくらい、きっと大丈夫よね」
儀式は思うように進まなかった。彼女は定められたこととは違うことを試してみることにした。
「私は自分に誓ったの。自分の心のままに生きてみるって」
彼女は再び拳を握りしめ、桶の水を頭からかぶった。水が全身を濡らした。
「父上と母上が帰ってくるまで、まだ時間はたくさんあるわ。この間は璃々緒と遊ぼう」
彼女はもう一度水を頭からかぶった。
「糸繰り遊びをしようか、それともまた追いかけっこをしようか、それともあの子の本の読み聞かせを聞こうか」
頭の中には、これまで考えたこともないような遊びのアイデアが次々と浮かんでいた。
そして彼女は桶の水をすべて頭からかぶった。
ぐううううううう……
腹の音が大きく響いた。
「遊ぶ前に、まずはお腹を満たさないと」
結局、二人はその日、夕方まで浅草を冒険した。
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約一ヶ月後、江戸のとある豪商の屋敷。
「夏が近づくと、茶葉が惜しくなってくるな」
「もっと財産を有効に使うことをお考えになると思っていましたよ」
「ははは、身分のある者の性というものだよ、不知火殿」
二人の男が裏庭で茶を飲みながら談笑していた。一人は哲近、もう一人は品の良い老紳士だった。
「それで……長崎の商売の方はいかがですか?」
「いつも通り順調だよ。ところで、そちらの令嬢とうちの長男の縁談の件だが、いつになったら式を挙げられるのかね?」
老紳士が催促するように言った。哲近は茶を一口飲んで答えた。
「前にも申し上げた通り、もう一年だけ待っていただきたい。娘はまだ息子さんの妻となる準備ができていないのです。九年も待ったのだ、一年くらい待っても構わないでしょう?」
哲近はいつものように言葉をかわした。
「ははは、まあいい。念のため聞いてみただけだ。江戸の豪商の家は今、息子ばかりで、娘がいる家は少ない。特に長野家などはなおさらだ。時間が経てば経つほど、色々と面倒になる」
老紳士は茶を飲みながら続けた。
「ところで……そちらの寺の商売の方はいかがかな? 最近は順調に成長していると聞くが」
「……まあまあです」
「素っ気ない答えだな……何か隠しているのかね?」
老紳士の声にからかうような響きが加わった。哲近は相手が自分を疑っていることを察した。彼はこれまで儀式や教団のことを外部の者に一切話していなかった。この豪商にも、将軍や幕府の者にも。たとえ知ったとしても、彼らはこの教団を本物だと信じ、深く帰依するだろう。
誰かに何をしているのか聞かれたら、彼は「私は僧です」とだけ答え、それ以上の詳細を正確かつ迅速に答え、誰も裏の事情を疑わないようにしていた。
彼と妻の直美は、信者たちに「このことを決して外部に漏らしてはならない。神は関係のない者が関わることを望んでいない」と脅しをかけていた。老いた信者たちはそれを信じ込み、結果は今見ている通りだった。
「隠すなど……何をおっしゃいます。私はそのようなことはいたしませんよ」
哲近は最も穏やかで謙虚な態度で答えた。老紳士はそれを見て笑った。
「そういえば……最近、商人たちの状況もかなり混沌としてきているようだな」
哲近は話題を変えて話を切り上げようとした。
「ええ……特に地下の商人たちが。どうやらその大物が突然、武器や外国からの禁制品の販売をやめたらしい」
「私は表の商人たちのことしか知らないが、地下にも問題があるとは思わなかった」
老紳士が再び茶を飲もうとしたが、空になっていた。哲近が新しい茶を注ぎながら、彼は長い煙管を取り出して火を点けた。
「地下の商人たちの中で、外国人に我が国の条件を飲ませられる交渉力を持つ者は彼しかいなかった。ところが急に売らなくなった。今、大名や地方の者たちが困っている」
「捕まったわけではないのでしょう?」
「ふん……馬鹿なことを。奴はただの派手な口の商人だが、身の守り方は本物だ。口だけではない」
哲近は老紳士が怒りを抑えていることに気づいた。
「まるでよくご存知のようですね、青山殿」
哲近は僧侶らしくない軽い調子でからかった。
「当然だ。あのガキは私の息子だからな」
現在の青山家当主、**青山 雷**(あおやま いかづち)はそう言った。彼には二人の息子がいた。長男は明一、次男が池田だった。
当初の計画では池田を姫子の婚約者にするとしていたが、池田が家出をしたため、長男の明一に話が回った。
時代的に言えば、次期当主は長男の明一がふさわしかったが、青山家は商人の家系で、明一は頭が悪く武士の道を選んだ。後に将軍直属の旗本となった。
雷は五歳の頃から口が達者で交渉上手だった池田に家督を継がせるつもりだったが、池田は商人の一人と家出して馬込宿へ行ってしまった。
一族の権力はゆっくりと崩れ始めていた。雷が死ねば終わりだ。彼の後を継いで商売を続けられる者がいなければ、日本経済の四十二パーセントが崩壊する。
権力を維持する唯一の方法は、長男を同格の豪商の娘と結婚させ、両家の残りの血族で商売を支えることだった。
もちろん親族に経営を任せるのは、事業を早く潰したいと思っているようなものだが、他に方法がない。外国人にさえ条件を飲ませられる交渉の天才が忽然と姿を消してしまったのだ。
雷は何度も日本中へ人を送って池田を探したが、見つからなかった。
一時期、長野家(後の明治四大財閥の一つ)に銃を売っていた時も、浅草で姿を見かけていたはずなのに、見つからなかった。
実際、彼は苗字も名前も隠していなかった。むしろ派手に名乗っていたため、周囲がうんざりするほどだった。それでも見つからない。
彼を日本のルパンと呼んでも過言ではないだろう。
「正直、もう探すのは諦めたよ」
「……」
哲近は黙っていた。この話題はデリケートだった。迂闊なことを言えば何が起こるかわからない。
「今日は夕方までいらっしゃいますか? 食事の支度をさせましょう」
「いや、午後には帰るよ」
「……そうですか」
同じ日の午前十時頃、町へ入る道。
「どこへ行くの、璃々緒? 急に私を連れて歩き回って……もうずいぶん歩いたわよ」
「ごめんなさい、若様。お友達に会いたくて。一年前、私がまだ荷運びをしていた頃に一度だけ会ったことがあるんです。ちょっと挨拶だけでもと思って」
「璃々緒って友達が多いのね」
姫子は少し羨ましそうに言った。
「そんなに多くないですよ。本当に友達と言えるのは数人だけです」
璃々緒は少し疲れた顔で言った。
「その友達って、どんな人?」
「うーん……素直でちょっと不器用だけど、頭が良くて博識で、とにかくいい人ですよ」
「ただ聞いただけじゃ想像できないわね。その子がどんな人か」
道を歩き続けると、竹の高い柵に囲まれた門が見えてきた。門の前には二人の男が立って見張りをしていた。




