第2章 : 青山姫子 2
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「さあ!! おやつが欲しい子は誰かな……」
「わーい!!!!」
慶応四年、XX月XX日。
穏やかな草原と清らかな川に囲まれたこの村は、正式な名前はない。しかし東京国立博物館に残る記録によれば、江戸時代後期の伝説として語り継がれている——「お菓子売りのおばあさんの村」という、どこか可笑しみのある伝説だ。
あまり知られていない名前ではあるが、当時は生き生きとした伝説として大変な評判で、江戸が開国圧力に晒されている最中にもかかわらず、当時の幕府が村に調査の手を伸ばすほどだった。
そして今も息づいているその伝説の主の名は、青山 姫子。
年齢は五十二から五十八歳ほど。性格は無邪気で子供好き、甘いお菓子を作っては子供や村人に振る舞い、村人の面倒を常に看る。時には村の外から来た旅人や遠方の人々をも助け、村人たちから密かに村長に推挙されたが、本人はその地位をあまり好まず、自然と非公式の村の代表のような存在となっていた。
彼女は四人の家族と一匹の猫と共に暮らしている。姫子は二十六歳のときに夫である池田と結婚した。彼はかつて浅草で土産物屋を営んでいたが、何らかの事情で姫子と共にこの村に移り住み、職業を落語家(一人で語る芸)に変えた。
二人の間には一人の娘火花がおり、彼女は後に元武士の栄原と結婚し、舅の助手を務めながら、仕事のない日は鉄を鍛えて武器や農具を作ったり、物や家屋の修理をしたりしている。
さらに一人の孫娘春菜がおり、今年で八歳になる。そして九歳の白い虎縞の丸々とした猫 隠岐がおり、二人は非常に仲が良い。姫子はいつも「まるで本当の兄妹のようね」とからかうのを忘れない。彼女の人生は実に簡素で、羨ましいほどだった。
「今日はおばあちゃん、どんなお菓子があるの!?」
近所の男の子が聞いた。この家にはいつも近所の子供たちが遊びに来る。
大人たちの休みの日ともなれば、なおさら賑やかになる。
「小豆の団子よ。みんなが好きだって言うから、たくさん作っちゃったわ」
「へえ……じゃあもらうね」「僕も!」「僕も!」
「ちょっと!! 全部持って行かないでよ! 待って!! お母さん!! 春菜まだ食べてないよ! ねえ!! お父さんも、おじいちゃんもう四つも食べたよ」
「まあまあ、まだ二つ残ってるでしょう」
春菜は目を輝かせて喜び、残りの二つの団子を素早く手に取った。
その瞬間——
「えっ……」
姫子は超人的な速さで、その二つの美味しそうな団子を奪い取った。
「おばあちゃん!! ひどい!!」
泣き出しそうな孫娘の顔を見て、姫子はいたずらっぽく笑いながら言った。
「早い者勝ちよ、坊や」
春菜が泣きそうになると、火花が素早く慰めた。
「お母さん、春菜をからかわないでくださいよ」
「からかってなんかいないわ……」
孫娘が本格的に落ち込む前に、姫子は台所へ行き、新しく作った団子の盆を持ってきた。
「みんなが大好きだって知ってるから、たくさん作ったのよ!」
すると泣いていた春菜が、母の腕から飛び出し、盆ごと団子を掴み取った。
「ちょっと! それはみんなの分だよ」男の子が言うと、春菜は舌を出した。
「早い者勝ちよー、べーっ……」「春菜!! それはおじいちゃんの!!」「ふんっ!! 追いつけるもんなら追っかけてみなさいよ、隠岐!!」「にゃー!!」
「年寄りが子供たちに追いつけるわけないでしょう!!」
姫子はこれから起こる大騒ぎを察知し、すぐに孫を追いかけて走り出した。
「お母さん!!! 腰を痛めますよ!!!」
「まだまだ老いぼれじゃないわ!! それに、美味しい団子がなくなっちゃうでしょう!」
その言葉を聞いた池田も走り出し、遊びに来ていた子供たちも続いて走り出した。
「栄原!! 娘の前を塞ぎなさい!」
栄原が走り出そうとした瞬間、妻の殺気立つ視線に阻まれた。
古い諺にもある——「妻に逆らうな。妻には必ず勝てない」。
「僕は……遠慮しておきます」
「良いものを逃したな!!!!」
皆が全力で団子を取り戻そうと走る。村人たちはその様子を見て微笑ましく思い、中には団子をこっそり盗む者までいた。実に滑稽で愛らしい光景だった。
青山家の日常はこうして四十年もの間、賑やかで騒がしく、しかし皆で笑い合って続いてきた。
子供のように振る舞う祖父と祖母、何度も戦をくぐり抜けたのに妻に弱い父、口うるさい母、いたずらっ子の孫娘、そして白いガス缶のような丸々とした猫——新鮮な魚のすり身を好み、孫娘と一緒に駆け回る。
これは、かつて身近な人から失ってしまった理想を、老婦人と愛する夫が作り上げたものだった。
人の人生は簡単ではないが、幸せを作ることはできる。老婦人はそれをずっと証明したかった。
そしてそれは叶った。小さなことのように見えて、大きな報酬——それが「平穏な幸せ」という名の報酬だった。
やがて春菜は村の花園の入り口にある桜の木の下で走るのを止めた。
今は春、桜は満開で、園の花々も咲き始めていた。
「はあっ!!!!! 死ぬかと思った……」
「本当だよ!! おばあちゃん、本当に追いついてきたの!?」
「これを『老人の反射神経』と言うのよ。あ、でも私はまだ老いていないわ」
「もう……お母さんに何度言えばわかるの? あんな風に走らないでって」
遅れて来た火花と栄原は、道の真ん中で息を切らして座っている池田を支えた。栄原は娘がどこへ行くか知っていたらしく、敷物と魚のすり身を持参していた。子供たちは団子を食べながら美しい自然を楽しみ、猫は好物の魚に夢中になっていた。
「すまない……つい夢中になってしまった。子供たちがあんなに走るのを見て、昔友達と遊んだ頃を思い出してね」
「お母さん……もうあの話はしないって約束したでしょう」
「……年を取ると、つい忘れてしまうのよ」
その話をよく知る池田が、気まずい会話をすぐに切り上げた。
「まあまあ、過ぎたことだ。今は孫たちと団子を食べて、花畑を眺めようじゃないか」
しかし彼は知らなかった。その花畑こそ、妻が決して忘れられない記憶の場所であることを。
知らぬことは罪ではない。姫子は娘と婿と孫娘にいつもそう教えてきた。夫があの日の記憶を知らない以上、彼女は少女の頃からそうしてきたように、静かに胸にしまっておくことを選んだ。
「春菜、おじいちゃんの団子は?」
「えっと……もうなくなっちゃった」
「はあっ!!! どういうこと!! 今すぐ返しなさい」
「池田さん……子供たちの腹を全部探って!!」
「まだ座ってる場合じゃない、走れ!!!!」
栄原が叫ぶと、子供たちは再び走り出した。
「お父さん!! あんなに走ったらまた息切れしますよ……はあ……言うこと聞いてくれないんだから」
そう注意しても皆はまた追いかけっこを始めた。火花は額を押さえた。
「あなたも、お父さんとお母さんを少し注意してあげて。お母さん一人じゃ手に負えないわ」
栄原は心配性の妻を優しく微笑んで慰めた。
「君は考えすぎだよ。二人はただ、去る前に人生を精一杯楽しみたいだけなんだ」
「でも二人の体はもうそれを許してくれないのよ。あんなに勢いよく走れるのはいいけど、いつか春菜たちと一緒に走れなくなったら……」
「……」
「私はただ、二人が少し休んでほしいだけなの。この年齢なのに、まるで子供みたいに……」
若い女性は止まらずに話し続けた。
「毎日働いて、体がもう持たないのに、助けが必要な人をあちこち助けて、家で寝てるべきなのに」
「私は……ただ、二人が長く一緒にいてほしいだけなの」
お母さん! だからそんなことしないでって言ったでしょ
お父さん! 屋根の修理は自分でするなって何度言えばわかるの
もう二人とも! 今日は何もするんじゃないわ。外に出るなら遊びに行くか休むだけよ
「何度も何度も言ってるのに……どうしてわかってくれないの」
火花は、老いた両親はもう座って休み、自分と夫が皆の面倒を見るべきだと思っていた。だから母と口論になることが多かった。もちろん、母が人を助けたり子供と遊んだりすることを嫌っているわけではない。むしろ二人がまだ元気に子供たちと遊べることを嬉しく思っている。ただ、
彼女はただ心配なのだ。いつか、村の人々に愛される優しい老夫婦が、目の前からいなくなってしまうことを。
その日が来たとき、皆の笑顔と幸せが今のように保てるのか——それが怖いだけだった。
だからこそ、二人が自分を大切にしないことが気に入らなかった。
村の人々が今日あるのは、二人のおかげだった。二人がまだ若かった頃、この村に移り住んだ時から村人たちに助けられ、二人はその恩を返し続け、互いに敬意を払い合ってきた。
火花はだから、二人が無理をしないようあらゆる手段で止めようとするが、二人の頑固さはご覧の通りだった。
「君の気持ちはよくわかるよ……」
優しい夫は妻の頭をそっと撫でた。心配性の妻は、その温かな手に少しだけ気持ちを和らげた。
「でも二人はただ、今できることをしたいだけなんだ。君はまだ気づいていないかもしれないが、父さんと母さんは、君と俺に余計な心配をさせたくないんだよ。きっと、ただ座って君に何もかもやってもらうより、自分たちで動いた方がまだましだと思ってるんだろう」
「……そう、なのかしら」
火花は夫の肩に寄りかかり、父と母が孫たちと遊ぶ姿を、少し変わった気持ちで見つめた。
「……ねえ、火花」
「ん?」
「私たち、春菜に弟か妹を作ってあげない?」
「……バカ」
夕方になり、走り回って疲れた皆は、村の商店街にある銭湯へ揃って入浴しに行った。
当時の銭湯は、三畳ほどの広さの部屋で、男女が一緒に体を洗う場所だった。江戸時代前期・中期は体を洗って蒸し風呂に入り垢を落とすものだったが、百年ほど経つと衛生のために湯に浸かる形に変わっていた。
もちろん彼らだけではなく、村の人々も利用していたが、この村には銭湯が複数あったおかげで、竜亀の湯は比較的空いていた。
**青山**家一同は、熱い湯に浸かり、一日中走り回った疲れを癒した。
最初、姫子は今日遊びにきた子供たちも連れて行こうとしたが、口うるさい娘にすぐ叱られ、渋々子供たちを帰した。
「体をちゃんと洗ってからお湯に入るのよ」
「はーい……お母さん」
——彼らは、私たちに余計な心配をさせたくないだけなのよ。
その言葉が、火花の胸にずっと残っていた……自分がしてきたことは正しかったのか、と。
例えば、子供があることを学びたいと言ったとき、親が「役人になるために法律を学べ、将来のためだ」と言ったら、あなたならどうするだろう?
もちろん、好きに学べと言うだろう。しかし、好きなことが無意味だったら? 自分にとって良いと思っていたことが、実は自分や他人に害を及ぼすとしたら?
好きなことは生活の質を上げないが、時には幸せを与える。
嫌いなことは生活を良くするが、幸せは与えない。
池田と姫子は、自分たちはもう年で死に近いと考え、家族が幸せなら自分たちがいなくてもいいと思っていた。
しかし火花は、父と母が自分の目の前からいなくなることを望まなかった。できれば永遠に一緒にいてほしい。二人にはお菓子を作って村人に配り、子供たちと走り回ってほしい。そしていつか、成長していく春菜と一緒にいる二人を、ずっと見ていたい——それは叶わない願いだった。
人はそれぞれ考えが違う。父は彼女が子供の頃、よくそう言っていた。
火花は姫子の隣で体を洗いながら、心の中でたくさんの言葉を溜めていた。
「お母さん……」
「なあに?」
「あの……ちょっと聞きたいことがあるの……」
しかし問いかけようとした瞬間、後ろから声がした。
「あら! 姫子さんじゃないの……まさかあなたも一緒に湯に入るなんて思わなかったわ」
「ちょっと待ってください、七波さん……もう『お嬢様』なんて呼ばないで。私は毎日ちゃんと湯に入ってますよ!!」
「はは、冗談よ冗談。元気ね、火花ちゃん」
「こんにちは、立山さん」「さあ、早くお湯に入りなさい。他の人が待ってるわ」「わかったわ、じゃあね」
陽気な老婦人は手を振り、もう一方の湯船へ向かった。
「今、何か言おうとしてた?」
「……いいえ、何でもないわ」
結局彼女は聞けず、心に溜め込んだ。
聞かなくても、深くでは自分が今までしてきたことが間違っていたのかもしれない、と感じていた。
熱い湯に浸かることは、優れたリラクゼーションの一つだという。しかし火花は考え続け、熱い湯が彼女から安らぎをすべて奪い去った。
父と母に、去る前に精一杯生きさせるか、
危険なことをさせず休ませて、長く一緒にいるように見守るか——
火花にだって、選べるはずがなかった。
皆が幸せだった……ただ、それがいつまで続くのかだけだった。
笑い声と賑やかな会話の中で、火花は少し離れたところから皆を見つめていた。
結局、彼女は覚悟するしかなかった。
いつか、来てほしくないその日が、必ず来ることを。
たとえそれがどれほど痛くても。




