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【完結】神の依り代である私が、幸せで平凡な生活を味わい始めたのは、特徴的なピンク色の髪をした少女と出会ってからのことでした。  作者: Sakusaku


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第15章 : 更屋敷 璃々緒 エピローグ

 

 同じ頃、宮島家の屋敷。


「此の夜更けに呼び出して申し訳ない、蕾殿。恵美のことでまだ悲しんでおろうが……」


 片桐が更に語らんとする前に、蕾は手を上げて制せり。


「謝るには及ばぬ……恵美は己が為すべきことを決めた。我らは我らの務めを果たそうではないか。然りか、安里ノ崎……」


 右の席に座すは、吉原一の美しき遊女であり、今や不知火と青山のすべてを知る大いなる家柄の者なり。姫子が拉致されたと知るや、彼女は片桐に不知火の情報を伝え、両家と手を組み、不知火を滅ぼさんとせり。


「無論……今、マーベルとクロエに逃走用の荷車を用意させ置いた。片桐殿の諜報によれば、七海……使用人は十余名ほどじゃ。一台の荷車で足りよう」


「はい……今回、使用人どもと姫子ちゃんは関わりなしと判断した。故に、事が静まるまで隠れられる場所を用意した」


「我は長野の威光にて青山を抑え、あの者どもに手を出させぬようにせねばな」


「さて……我らの計画は順調じゃ。残るは……皆が無事に逃げ出すのを待つばかり」




 璃々緒は使用人どもを閉じ込めた扉を破りし。夫婦二人が机と箪笥を引きずって塞いだようじゃ。璃々緒は常人より強き体躯にて容易く引きずり出し、されど今は何処へ行きたるや知れず。


「璃々緒!!!」 「璃々緒だ」 「うう……璃々緒ちゃん……」


「皆、無事ですか……」


 誰も傷つきし者なきを確認し、彼女は皆を裏門へ導き、無事に連れ出せり。されど予想外のことが即座に起これり。


「七海殿……七海殿はどこですか!!!」


 璃々緒は目をきょろきょろさせ、七海を探せど、見えぬ。


「…………」


 使用人どもも七海の行方を知らぬ。彼女は水桶を取り、裏の井戸の水を汲み、体に浴びて濡らし、再び中へ走り入りぬ。


「璃々緒!!!! なぜ戻る!!!?」


 姫子は先ほどの璃々緒の叫びを聞かざりし様子にて、追わんとせり。


「この馬鹿!! 死にたいのか!!!」


「妾は中へ戻らねば!!!」


「そなたが火に焼け死ねば、璃々緒がそなたを連れ出した努力はすべて無駄になる!!!」


「うぐっ……」


「皆!!!!!」 そのとき、マーベルが裏の森より走り出でたり。


「マーベル!?」 姫子はマーベルが此処にいることに驚きしも、問う間もなく、マーベルは先んじて言いぬ。


「早く森へ走れ!! 今、逃走用の荷車を用意してある」


 されど皆は走らず、立ち尽くせり。


「すまぬ……七海殿が出てこぬ限り、我らは行かぬ」


「さよう……家族が出てこぬなら我らも行かぬ」


「皆……」


 姫子は池田の手を固く握り、広がる炎を見つめたり。木々の葉に雨の滴が落ち始めぬ。




 中にて……璃々緒は七海がいそうな部屋を走り回れど見えず……やがて一室に入らねばならぬ気がして、夫婦の寝室の扉を開け、七海を見つけた。彼女は大きな袋に金を詰めており、夫婦二人が傍らに立ちし。


「璃々緒!!!」 七海は璃々緒を見て駆け寄り、直美は鞭を振るわんとせしも、璃々緒の刀の一閃にて鞭は二つに断ち切られ、七海は璃々緒の背後に逃れぬ。


「直美……あれを持て」


 璃々緒は嫌な予感を抱き、七海に裏門へ走れと囁けり。


「七海殿!!!!!」 「嬢様!!!! 出てきました」


 姫子は七海を見て駆け寄り抱きつき、心配げに問う。


「璃々緒は!?」


「…………今、璃々緒は……」


【父母を相手取っておる】


 璃々緒は今、刀を固く握りし……夫婦二人もまた刀を手にせり。


【あれは刀か……見えぬ】


「貴様ら……なぜ此のようなことを為し、なぜ己が娘を此のような儀式に引きずり込んだ」


「娘?」 二人の感情は幾分冷め、語れる様子なりき。


「其のようなものはただの労働力……娘などではない」


 姫子を生みし母・直美は言いぬ。


「は?」


「正直に言えば、耐えうる程度じゃ。そして何より、直美の子宮があれば此のようなものはいつでも作れる」


 姫子の実父・手近谷は言いぬ。


「は?」


「我らはただ、寺や祭りの煩わしさから逃れ、穏やかに生きたいだけじゃ。故に去る前に、少し金を持っていこうと思う」


 直美は満面の笑みを浮かべて言いぬ。


「本当はあの娘を殺したかった。内臓——腸、心臓、肺、肝臓——外の者どもは高値で買うというからな」


「殿……本当は死体ごと売るのではありませぬか?」


「ああ……忘れておった……」


「は?」


「故に我らには最初から娘などおらぬ。其のように呼んだのは、そなたたちが我らの計画を知るやもしれぬゆえじゃ」


「はあ……青山と約束してしまったか……あの娘を踏み潰して殺せぬのが残念じゃ」


「殺したければ言えばよい。隠す必要などない……」


「死すべき……」


 夫婦二人は璃々緒を睨み、彼女は刀をより固く握れり。


「人非人の貴様らこそ死すべきだ!!!!!!」


 璃々緒は夫婦二人のもとへ飛びかかり、殺さんとせり。此のような者どもを逃がせば、次に死ぬのは自分たちじゃ。たとえ公儀に訴えても無駄。此の者どもは幕府に繋がりあり。


 璃々緒は直美に迫り、胸を突かんとするも、刀の先が届かぬうち——


 パンッ!!! 乾いた音が炎の中で響き、璃々緒は己の脇腹に小さな硬き物が激しく突き刺さるのを感じたり。音の元を見れば、夫婦二人が持つは刀にあらず、火縄銃なりき。


「きゃああああああああああああああ!!!!!」


 叫び声が辺りに響き、璃々緒の脇腹より血が止まらず流れ出でたり。


「うぐっ……あ……」


 彼女は手にて傷を押さえしも、血は止まらず。


「ほう……幸運じゃな。我らがあの青山の小僧が武器を売るのをやめる前に此の銃を買っておいて」


「さよう……あの娘を的に撃つために買っておいてよかった」


「されど撃てなんだが、まあよい。今撃てた……はは」


 璃々緒は傷を押さえしも血は流れ続け、直美は耐えきれず左腕に銃を突きつけ、撃ち放ちぬ。


「きゃああああああ!!!!!!」


 少女の呻きは炎の音より大きし。直美と手近谷は熱き銃口を璃々緒の傷に押し当てたり。


「あ……う……ああ!!!!……きゃああああああ!!!!!」


 璃々緒は言葉にならぬ叫びを上げ、身をよじり、息をすることすらできぬ。されど夫婦二人は悠然とし、手近谷と直美は次なる弾を込めんとする。火縄銃の装填は火薬を入れ、布を詰め、弾を入れ、火を点ずる。此の部屋のその位置は火がまだ広がらず、急がず装填でき、火縄銃の射程は短しと雖も、至近距離ならば痛みの程を語るまでもなし。


 されど璃々緒は銃について少し学んだれば、二人の弱点を知れり。


 彼女は近くの燃ゆる木片を掴み、手にて持ち、夫婦二人のもとへ投げつけたり。


「わああああ!!!!!」


 二人は驚き、火薬の袋を落とし、火に触れて爆ぜ、宿坊の一部が崩れ落ち、直美は逃れきれず爆風をまともに受け、顔に火が移りぬ。


「きゃああああああ!!!! 取れ!!!! 取ってくれ!!!!!」


 極限の危機に、アドレナリンが璃々緒の体を満たし、彼女は炎の中の刀を掴み、直美の心臓を突き刺し、顔の火をそのままにせり。


「これは皆のための」


「この淫乱め!!!!!!」


 手近谷は銃身にて璃々緒の顔を殴らんとせしも、遅かりき。


「そしてこれは姫子のために」


 璃々緒は超人的な速さで刀を引き抜き、銃を払い、手近谷の首を斬り飛ばし、首は炎の中へ落ち、血が噴き出し、部屋は血の雨に覆われし如し。


「はあ……はあ……」


 そして彼女は気づけり——すべてはアドレナリンの最後の力のみ。実際、体は瞬き一つ、息一つするにも死ぬほどの痛みじゃ。


【必ず戻ってきて……】 【我はそなたを信じておる……】


 されど……彼女は約束を違えるわけにはいかぬ。されど今、璃々緒は歩くこともできず、目も血を失いすぎて見えぬ……


「此処まで……か……」




「火が更に広がった……」 「先ほど何か崩れる音がした……」 「それに爆音も」 「まさか……」 「ない!!……ありえぬ」


「璃々緒は大丈夫……信じよ、姫子……あの娘は強い」


「池田殿……」




 璃々緒は入ってきた扉の方を見やり……今や火は部屋中に広がり、爆風にて木材が崩れ落ち、這い出しても木材に阻まれ、外は岩だらけで逃れられぬ……故に選択肢は……


「約束を守れなくてすまぬ……」 【嬢様も知っておる、妾は嘘などつかぬ】


「本当に此処までじゃ」 【我はそなたを信じておる……】


「戻れなくてすまぬ……妾は此処までじゃ」 【あの仕事をやめられるならやめよ。家に戻ってこい。な、姉上】


 璃々緒は隠し置きたる爆薬の瓶を数個取り……すべてを眼前の炎の中へ投げ入れぬ。


「…………此の後、幸せに生きよ、姫子」


【故に、可能ならばずっと守ってやってくれぬか……】


 光が視界を覆い……そしてついに……痛みは忽然と消え……何も感じなくなったり。


 沙羅屋敷 璃々緒にとって——己を大切にしてくれた者が幸せであれば、それで十分なりき。


 爆音が辺りに響き渡り、使用人どもと対岸の村人どもは急ぎ後退せり。状況が急変し、皆はただ立ち尽くせり。


 皆は一つの点を見つめ……彼女が逃げ出せんことを願いしが、其のような奇跡はありえぬ。彼らも知りつつ。


「…………嘘じゃ……教えてくれ、これは嘘じゃと……」 幸せを願った少女は、今ただ炎を見つめたり。


「璃々緒!!!!!!」 彼女は中へ走り入り……まだ生きておることを願い。


「入るな!!!!!」 池田は彼女を引き留め 「嬢様、入ってはなりませぬ!!!」 「入ってはなりませぬ!!!」


「放せ!! 放せ……璃々緒を助けねば!! 放せ——」 言い終えぬうち、池田は手刀にて其の首を打ち、彼女は気を失えり。


「こら!!!! 後ろから人の声がするぞ!!!!」 「追え!!!!」


 今や村人どもは彼らが裏にいることに気づきし。


「早く!! 裏へ走れ……」 どれほど悲しくとも、逃げねばならぬ。


「皆、森の奥まで走れ! 其処にクロエが待っておる!」


 そのとき、雨が降り始め、次第に強くなり、爆風の炎を消し始めぬ。皆は四散せしも、目指すは前方のみ。池田は姫子を抱き、遅れ、最後に群れから離れ、走り続け、森に囲まれた開けた場所に出で……足を止めたり。


 彼の前に、一人の武士が馬上に座し待ちおり……池田のよく知る者なり。


「池田……」 明一は彼の名を呼び、激しく降る雨の中で。



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