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【完結】神の依り代である私が、幸せで平凡な生活を味わい始めたのは、特徴的なピンク色の髪をした少女と出会ってからのことでした。  作者: Sakusaku


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第14章 : 青山池田 2

 

 不知火見性寺にて、少女の叫び声が響き渡り、此のままでは彼女は息絶えるであろうと思わせたり。


「もうやめてくださいませ!!!! 殿、此れは度が過ぎますぞ」


 手近谷は足にて七海の腹を蹴り、彼女を吹き飛ばせり。


「七海殿!!!! うぐっ!!!!」 直美は鞭にて其の背を打ち、顔を足にて蹴り飛ばし、今や其の美しき面影は跡形もなく消え失せたり。


「どこへ行っておったかと思えば、遊郭にいたとは!! 此のような者は生まれてこなければよかった。さすが淫乱の雌じゃ!!!!」


 手近谷は急ぎ其の腹を蹴らんとせしも、残る使用人どもが彼を押し留め、当然邪魔する者も皆傷つけられたり。


 言うなれば、彼らは今すぐ精神の医者を訪れ、治療を受けるべきじゃ。されど如何せん、その時代に精神の医者などまだおらぬ。


「殿……腹を強く蹴るのはおやめくだされ。子宮に障りが出れば、青山家が此の娘を娶らぬことになりましょうぞ」


 直美は夫を諫め、彼は苛立ちの表情を浮かべたり。本心では姫子を此処で殺し、終わりにしたきも、青山家と約束したれば、手を控えねばならず。


「嬢様!!!!!」


 やがて璃々緒が駆けつけしが、姫子と先輩遊女たちの有様を見て膝を崩したり。


「此の者ども……何という狂ったことを……う……おえっ……」 璃々緒は其の光景に耐えられず吐き出せり。


 手近谷は璃々緒を見て殺さんと飛びかかりしも、直美が先んじて其の髪を掴み、顔を強く何度も蹴り、彼女は気を失いかけた。


「璃々緒ちゃん!!!!!」 「逃げて……早く!!!!」


「此の者を牢に閉じ込めよ……此の者どもは後で始末する」


「はい……」 二人は姫子と璃々緒を担ぎ、牢へ連れ行き、使用人どもは姫子と同じく傷つき、呻吟するに任せたり。




 青山家の屋敷にて。今、雷は姫子を捕らえたとの手紙を受け取り、息子を呼び、来る一週間後の婚儀のことを話し合っておった。其の大事な話の最中、使用人どもの声が響けり。


「池田様!!!!!」 「お帰りなさいませ!!!!!」 「お待ちくだされ、殿は大事なお話を……入ってはなりませぬ!!!」


 扉が開き、母と共に座す雷と、向かいに座す兄・明一の姿が現れぬ。


「池田……」 「子よ……」 十一年来の帰宅じゃが、喜ばしきものでは少しもあらざりき。


「今更顔を出すとは……」


「黙れ、老いぼれ……貴様はただ、己が子の命を家名の栄耀の道具としか見ておらぬ。されば早く、姫子と兄上の婚約を解消せよ」


「池田……それは過ぎるぞ。あれは父上じゃ」 明一は立ち上がり、激しい怒りを露わにせり。


「兄上、姫子はただ道具として育てられたる一人の娘じゃ。そして今、父母に拉致され幽閉されておる。もし婚約を解消すれば、あの娘は……」


「すまぬ……我は父上と既に約束した……」


「何じゃと……」




「嬢様……嬢様……」


 姫子は初めての親しき友の呼び声にて目を覚まし、周りを見れば璃々緒の膝を枕に横たわり、此処は寺とは全く異なる場所なりき。


「…………此処は……どこ?」


「どうやら牢のようでございます……」


 顔に何かが覆われ、見えにくし。手を触れてみれば、顔の傷を包む布なりき。


「…………なぜ……なぜ此のようなことに」


 少女は嗚咽し、涙に暮れて璃々緒の顔も見えぬ。死にたくなるほどの痛みが絶え間なく襲い来たり。


「ただ……普通の人々の如く生きたいだけ……それが此れほど悪いことなのですか……」


「嬢様……」 語れば語るほど泣き、痛みが増し、涙が増せり。


「妾はただ……ひっ……したいことをしたかった……ひっ 妾の命は無価値なのでしょうか……なぜ此のようなことばかり……うぐっ……ひっ……」


 其の声を聞くだけで、彼女が耐え抜いてきた苦しみの深さが知れり。璃々緒はただ其の頭を撫で、何も言わず、存分に泣かせたり。


【長く溜め込んだものを吐き出せば、心が軽くなるぞ】 池田が母を傷つけんとする彼女を止めた後に語りし言葉が、再び浮かびぬ。彼らもまた大差なき者なりき。




「兄上は何という狂気じゃ……其のようなことをすれば、生きながら人を殺すも同じではないか!!!!!」


 明一はその言葉を聞き、池田の顔を強く殴り、彼を扉の外へ吹き飛ばせり。使用人どもが助けんとせしも、池田は制せり。


「貴様は相変わらず愚かじゃ……もし青山家が滅びれば、日本の経済も共に滅びる。故に我は父上の為したことは日本国民のためと判断した。貴様が此のように妨げるのは、国民の繁栄を阻む者と同じじゃ。肝に銘じよ」


 将軍家の武士たる兄に顔を殴られた池田は、ゆっくりと起き上がり、答え返せり。


「国民のため? 己のためであろう。貴様らは皆狂っておる!! 家の栄耀のためとはいえ、此のようにまでせねばならぬか!!! なぜ此のようなことで人の尊厳を損なう!!!」


「それがどうした……」


「どうしたとは……結局、我が敬うと思った者が、あの老いぼれと同じく己のことしか考えぬ悪党と同じとは!! 我は兄上に本当に失望した。兄上はかつて教えてくださらなかったか。人の命は己のもの、他人が定めるものではないと!!!!!」


「!!!!!」


「男は一度言ったことは翻さぬのであろう!!!」 明一は池田の言葉に呆然と立ち尽くせり。


「池田……もうよい、子よ」


「母上もですか!!!」


「今、子は我が家を出た身じゃ。故に外の者と同じ……父が子を殺さぬだけでも有り難く思え」


 池田はただ拳を握り締め……頑固なる外の者どもとの商いを成し遂げた己が、己が家の婚約だけは取り消せぬとは。


「どうやら姫子は貴様らにとって大事なようじゃな……」


 雷は嫌な予感を抱き、明一もまた然り。


「もし姫子が貴様らにとって大事ならば!! 我が姫子を拉致し、貴様らより連れ出す!!!」


 其の宣言に皆が呆然とし、池田は機を逃さず明一の刀を一本奪い、屋敷より走り出でたり。


「何をぼうっとしておる!!! 追え!!!! 兵を集めてでも連れ戻せ!!!!」


「は……はい、父上!」


 今や空は黒き雲に覆われ、間もなく雨が降らんとする兆しなりき。




 江戸の時代に頻発した災いは火事なりき。家屋は木造なればこそ。今、それが生ぜんとする。


「嬢様……」


 長く溜め込んだ思いを吐き出し尽くした姫子は、来るべき絶望を待ちながら横たわりしが、璃々緒はそれを許さざりき。


「一緒に逃げましょう……」


「え……」


 璃々緒は包帯に覆われた顔を見て言いぬ。


「此のような運命をただ受け入れるだけでは、夢見た穏やかな人生は決して叶いませぬ」


 そして璃々緒はガラス管のようなものを取り出し、木の扉へ投げつけたり。ぶつかるや否や爆ぜ、其れは彼女が自ら考案した手製の爆薬なりき。




 池田は寺の門前まで走りしが、明らかな異変を見て足を止めたり。


 老若男女が不知火見性寺の門前に集まり、まるで集会の如し。皆が叫ぶ——長野の命を返せ、詐欺師ども、屑ども——其の言葉の一つ一つが、不知火の異教の影響より生まれた憎しみなりき。


【別の道を探さねば……】 彼は此処を一目見たのみじゃが、二階の宿坊に隠し扉があることを忘れず。森を回り、木に登り、一室に忍び入りしとき、ドンという音が響けり。


「姫子!!!」 池田は扉を破り、音のする階下へ飛び降りたり。


 走ること暫く、廊下の角で姫子とぶつかりぬ。


「嬢様はご無事か!!!!!」


「二人とも!!!!!」


 三人が揃い、池田は二人を抱き締めたり。


「無事でよかった!!」 姫子の包帯を見て、彼は自らを責めずにはおれぬ。


【もっと早く来ていれば……】


 時は待たず、手製爆薬の火は既に広がりおりき。


「早く!! 正門以外に出口を探せ!!!」


「なぜじゃ?」


「今、村人どもが寺の門前に集まっておる!! 我らが出れば流れ弾に当たるやもしれぬ」


「では……恵美ちゃんのことで彼らが気づいたのか?」


 池田は頷き、姫子は二人を裏門へ導けり。走る間、村人どもの騒ぎが寺内に入り、寺を焼き始めた気配。宿坊も流れ弾に遭うやもしれぬが、時は速し。


「早く燃やせ!! 逃がすな!!!」


 狂える村人どもは松明の火にて宿坊の数カ所に火を放ちたり。三人は走り続け、出口を見つけしが、璃々緒だけが足を止めたり。


「璃々緒ちゃん……どうした?」


「何をぼうっとしておる! 火に焼け死ぬぞ!!」


 彼女は息を荒げ、広がる炎の方を振り向き。


「すまぬ……お前たちは先に行ってくれ……七海殿たちがまだ中に……彼らは妾を助けてくれた……見捨てるわけにはいかぬ」


 池田は姫子を見、彼女は頷き、璃々緒に近づけり。


「必ず戻ってきて……皆を連れて……」


「はい……」 彼女が出んとするを、池田が呼び止め。


「これを持て……」 彼は兄より奪いたる刀を璃々緒に差し出し。


「我はそなたを信じておる……」 数ヶ月前の別れのときに同じ言葉を。璃々緒は受け取り、頷き、袖にて鼻と口を覆い、炎の中へ走り入りぬ。


「外で待っておれ……」


「はい……」



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