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線路の上の約束 ― 出発進行の朝に ―  作者: リンダ


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17/46

仕組まれた角(かど)

 仕組まれたかど

 その午後。理科室前の騒ぎが一段落し、学年主任室で時刻や位置を洗い直していたとき――

 生活指導の共有端末に匿名の通報が入った。

 〈“さっきの件、仕込みです。スクショ見てください〉

 添付には、グループDMの画面が並んでいた。

 送り主は匿名だが、時刻は昼休み直後〜五時間目終了の直前。

 アイコン名は伏せられている。それでも、文面の言い回しとスタンプの癖は、見覚えがありすぎた。


 佐藤:角のとこで止まれ。合図したら「キャー」な。

 水谷:**“人殺し”**入れとけ。事故の家つけたら効く。

(既読 3)

 女子:……ほんとにやるの?

 佐藤:一瞬や。触れさせれば勝ち。

 水谷:後は俺らが広げる。

 女子:……わかった


 画面の右上、通知の時刻 13:23。

 五時間目終わりの廊下の混雑と一致している。

 生活指導と学年主任は顔を見合わせ、保存・印刷・封緘の手順を一気に進めた。

「関係者、再度呼びます。」古田教頭の声が低くなる。


 共謀の名前

 聞き取り室に呼ばれたのは、佐藤慎太、水谷翔、そして坂東ばんどう 朱音あかね

 さきほど“きゃあ”と叫んだ、あの女子だ。

 机上に並んだのは、



 理科室前の天井カメラの映像静止画



 角の位置関係の図



 そして、匿名通報のDMスクショ。



 古田は順番に、静かに指を置いていく。

「“角で止まれ”“触れさせれば勝ち”“人殺しを入れろ”。

 これらは、さきほどの出来事の“直前”に書かれている。」

 慎太が椅子をならした。「知りません」

 水谷は肩をすくめる。「捏造っしょ」

 古田は淡々と続ける。

「文面の癖(“ワラ”のカナ/句読点とスペース)と、端末の通知音設定が一致する。

 さらに、君らのアカウントは過去に同じ比率の二重スクショを使っている**」

 山根が静かに、朱音へ向き直る。

「坂東さん。怖かった“気持ち”は大切にする。

 同時に、“仕掛けた”事実があるなら、今ここで止めよう。」

 朱音は、指先を絡めたまま俯いた。

 沈黙が、空調の音の中で長く伸びる。

 やがて、かすれた声。

「……止まれ、って。

 当たったら叫べ、って。

 “人殺し”って言え、って……言われた」

 慎太の顔から、最後の笑いが消えた。

 水谷の視線が、初めて机の上に落ちる。

 古田は頷き、メモに**「共謀」の二文字を書いた。

「『無視』や『からかい』を越えて、意図的に“事故”を演出しようとした。

 これは重大だ。」


 処置と線引き

 その日のうちに、学校は臨時の学年・保護者向け通知を作成した。



 関係生徒の行為は“故意の誘発・共謀”に該当



 学内規程に基づき、指導・別室指導・接触禁止(No-Contact)を即時適用



 SNS等の“二次拡散”を厳禁し、違反時は学外機関と連携



 当事者の“事実”と“感情”を分けて扱い、修復的対話は安全確保ののち段階的に**(無理強いなし)**



 席配置は再度変更。慎太と水谷は別フロアの自習室で学習を継続し、休み時間帯の移動制限が設けられた。

 坂東朱音には、心理的ケアとともに、“言わされた言葉”から自分を解き放つ面談が入る。

(怖かったは、あなたの心の事実。

 でも**“人殺し”**は、あなたの言葉じゃない――ここをほどく。)


 “排除のための罠”を記録する

 夕方、学年主任室。

 山根は、伸介・澪・蓮と向かい合い、封緘済みのファイルを示した。

「今日の件は、“排除のための罠”として記録された。

 匿名通報者の保護も完了。

 証拠は、学校で保管し、必要時には外部機関に提出できる」

 伸介は、ゆっくりと息を吐いた。

 胸の中で震えていた速度計の針が、少しだけ“ちょうど”に戻る。

 澪が、そっと指でブレーキハンドルを三度、空に切った。

 蓮が短く言う。

「発車進行」

 山根は続ける。

「明日からも“見える廊下”は続ける。

 “合図”は有効。

 **『仕組む』側が“見られる場”に出た時点で、構造は崩れる」


 夜の点検票



 今日は安全だった? はい



 困った時、どこへ行った? 学年主任室/生活指導



 ありがとうを言いたい人 澪/蓮/匿名で知らせてくれた人/先生たち



 明日やってみたいこと “仕組み”を許さない、板書の三本線(事実・感情・評価)をもう一度クラスで



 紘一はカードを読み、深くうなずいた。

 一華が湯呑みを置き、まっすぐ言う。

「**“排除のための罠”――言葉で、形で、ちゃんと記録できた。

 ここから先は、大人の仕事や。」

 伸介は額に手を当て、遠くの線路を思い浮かべる。

 罠は角に仕込まれていた。

 でも、角には目をつけた。

 見えない暴力は、“見える記録”になった。

 そして、窓の外。

 普通列車が一本、一定の唸りで通り過ぎる。

 耳が編成を数え、胸の針が**“常用”**を指す。

 非常は、いつでも引ける位置に。

 合図は、三度。

 発車進行。


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