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其処に草が生えている 緑之章—踏み潰す—  作者: 宮林 實
第四章『希望の先へ』
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第四章『希望の先へ』(4)

 気づけば部屋の中は、観葉植物の葉と枝で溢れかえっていた。

 数秒の間、何が起こっているのか解らなかった。佳奈はどうなったのかと、冷や汗が出る。


 出て行った形跡がないか確認する為、急いでドアに向かって葉を避けながら歩く。途中、丸い何かを踏んでよろけた。

 葉の間から地面を覗く。糸状のものが見えた。糸状のものを掴み持ち上げる。

 血だらけになった佳奈の頭部だった。


「……嘘だろ……記憶がない」


 しかし溢れかえった葉や枝はいつものように自身の思い通りに動いたので拓実の力だった。力を解くと、胴体は少し離れたところにあった。頭部と胴体の切断部分を見れば、一瞬で真っ二つにしたような容赦のない切り方だった。辺りは血まみれになっている。観葉植物にも血が付着していて、ぽたぽたと滴り落ちている。


(俺がやったんだよな? ていうか、今何時だ?)

 時計は入室してから一時間近く経過していた。


 部屋に入室し風呂に入ってすぐに行為を始めたから、身体が動かなくなり意識が途絶えてから少なくとも五分以上は経っている。そしてこの有様だった。信じられなかった。

 しかし今、頭の中には大丈夫だと言う、いつもの感覚がある。


 さっとシャワーを浴びてから、一先ず拓実は部屋で代金を払い、部屋のドアを開ける。

 ある意味ここが一番の勝負だった。


 部屋を出て、上半身だけ捻って部屋を確認する。地面には佳奈の四肢と頭部が転がっているのが見えた。後ろ手に、ドアを完全には閉めず、ギリギリまで閉める。数秒そのままでいたが、振り返ってドアをゆっくり開き、中を覗いてみた。


「…………」

 拓実は安堵と喜びでほくそ笑む。


 佳奈の死体は消えていた。それに関連した全ても消えていた。

 あの雑居ビルと同じような現象だった。

 まさか特定の場所以外でも力が使えるようになったのだろうか。そうだとしたら、これからかなり行動が楽になる。


 拓実はホテルを出た。

 今回は予想外の事が起きたが、最後は死体が無くなっていたので問題ないということだろう。むしろ新しい力が開花したのかもしれない。


 大通りに出る。人がたくさん往来している。拓実もその中に紛れてから、雄一に電話をかけた。

 呼び出し音を聴きながら、ぼんやりと思う。


 ——でももし万が一、世間に明るみに出ても、どうでもいいような気もしていた。


『拓実? 今どこ? もう少しで渋谷に着くけど』

「今、二四六号線沿いにいる」

『そう? もう着くからそこで待ってて』

 詳しい場所を言って電話を切った。





 通りで待っていると、真横で車が停まった。助手席側の窓が開いたが雄一の眉間には小さな皺が刻まれていた。女がいないのだから当たり前の反応だった。


「女は?」

「悪い。ちょっと変なことが起きた」

「……なに?」


 車に乗り込み、拓実は先程までのことを話した。暫くの沈黙の後、雄一は口を開く。

「なるほど。それはおかしいね」

 雄一は想像以上に思案気な表情を見せた。だから拓実はあまり深刻な雰囲気にならないように軽く言った。


「俺は新しい力かなって思ったんだが」

「いつの間にか力が暴走してたような状況が新しい能力なのかな。意識が途切れる直前、力が使えなかったんだよね?」

「……まあ、そうだな」

「意識が戻ったら気づけば力を使っていて、女は死んでいた」

「でも雑居ビルの扉と同じだった。閉じて開いたら死体は無くなってた。俺の力が作用した」


 雄一はハンドルの上に、前へもたれかかるように両腕を置き、その上に顔を乗せた。視線は前を向いている。

「もしかして、“敵”じゃない? 草木を操れなくさせるような力を持っている敵。もしそうならかなり良くない状況かもよ」


「そんなまさか。俺に都合の良い世界になるのに、そんなわけねぇよ。今まで敵なんて一人もやって来なかっただろ」

「……そんなの分からないよ? いつかはそうなる気がしてた。事実、僕達は世間では決して許されない事をしている。不思議な力を使って。ということは、それを不思議な力で裁こうとする奴がいても全くおかしくないだろ?」

「そうだとして、どうすればいいんだよ? 誰が敵かも分からねぇ」


「攻撃を仕掛けてこないのは、こちらの能力を完全に分かっていないか、すぐ殺す必要がないか、じゃないかな。それか、拓実の所まで能力が届かないとか——接触してこないって事はきっとそういう事だよ。どちらにしろ、“敵”なら、また近づいてくる。そして何かしらのアクションを起こすだろう。だからいつもより、周りを見ておいたほうがいいと思う。僕達は、敵を待つことしかできないからね」


 雄一は敵がいるという、どこか確信を持った言い方をした。

 その言い方に少し疑問が湧いた。


「そもそも敵なのか?」

「…………」

 こちらを見た雄一の瞳が、冷酷とも言える冷たい表情を見せた。


 正直この目は苦手だった。

 拓実の知らない何かを見ているような、でもそれを聞くことを、友人の拓実でも躊躇うくらいの冷たい何か。自分とは相容れない何か。

 それは雄一と初めて出会った時から、ずっと存在している何か。


「僕達は敵を待つことしかできないし、拓実の能力の性質上、攻撃もできないだろう。もし敵が現れたら、隙をついて凶器で殺すしかない」


 敵、というのは雄一の中では決定事項のようだった。

 それに、敵がどういう奴であれ、拓実と同じような力を持っている時点で拓実に勝ち目などないのだ。それは雄一だって同じ筈だ。


「…………」

「——とりあえず、今回は大丈夫なんだね?」

「……ああ。それは確定だ。部屋から死体は完全に無くなってた。ホテルを出てもいつもみたいに周りに人の気配は感じなかった」

「それなら拓実の家まで送るよ。念のため、いつも以上に遠回りして帰ろう」


 普段からいつも少し入り組んだ道を通ったり遠回りして、殺す相手を雑居ビルまで運び、そして同じように遠回りして帰宅している。


「せっかく呼び出したのに、こんな事になって申し訳ない。送ってくれるのは助かる」

「いいさ。僕と拓実の仲じゃないか。何かおかしなことがあったらすぐ教えてね」

「分かった」

 そして雄一はいつもの表情に戻った。


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