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其処に草が生えている 緑之章—踏み潰す—  作者: 宮林 實
第四章『希望の先へ』
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第四章『希望の先へ』(3)


   *


 女の年齢は拓実よりも上だったが、スタイルが良く、目鼻立ちも整っていた。

 先程、彼氏に別れ話を切り出され、返事をしないまま飛び出してきたらしい。


「名前は、なんて言うのー?」


 その女は人通りの多い歩道のガードレールに寂しそうにもたれかかっていた。“衝動”が来たので、話しかけたのだ。


「拓実。あんたは?」

「佳奈って言いまーす。今からどこ行く?」


 そんなの愚問だ、と拓実は思う。ナンパした相手に求めることなんて決まっている。と同時に、“衝動”が来た相手にすることなんて決まっている。


「言わせるのか?」

「あはは。そうだよね。じゃあホテル行こっか〜」


 当たり前のように言ってくるところを見ると、佳奈はこんな事が一度や二度ではないというのがよく判る。


「彼氏はいいのか?」

 ホテルに行くことが決まればこっちのものだったので、いようがいまいがどうでもよかった。嫌だと言われる雰囲気もない。


「いいのいいの。どうせ、もう終わるんだしー。あたし、こういうの、すぐ忘れられるタイプなんだ」

 だが、佳奈の目は赤い。


「そうか。じゃあ佳奈に話かけて正解ってわけだ」

(さすが、俺の“衝動”)


 拓実の言う“衝動”というのは、人を殺す時に使う能力の事で、衝動が来た対象に対して草木を操り殺すことができる。


 草木は人間が出せる力以上を出すことができる。その草木で殺し、死体をこの場所なら誰にも露見することはないという『確信』を持った場所に置いたり隠したりすれば、世間に公になることはない。


 衝動が来た対象には、必ず付け入る隙みたいなものが存在している。直近で雄一と殺した中年の男の場合は、家族のすれ違いだった。佳奈は彼氏に振られたことだろう。


 ラブホテルが立ち並ぶエリアを歩く。夜ご飯時なのに空きがあまり無く、佳奈の会話に適当に相づちを打ちながら探す。

 佳奈に見つからないように、衝動が来たということを雄一にメールを送った。すぐに車で向かうと返事が返ってきた。


「あたしの彼氏さ、好きな人が出来たんだってー。しかも年齢聞いたらめっちゃ年下。数年前まではその好きな人と同じ年だったのにな〜」

「なんだ。佳奈は彼氏に別れ話をされたことだけがショックってわけでもなさそうだな」

「うん。本当は年取っちゃった自分にショック受けてたの。そんなこと思ってたら、もっと若い時に色んなことすればよかったって思い始めて——」


「なるほどな。だから大都会の渋谷に来たわけだな」

「気分だけでも若者ってね」

 普通の男なら惚れてもおかしくないような笑みで言った。

 生憎俺は普通じゃねぇ、と心で思いながら、拓実も自分の武器でもある端正な笑みを浮かべた。





 ホテルに入り、風呂に入ってからすぐに行為に及んだ。

 男女の行為は欠かせないが、衝動が来ているから、早めに終わらせたい気持ちもあった。

 うまいこと言いくるめて、雄一と待ち合わせして、あの雑居ビルに連れて行かなければならないからだ。それまで殺すのは我慢しなければならない。


 しかし考え出すと、思考が殺すことばかり考えてしまう。

 ——今、殺しても問題ない。

 そんな声が何処からか聴こえたような気がした。


(早く、殺したい)

 目の前にある佳奈の首を両手で絞める。最初は佳奈も喜んでいたが、拓実の手にさらに力が加わる。次第に佳奈からは笑みが消え、顔が歪み始めた。


「苦しいか?」

 佳奈は何度もそうだと目で訴えてくる。


「女を嬲るのは久しぶりだ。最近男ばっかだったし」

 激しく暴れだしたので、強く拘束しようと思った拓実は、観葉植物に目を向ける。

 このホテルは南国リゾート風をコンセプトにしているらしく、お誂え向きに植物が置いてある。


(俺の都合の良い世界になってる。ここで殺しても問題ないってことだな)


 そのまま力を使った瞬間、急に身体が動かなくなった。

「なんでだ……? 植物も動かない——?」


 おかしい。衝動は来ている。

 身体が動かず、力が緩む。佳奈はそれを見計らったかのように、上半身を起こした。


 まずい状況だった。佳奈が逃げてしまう。

 拓実の衝動が来ている時は、その衝動の対象に力を使うことができる。

 拓実はその力を使える根本的な理由は知らなかったが、いつ、誰に、どんな力が使えるかは自覚している。その力を今使えないのは、普段ならありえない出来事だった。


 さらにこんな時に限って、雄一がいない。

 あの雑居ビルまで我慢すればよかった。今更後悔しても遅い。


 佳奈が裸のままベッドから下り、走り出した。本当にまずい状況だった。

 部屋を出て、従業員に助けを求められたら——その時点で終わりだ。


 衝動が来ている間の事は、絶対に世間に公にはならない。だとしても、今予想外の出来事が起こっている。佳奈が逃げた後、どうなるか分からなくなるかもしれない。


 衝動が来て、一度でも対象の人間に力を使えば、殺すまで対象の人間に衝動は限られる。つまり、衝動が来た相手を殺さない限り、新しい人間に衝動が来ないのだ。そうなるとかなり面倒になる。


 今回力を使ってから身体が動かなくなったこと考えると、佳奈を殺してからでないと新しい対象に移行できないのだ。

 意識が遠のく。追いかけようと思うのに、身体が動かない。


(何が起こっている?)

 そのまま拓実は思考が停止したように動けなくなった。


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