忘却の果てに
テーマ【死】
何をしようとしていたのか忘れてしまう。
どこかへ行こうとして立ち止まる。
会いに来た人の名を思い出せず、愛想笑い。
昨日食べたご飯がわからない。
頭の中から何かこぼれていく。
今まで一生懸命に詰め込んできた記憶の数々。
言葉や数字、歴史、英語。
当たり前の様に理解していたそれらが、
ふとした瞬間に崩れて、意味をなさなくなる。
知識が髪の毛の様に抜け落ちていく。
今日が何月何日かがわからず。
いつご飯を食べたかを忘れ。
ここがどこだかがわからない。
いつも知らない誰かが、笑顔で世話をしていく。
私に娘なんていただろうか。
生の喜びが一日一日薄れていく。
身体の動かし方を忘れ。
咀嚼の仕方を忘れ。
声の出し方を忘れ。
目を開けているのも億劫になり、
浮き沈みする意識の狭間で彷徨っていた。
生の実感が無くなっていく。
骨に皮が付いたような手足に、何度も刺しなおされた点滴の数々。
胃に穴をあけ、直接ご飯を流し込まれ、
喉に穴をあけ、機械が肺に空気を送り込む。
それでも、確かに心の臓は脈を打つ。
モニターがそれを確かに示していた。
生きようとしているのか、生かされているのか。
人としての尊厳が消えていく。
思考が止まってから幾星霜。
感情の起伏もとうになくなり、
人か物かの境界線に立つころ、
死の恐怖すら忘れ、
眠るように鼓動を止める。
――そんな死に方を、僕は迎えたい。
【読了後に関して】
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