09 神殿 01
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その後、トリスティアはアルスターと一緒に朝食を食べ、アルスターに庭や図書室を案内してもらって一日を過ごした。
図書室にはトリスティアの年齢の子供向けの本もいくつかおいてあり、トリスティアは嬉しそうに本を開いた。
「マリアンヌ様から文字は教わっておりましたが、神殿にある本はトリスティア様にはまだ難しいものばかりでしたから」
サラの言葉にアルスターは「そうか」と相槌を返して、トリスティアに今度街の本屋に一緒に行ってみようと声をかけた。
「街に行ったら、神殿にも行っていいですか?」
「他の巫女たちが神殿を整えてくれると言っていたな」
「はい! わたくしもお手伝いしたいです!」
そんなふうに言ったトリスティアをサラが止める。
「トリスティア様、神殿はかなり老朽化しており、危険だと神殿に行った巫女から連絡がありましたから、安全性が保たれるまでは近づかない方が良いでしょう」
「危険があるような場所に巫女たちはいるのですか?」
トリスティアが心配そうに眉尻を下げた。
「清掃などはしておりますが、住まいは大公様が別の場所に用意してくださいましたから大丈夫ですよ」
サラはトリスティアを安心させようとそのように言ったのだが、日中は危険な場所で作業していることに変わりはなく、トリスティアの表情は曇ったままだ。
そんなトリスティアをアルスターは抱き上げた。
「明日は私と一緒に神殿に行ってみよう。私が危険からトリスティアを守るよ」
「よろしいのですか!?」
よほど他の巫女たちのことが心配だったのか、トリスティアは嬉しそうだ。
「しかし、大公殿下」
サラの言葉にアルスターは「大丈夫だ」と答えた。
「神殿は偉大なる存在が作りし建造物と言われるくらい古くからあり、守られてきた建物だ」
実のところ、アルスターたち歴代の大公もきちんと神殿の補修工事などは行ってきた。
それでも、ここ数年の神殿の傷み具合はひどいものだった。
建築の専門家にも尋ねたけれど、補修工事の仕方が間違っているわけでもなく、素材が悪いわけでもない。
それでも、神殿は急速に朽ちていく。
それを、アルスターたちはただ見守るしかなかった。
いや、正確には、アルスターだけは原因を知っていた。
神殿が神殿の力を失い、朽ちていく原因を、アルスターは大公になることが決まった時に前大公から教えられていたのだ。
しかし、それは、アルスターや大公国の国民だけでどうにかできる問題ではなかったために、今日まで、神殿が倒壊しないように修繕が繰り返されていたのだ。
翌日、早速、アルスターはトリスティアを連れて出かけた。
「大公殿下、トリスティア様! ようこそおいでくださいました」
言葉ではアルスターに対しても歓迎を示しているが、巫女たちの視線はトリスティアに集中している。
トリスティアが巫女たちから愛されていることは一目瞭然だった。
「みなさん、神殿の修繕をありがとうございます」
「思ったよりもひどい状況ですが、民も皆快く協力してくださいますわ」
今すぐに倒壊することはないと思えたが、天井から壁の一部でも崩れてきたら危険なため、巫女はトリスティアに神殿内を案内することはせずに、外から神殿を見上げ、トリスティアに現状を話した。
「これまで何度も修繕していたのですが、聖女様もお越しにならない神殿ですからね。徐々に修繕する回数も減っておりましたが、これからはまた手を入れていきます」
大工を生業にしているらしい男がそう答えた。
「よろしくお願いします」とトリスティアが大工に頭を下げたので、大工は非常に恐縮していた。
「トリスティア、歌を、歌ってはくれないか?」
アルスターの言葉にトリスティアは微笑んだ。
「お祈りを捧げてもよろしいのですか?」
祈りは、神殿が修繕され、巫女の装いが綺麗になってからの方がいいだろうかとトリスティアは考えていたが、大公殿下であるアルスターが祈りを求めるならば、それは悲しみの聖女であるトリスティアの本来の職務であるため、トリスティアに異論はない。
トリスティアは自らの胸に小さな手を当てて、その小さな体からは信じられないほどの朗々と響き渡る声で歌い始めた。
その場に響く美しい声に聞き入っていた巫女や大工、他の国民たちだったが、不思議と、神殿の様子が変わってきたような気がした。
色が変わるとか形が変わるといったようなあからさまな変化ではないが、徐々に神殿が白く、美しくなっているような気がして、皆が神殿を注視する。
一体何が起こっているのか、小さな変化に最初に気づいたのは大工だった。
「ひび割れが消えていっています!」
大工の言葉に驚いた人々は、さらに目を凝らして神殿を注視し、そして、大工の指摘通り、ひび割れが消える様子を目の当たりにした人々が口々に叫ぶ。
「本当だ!」
「神殿が直っていっているぞ!」
周囲が騒いでいても、歌に集中しているトリスティアはそれには気づかないようで、歌が止まることはなく、まるで空気を清めるような美しい歌声はしばらく続いた。




