07 夢遊病 02
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部屋に入ると、侍従のフランツがアルスターのベッドを見つめて首を傾げているところだった。
「あ! アルスター様! どちらにおられたのですか!?」
フランツはアルスターの姿を見るなり声を上げた。
「フランツ、トリスティアを診てもらうから、医師を呼んでくれ」
「聖女様がご病気ですか!?」
フランツが慌てる。アルスターがベッドにいないと知った時よりも慌てている。
昨日、トリスティアを出迎えに行った際にはおとなしく粛々と自身の業務をまっとうしていたフランツだったが、その後、トリスティアと離れると、「なんとお可愛らしい方なのでしょう!」「歌声もとても綺麗でしたね!」とはしゃいでいた。
それは他の者たちも同様だったが、元々感情が豊かで、声の大きいフランツはうるさいくらいだった。
フランツはすぐに自ら馬を走らせて、朝食の最中だった医師を連れてきた。
「アルスター様! スコープ医師を連れてきました!」
「ああ、今、トリスティアもこちらにきてくれたところだ」
トリスティアの朝の身支度が済んだことをサラに教えてもらえば、自分と医師がトリスティアの部屋へと行くつもりでいたのだが、トリスティアの方から来てくれた。
やはり、トリスティアは自分のことを怖がっていないようだと、アルスターは改めて少し嬉しくなった。
アルスターはソファーにトリスティアを座らせ、その隣に自分が座り、そして向かいの席をスコープ医師に勧めて、昨夜の話をした。
トリスティアは自分の話とは信じられないようで、その目をぱちぱちと瞬いた。
「そのようなご迷惑をおかけしていたとは……申し訳ございません」
トリスティアが肩を落として謝罪した。
「トリスティアは何も悪くないよ。大丈夫だ。でも、そのような状態で動き回って、怪我でもしてしまったら困るからね。だから、先生に相談をして、治せるのなら治した方がいいだろう」
「はい」とトリスティアは小さく頷いた。
「では、トリスティア様、いくつか質問をさせていただきますね」
スコープ医師に向かって、トリスティアは「はい」と再び小さく頷く。
周囲の大人はそんなトリスティアの仕草だけで癒されていた。
「廊下を歩かれていた時の記憶はございますか?」
トリスティアは「いいえ」と首を横に振った。
「何か、夢は見ておられましたか?」
「……何か見ていたような気はしますが、はっきりとは覚えていません」
トリスティアはしばし考えて答えた。考えている間、少し上を向くという仕草も可愛くて、周囲の大人たちはほっこりした。
その後もスコープ医師が質問し、トリスティアは上を向いたり、小首を傾げたりして一生懸命に考え、そして、小さな声で答えていた。
その全てが愛らしくて、大人たちは呼吸が乱れないように興奮を抑えるのが大変だった。
聖王国からトリスティアと一緒についてきたサラは、大公国の城の大人達の様子のおかしさに若干引いたが、(トリスティア様はお可愛らしいですから仕方ありませんね)と納得もしていた。
大公国に子供がいないわけではなかったが、魔物が都の近くまで来ることもあるため、子供達を自由に外で遊ばせているような家はない。
そのため、自分の家に子供がいなければ子供と接することはほとんどなく。アルスターは未婚のため、城には子供がいなかった。
子供の愛らしさに触れていない城の者たちには、トリスティアは愛らしさの塊のような存在だった。
一方、聖王国の王都は非常に安全なため、街の中を子供達が自由に走り回っていることはよくあった。
神殿にも子供達が訪れるし、サラをはじめとした巫女たちにとって子供というのは珍しい存在ではなかった。
それでも、トリスティアは特別に愛らしく感じる存在だった。
聖女だからではなく、同年代の子供よりも細く華奢な体と、そして非常に控えめな性格が、庇護欲をそそるのだ。
何より、王都のおませな女の子たちとは違って、トリスティアの愛らしさは作られたものではないというところがいいのだ。
着飾って、可愛い仕草や話し方、愛想の振り方を覚えている少女たちとは違い、トリスティアは天然物だった。
(うちのトリスティア様がいっちばん可愛いのです!)
サラは心からそう思っていた。




