06 夢遊病 01
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悲しみの聖女を隣国から迎えた日の夜、アルスターは遅くまで仕事をしていた。
当初の予定では聖女を出迎え、城へ案内し、その後は部下に対応を任せるつもりでいた。
しかし、船に乗ってやってきた聖女はあまりにも小さかった。
その想定外の幼さに驚き、怖がらせないように、丁寧に接し、どうか早く城での生活に慣れてくれるようにと自ら城の中を案内し、夕食も一緒に取り……そんなふうに一日を過ごしてしまったために、昼間は全く仕事をすることができなかった。
部下たちはそれなら明日に仕事を回せばいいと言っていたが、そういうわけにもいかない。
何せ、明日もトリスティアに庭や図書室を案内する予定なのだ。
もちろん、他の者に案内を任せればいいのだが、しかし、アルスターには自分が怖い見た目をしているという自覚があった。大人ならばまだしも、子供には確実に怖がられるのだ。
しかし、トリスティアは出会って一度も怖がる様子を見せなかった。そんな子供は初めてだった。
だから、最初から部下に対応を任せて、トリスティアと疎遠になり、時間が経ってから怖がられたり、萎縮されるようなことは避けたかった。
今のうちに自分に慣れ、できれば親戚のおじさんのように慕ってほしいと思った。
何かあれば、自分を頼ってなんでも言ってほしい。そんな関係を築きたかった。
そのためには、とにかくトリスティアと過ごせる時間を増やす必要がある。その時間を捻出するためにアルスターは夜遅くまで働いた。
急ぎの仕事を全て片付けて、そろそろ休もうと執務室を出て寝室へと向かう途中に、アルスターはその光景を目にした。
信じられないことに、トリスティアが廊下の先を歩いていたのだ。
アルスターは思わず走り出しそうになり、しかし、暗がりの中、身長が高く、体格のいい男が走ってきたら流石のトリスティアも怖がるだろうと思って、それは堪えた。
しかし、早く小さな彼女を保護しなければと、大股で急いだ。
実際のところ、大股で静かに体躯のいい男が忍び寄ってきても相当怖いと思うのだが、焦っていたアルスターはそのことには気づかなかった。
「トリスティア」
控えめな声でも聞こえる範囲までトリスティアに近づき、アルスターは声をかけた。
しかし、トリスティアは反応を示さず、ただゆっくりと歩いていた。
どこを目指しているというふうでもなく、ただただ真っ直ぐにゆっくりと歩き、こちらを振り返りもしない様子にアルスターはおかしいと思った。
「トリスティア!」
トリスティアの前に回り込んで少女の瞳を覗き込むと、その瞳は虚ろで何も写してはいないようだった。
とてもトリスティアに自我があり、自分の意思でこのような行動をしているようには思えなかった。
「トリスティア、抱っこするよ?」
念の為、アルスターはそうトリスティアに声をかけてから抱き上げたが、抵抗することもなく、トリスティアはアルスターの腕の中でおとなしくなった。
アルスターがトリスティアをベッドに連れていった頃にはトリスティアは瞳を閉じてスースーと寝息を立てているようだった。
しかし、アルスターは幼い少女がまた動き出すかもしれないと思うと心配で、その場を離れることができなくなった。
アルスターはベッド脇に椅子を持ってきて座ると、トリスティアの寝顔を見つめた。
そして、翌朝、サラが来るまでトリスティアのそばで仮眠を取った。
「どうして大公殿下がトリスティア様のお部屋におられるのですか?」
驚くサラにアルスターは事情を説明した。
「トリスティアが真夜中に廊下を歩いていたのだ」
「まぁ! 起きてしまわれたのでしょうか?」
「いや、おそらく、意識はなかったのだと思う」
どういうことかわからず、サラは小首を傾げた。
「とにかく医師を呼んで診てもらおう。トリスティアが起きたら着替えをさせて、私に知らせてほしい」
アルスターはトリスティアの部屋を出ると一度自身の寝室へと向かう。




