05 不安
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「トリスティア様、おやすみなさい」
巫女としてトリスティアと一緒についてきたサラは侍女となり、これからもトリスティアの身の回りの世話をすることになった。
聖王国の神殿にいた頃に前悲しみの聖女のマリアンヌと一緒にトリスティアの世話をよくしていたため慣れたものであった。
「サラ、おやすみなさい」
サラはトリスティアの部屋を出て、また幼いトリスティアのためにすぐ隣に準備された侍女の部屋に入る。
ベッドに腰を下ろし、前悲しみの聖女マリアンヌが亡くなってから今日までの怒涛の出来事を思い出し、深くため息をついた。
「マリアンヌ様がいてくだされば、このようなことにはならなかったのに……」
トリスティアの前では気丈に振る舞っているが、一人になると、どうしても涙が出てきてしまう。
ふた月前にマリアンヌは街で事故に遭い、亡くなった。
そこに不自然な点はなかった。
しかし、その頃から、王宮からの待遇が悪くなったり、王妃を亡くして心身ともに弱っている王のために定期的にトリスティアは歌を歌いに行っていたのに、城に呼ばれることもなくなった。
王は小さな悲しみの聖女にも礼儀を持って接していたから、王がトリスティアの境遇を悪くしていたとは思えない。
その頃から、喜びの聖女 サンドラの態度もよそよそしく冷たいものに変わっていった。
マリアンヌがいた頃には満面の明るい笑顔でマリアンヌに懐いていた喜びの聖女は、トリスティアにはお茶会の招待も会合の便りもよこさない。
それに文句を言えば、トリスティアがまだ小さいから気を遣ったなどともっともらしいことを言われて腹が立った。
幸い、他の聖女たちはトリスティアを無碍に扱うようなことはなかったのだが。
今回の追放も、王太子とサンドラが結託して行ったものだろうとサラは予想していた。
聖王国から大公国までついてきてくれたサラが部屋を去ってから、トリスティアはブランケットにくるまって体を小さくしていた。
心細い時、不安な時、寂しい時、トリスティアはこうして夜を凌いできた。
体を丸めて、できるだけ隙間を無くして、自分の体温で、心を温めるのだ。
そうしながらも、トリスティアはマリアンヌの温もりや、おばあちゃんの温もりを思い出す。
おばあちゃんはマリアンヌに出会う前に一緒に暮らしていた人だ。
物心ついた頃には一緒にいたけれど、おばあちゃんはかつては孤児院の運営者であり、トリスティアとは血のつながりがないことは教えられていた。
「トリスティアは孤児院の前に捨てられていたのよ」
トリスティアが捨てられた頃にはおばあちゃんはもう孤児院を経営できるような状況ではなかったため、孤児院は閉鎖していたのだが、捨てられていた赤子を放置しておくわけにもいかず、おばあちゃんはトリスティアを懸命に育てた。
小さな頃から何度も聞いていたから、その言葉に傷つくことはなかったけれど、どうして何度も言うのだろうと不思議に思ったことはあった。
「私とあなたには血のつながりがないの」
そう言いながら、おばあちゃんは優しくトリスティアの頭を撫でてくれた。
「だからね、誰か迎えが来たら、その人と一緒に行くといいわ」
悲しみの聖女の公務でその地を訪れたマリアンヌと出会い、マリアンヌと共に王都に行くことになった時、マリアンヌはおばあちゃんにも一緒に行こうと言った。
けれど、おばあちゃんは首を横に振った。
「聖女様、私はこの地で生まれ、そして、この地を離れたことはありません。いまさら、この地を離れるつもりはないのです」
そう言って、おばあちゃんはトリスティアをマリアンヌに預けたのだ。
その当時、今よりも小さかったトリスティアはおばあちゃんの言葉を、言葉通りに受け取っていた。
けれど、マリアンヌが事故で亡くなってしまい、周囲の大人達の計らいにより、傷のついた亡骸を見ることはなかったけれど、葬儀にも参列して、人が亡くなるということをなんとなく実感して思った。
もう、おばあちゃんはあの小屋にいないのかもしれないと。
トリスティアを愛してくれた人は、次々にいなくなっているのかもしれない。
それは、あの王太子の「悲しみの聖女は不運を呼び込む存在だ」という言葉が正しいことを裏付けているのではないだろうか?
トリスティアは不安だった。
自分は知らず知らずのうちに、誰かを傷つけているのかもしれない。
そんな不安を抱えながら、夢の世界へと逃げ込むようにトリスティアはぎゅうっと目を瞑った。




