29 大きなトカゲ 01
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「トリスティア様、大変申し訳ないのですが、一緒にお越しいただけますでしょうか?」
騎士団長グランヴァイツが一人で城に戻ってきて、食堂で朝食を食べている途中のトリスティアに深々と頭を下げた。
「騎士団長、アルスター様はどうしたのですか?」
フランツが怪訝な表情で聞く。グランヴァイツは眉間に深い皺を寄せて言った。
「大公殿下は、ドラゴンに捕まってしまった」
「「ドラゴン!?」」
フランツとサラの声が重なった。
「ドラゴン、ですか?」
トリスティアは首を傾げた。
トリスティアはドラゴンを知らなかった。よく動植物の図鑑を見ていたが、トリスティアが見ていた子供用の図鑑にはドラゴンは載っていなかった。
「ドラゴンというのは、非常に巨大な魔物なのですが……」
「アルスター様がドラゴンに捕まったとはどういうことですか!? それでなぜ、騎士団長だけ戻ってきたのですか!?」
フランツが矢継ぎ早に質問をする。
「それは、ドラゴンの要求が……」
グランヴァイツは申し訳なさそうにトリスティアを見た。
「まさか、ドラゴンの要求を叶えるためにトリスティア様を連れていくのですか!?」
サラの眉が吊り上がり、その目も冷たいものになる。
「トリスティア様をそんな危険なところにお連れしようなどと、とんでもございません!」
「サラ、ドラゴンとはそんなに危険なの?」
「そうです。大きくて、とても強い……」
サラはしばし考え、トリスティアにドラゴンがイメージしやすくなるいい説明を思いついたが、すぐにこれは言ってはいけない言葉だと飲み込んだ。
しかし、フランツがその言葉を言ってしまった。
「ドラゴンは、翼のついたトカゲに似た魔物です」
次の瞬間、トリスティアの表情が明るくなり、その瞳をキラキラとさせた。
「ちょっと、フランツさん! どうしてそれをトリスティア様に教えるのですか!?」
サラが怒り、フランツは困った。
「すまない……まさか、ここまで瞳をキラキラとさせるようなことだとは思わず……」
フランツは困り顔でトリスティアの顔を覗き込んだ。
「トリスティア様は、トカゲがお好きだったのですか?」
「はい! 大好きです!」
いい笑顔である。
生き物はなんでも好きなのだろうとは思っていたが、これほど爬虫類にワクワクする少女は珍しいとフランツは思った。
「わたくし、大きなトカゲさんに会ってみたいです!」
「トリスティア様、ドラゴンはとても恐ろしい存在なのです」
サラはなんとかトリスティアにわかってもらおうとする。
しかし、そんなサラの言葉を「いえ」とグランヴァイツが否定した。
「ドラゴンは非常に賢く、人間の言葉を使い、傷つけることはしないから聖女を連れてきてほしいと言ったのです」
「そんな言葉など、信じられません!」
「しかし、アルスター様をあのままにしておくわけにもまいりません」
サラに詰め寄られてグランヴァイツは困った。
フランツはアルスターのことも心配だが、巨大なドラゴンの元に小さなトリスティアを連れていくのはもっと心配だった。
「騎士団長、本当に危険はないのですか?」
「ああ。体は大きいがまだ子供のドラゴンのようで、トリスティア様に助けてほしいと言っていた」
「助けてほしい? ドラゴンが、人間に助けを求めたのですか?」
「それだけ、トリスティア様のお力が素晴らしいものなのだろう」
グランヴァイツの言葉と彼の様子から、本当に危険はないのかもしれないとフランツは考える。
「わかった。それでは、私も行きます」
「侍従が来ても足手纏いだとは思うが、仕方あるまい」
トリスティアの世話をできる者が必要だろう。
「わたくしも参ります!」
「サラさんは馬には乗れますか?」
グランヴァイツは聞いた。トリスティアの乗馬の授業の間、サラが馬に乗っているところは見たことがない。
「乗れません……」
「では、今回は諦めてください」
「しかし、トリスティア様が行かれるのであれば……」
「一応、大公殿下の危機でもあることをお忘れなきよう」
国の統治者の危機にもかかわらず「一応」などと言ってもいいのだろうか? ということは、この場の誰も考えなかった。
アルスターは屈強な青年だが、トリスティアは小さくて華奢で何かあればすぐに死んでしまいそうなのだ。
どちらを優先するかは、決まりきっていた。
「では、ひとまずはしっかりと朝食をお食べください。その間に、お弁当を用意しますので」
フランツはトリスティアに微笑んだ。
ドラゴンに会いにいけることになり、気持ちが高揚しているトリスティアはいつもよりも朝食をたくさん食べることができた。




