25 大公国の重鎮 01
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アルスターと騎士団長が森に辿り着く数日前、都を二人が出発した翌日の昼、トリスティアは食堂でオトカールと一緒に昼食をとっていた。
「……」
オトカールが大公代理として執務を行うことはトリスティアも聞いていたが、このように食事を一緒にすることになるとは思ってもみなかった。
「トリスティア様は、この国をどう思われますか?」
緊張しつつもどうにか昼食を食べ終えようというその時、それまで黙々と食事をしていたオトカールがトリスティアに話しかけた。
トリスティアは自然と背筋を正す。
「皆優しくて、とてもいい国だと思います」
「皆……トリスティア様は神殿にもよく行っておられるのですか?」
トリスティアの言う「皆」が街の者たちのことだろうとオトカールはすぐに気づいて聞いた。
「はい。数日おきに出向いて、神殿で歌を奉納しています」
それが本来、聖女の役目だからだ。
「ふむ……先日のパーティーでの歌も素晴らしかったが、神殿での歌も素晴らしいものだろうな」
オトカールはしばし考え、そして、フランツはその様子に嫌な予感を覚えた。
オトカールは人格者でもあるが、同時に厳しい人物だ。まだ淑女教育が完璧とまではいかない小さな少女を近づけたい親はいない。それはフランツも同じだった。
アルスターの代理として執務を行ってくれるのはありがたかったし、なんなら、文官たちはアルスターがいる時よりも、オトカールが城にいる時の方が緊張感を持って集中して業務にあたるため、仕事が早い。
その点を踏まえると、オトカールの存在は本当にありがたいものだったが、しかし、トリスティアに緊張など与えたくはなかった。
だから、この昼食もなんとか時間をずらすなり、トリスティアには自室で食事をとってもらおうかと考えていたのだが、オトカールにトリスティアに会いたいと言われてこのような形になったのだ。
「神殿への歌の奉納に、私もついて行ってもいいだろうか?」
(やはりか!)と、フランツは天を仰ぎたくなったのをなんとか堪える。
「オトカール様には、執務が……」
「私はトリスティア様に聞いておるのだ。そなたは黙っておれ」
「はい……」
こうなったらトリスティアの方から断ってくれないだろうかと願いを込めて、フランツはトリスティアに視線を向けたが、トリスティアはフランツと視線が合うと、思いっきり力強く頷いた。
「わかりました! ご一緒しましょう!」
トリスティアはフランツが何か困っていることには気づいたが、自分が頑張ってオトカールをもてなせば、フランツの役に立てると誤解してしまった。
そんなトリスティアの誤解を理解した上で、フランツとサラは思った。
((トリスティア様、尊っ!!))
こうして、フランツが避けたかったオトカールとトリスティアの外出が決まってしまった。
「本日のお召し物も清楚で素敵ですね」
そう微笑んだのはオトカールの孫、リューイである。
神殿に行く日の朝、オトカールが馬車で迎えにきてくれた。
フランツが大公家から馬車を出すと伝えたのだが、オトカールは自分がトリスティアを迎えに来ると言って聞かなかった。
なぜ、そんなに頑なに? とフランツもサラも不思議に思っていたのだが、どうやらオトカールには孫を連れて来るという狙いがあったようだ。
オトカールとしてはトリスティアだけを馬車に乗せるつもりだったようだが、サラが自身はトリスティアの侍女であり、さらに巫女でもあるためトリスティアから離れることはできないと、謎の理論を訴えて馬車に同乗した。
知らぬ間にトリスティアを婚約者などとして囲い込まれては困るため、絶対にトリスティアから離れないようにと、フランツからも言われていた。そのため、サラは不躾なほどにトリスティアとリューイの様子を見つめていた。
しかし、トリスティアより一つ年上だというリューイはどこまでも紳士で、無闇にトリスティアに近づくことも、触れることもなく、自分ばかりが喋るというようなこともなく、なんともお似合いな二人に見えた。




