22 歓迎パーティー 01
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トリスティアの歓迎パーティーの日が訪れた。この日はトリスティアを貴族たちにお披露目する日でもある。
軽やかな音楽が流れる中、トリスティアはアルスターにエスコートされながら城の一番大きな広間に入場した。
そこにはたくさんの人たちがいた。煌びやかな衣装を身に纏った彼ら彼女らが貴族であることはトリスティアにもわかった。
貴族たちは興味深そうにトリスティアを見てくる。
「緊張しているかい?」
多くの目に晒されて足がすくんだが、手を引いてくれているアルスターの言葉に、その優しい声に、トリスティアは足を前に進めることができた。
「少し」
小声でアルスターに返事を返したトリスティアの手をアルスターはしっかりと握った。
「私が隣にいるから、大丈夫だ」
そう優しく微笑まれて、トリスティアも微笑んだ。
広間の奥にある壇上に上がるとアルスターは貴族たちを見渡した。
「聖王国から来たトリスティアだ。まだこのように幼い身で聖女としての責務を果たしてきた彼女に敬意を持ち、優しく接してほしい」
トリスティアはアルスターの言葉に少し驚いた。
このような場では、聖王国ならばまず最初に「悲しみの聖女」と紹介されるのだ。場合によってはトリスティアの名前は最後まで伝えられずに終わる。
人々はまだ幼いトリスティア個人に注目することはなく、民のために不思議な力を行使する聖女としてだけ認識する。
しかし、アルスターは聖女の責務を果たしてきた一人の少女としてトリスティアを紹介した。
トリスティアは、それだけで胸の中が満たされたような気がした。
アルスターはトリスティアの背にそっと手を添え、小声で言った。
「トリスティアも挨拶するかい?」
そうアルスターはトリスティアに判断を委ねた。緊張のあまり声がうまく出ないようなら、断っても構わないということだろう。
そんな配慮も、聖王国の時にはなかった。
トリスティアはにこりとアルスターに笑顔を返して、貴族達の方へ向き直った。
「わたくしはトリスティア・ローゼンです。ノルデンガルディ大公国に来てまだ数ヶ月ですが、大公殿下の庇護のもと、楽しい日々を過ごし、大公国のことがとても好きになりました。この国の安寧を心より祈ります」
マリアンヌが存命の頃、彼女はそれほど早急にトリスティアに淑女教育をすることはなかった。
まだトリスティアが幼かったゆえに、貴族との関係を持つことを避けようとしていたようだった。そのため、わざと淑女教育を遅らせたのだ。
そして、城のパーティーや貴族に呼ばれた時にはマリアンヌが代行者として行っていた。すでに聖女の力は失っていたが、長年聖女としての役目を担ってきた彼女には名誉があった。
そうした貴族の集まりではないところには、マリアンヌはトリスティアを伴い、挨拶もさせていたので、トリスティアも聖女らしい挨拶はできた。
そして、今、トリスティアは心から祈っていた。アルスターが治めるこの国の安寧を。
トリスティアは歌う。アルスターの治世が素晴らしいものとなることを。
「トリスティア……」
アルスターはそのようなことはしなくてもいいと、トリスティアの歌を止めようとしたが、トリスティアが纏う空気に何も言えなくなった。
それはいつもの愛らしい幼い少女ではなく、偉大なる存在の力を秘めた聖女のものだった。
聖女トリスティアに触れていいのか、アルスターは迷った。そして、美しい歌が終わるまで、見守ることしかできなかった。
トリスティアの歌が終わると、拍手喝采が湧き起こった。
「悲しみの聖女様万歳!」という声まで上がっている。
平民たちは涙を流す者が多かったが、貴族は大勢の人間たちがいる前で涙を流すことをよしとはしないため、平民たちのように素直に涙を流すような者はいなかったけれど、それでも、涙を浮かべる者、それを隠そうとする者、目尻を赤くする者が多かった。
壇上から降りると、皆、トリスティアに群がった。
「素晴らしい歌声でしたわ」
「トリスティア様がおられればこの国も安泰です」
そう口々にトリスティアを讃える声に、アルスターは誇らしさよりも心配の方が勝ってしまう。
(トリスティアが無理をしなければいいのだが……)
そんな気持ちでトリスティアばかり見つめていたから、この国の重鎮が近づいてきていることに気づくのが遅れた。
周囲が少し緊張し、トリスティアを囲む人々が割れて道ができたことによって、やっとアルスターはその人物が目の前まで来ていたことに気がついた。
立派な身なりの老貴族が、トリスティアを見下ろして言った。
「大公国へようこそ。悲しみの聖女様を歓迎いたします」




