02 追放
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「私は聖王国サントエルバの王太子 ジョン・サントエルバだ」
マリアンヌの葬儀で出会った王太子は非常に傲慢な態度で小さなトリスティアを見下ろした。
「王子、悲しみの聖女様にそのような態度は……」
周囲の貴族たちが諌めようとしてくれたが、王太子は冷たい視線でトリスティアを見下ろしたまま言った。
「悲しみの聖女は不運を呼び込む存在だ」
トリスティアは王太子の言葉に呼吸を忘れ、そして、考えた。
王太子の言葉の意味を、まだ幼い思考で、一生懸命に考えた。
自分がもしも不運を呼び込む存在だったとして、それはつまり……
(マリアンヌ様が死んでしまったのは、私のせい?)
幼き心が軋み始めた。
「トリスティア様!」
悲しみの聖女の神殿の巫女たちが複数人でトリスティアを囲み、王太子との間に立った。
王太子は彼女たちを冷ややかな視線で一瞥して、その場を離れた。
「トリスティア様、あのような言葉、気にしてはなりません」
巫女たちは皆優しく、トリスティアのことを慰めてくれたけれど、トリスティアの心は晴れなかった。
それからしばらくして、騎士団長が悲しみの聖女の追放を知らせる書簡を神殿に持ってきた。
追放とは言っても、トリスティアは行き先も定まっていない状態で国外に出されたわけではなく、深い深い森を超えた先にある隣国への追放だった。
それは、八歳の少女を追放したことへのせめてもの配慮だった。
その配慮はトリスティアの追放を指示した王太子によるものではなく、指示された文官たちによるものだ。
王太子には秘密で行われた文官たちのトリスティアに対しての配慮は非常に行き届いており、危険な魔物の巣窟である森を抜けることなく、船で森を迂回して隣国へと行けるようになっていた。
王太子を含む一部の人間たちしか、悲しみの聖女の追放を望んでいる者はいなかった。
王太子と一部の貴族により悲しみの聖女が不幸を呼び込むなどという噂を国民たちの間に流されたが、それを信じる国民はごくわずかだった。
それでも、トリスティアの追放を止めることができなかったのは、ひと月ほど前に王妃を亡くした王が深い悲しみにより体調を崩し、休養の間、王太子に実務を任せていたためだ。
追放当日、一人で神殿を出ようとしたトリスティアに悲しみの聖女の神殿の巫女たち全員が、トリスティアについていくと言った。
「トリスティア様、私たちも一緒にまいります」
「それでは、今後、ここに祈りに来られる方が困ってしまいますよ」
トリスティアは彼女たちの同行を拒んだが、巫女たちの意志は固かった。
「トリスティア様がおられない神殿に意味はありません」
巫女たちはトリスティアと共に神殿を出て、悲しみの聖女の神殿には人がいなくなった。
そうして、トリスティアと巫女たちは海を渡り、聖王国の隣国へとやってきた。




