01 プロローグ
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「トリスティア、どこにいるの?」
広い神殿の庭で、一人の巫女が少女を探していた。
「はい! 聖女様!」
花と花の間から幼い少女が出てきた。
花の間にしゃがみ込むと、見えなくなってしまうほどの小さな体は、同年代の子供達よりも小さく華奢だった。
「トリスティア、わたくしのことはマリアンヌとお呼びなさいと言ったでしょう?」
「でも、私にとっての聖女様は……」
「トリスティア、悲しみの聖女はあなたです。そう、偉大なる見えざる存在が決めたのです。そのご意志に逆らってはなりません」
「……はい。マリアンヌ様」
聖王国サントエルバには四人の聖女がいる。
人々を勝利に導く勝利の聖女、怪我人や病人に癒しを与える癒しの聖女、人々に吉報をもたらす喜びの聖女、そして、人々の悲しみに寄り添う悲しみの聖女。
彼女たちはそれぞれに大きな神殿を持ち、信仰を集めていた。
聖王国は聖女たちを保護し、敬い、そして、聖女たちへの信仰心により支えられ、繁栄してきた国だった。
聖女たちはお互いを尊重し、認め合い、力を合わせてこの国を支えていた。
しかし、先代の悲しみの聖女がその力を失い、孤児の六歳の少女の額に聖女の印が現れてから聖女たちの協調が揺らぎはじめた。
悲しみの聖女は現聖女たちの中では年嵩で、彼女たちを導く存在でもあった。
その彼女が力を失ったことは、他の聖女たちにも影響を与えた。
「あら、またトカゲを見つけたのね?」
トリスティアの小さな手の中にトカゲがいることを見つけて、マリアンヌは笑った。
最初はトリスティアが好んで捕まえてくるものに驚いたが、今では慣れてしまった。
……諦めたという方が近いだろうか? 一緒に触ろうと言われたら困るけれど、トリスティアはそのようなことは言わなかったから、見る分には大丈夫になってきたのだ。
トリスティアは本当に心からトカゲのことを可愛いと思っているようで、その頭を指先でそっと撫でている。
「トリスティア、もうトカゲは逃してあげましょう。お祈りをして、それからお食事にしますから」
「はい。マリアンヌ様」
トリスティアは再び花の間にしゃがみ、地面にそっとトカゲを放す。
しかし、トカゲは慌てて逃げることもなく、トリスティアを見上げて首を傾げていた。
「トカゲさん、またね」
トカゲに手を振るトリスティアの姿をマリアンヌは愛しく見つめた。
マリアンヌは自分が他の聖女たちにとってどんな存在だったのかを知っていた。
そして、聖女の証が消えてしまう理由も知っていた。
それでも、この目の前の少女のことを愛さずにはいられなかった。
辺境の地の廃墟のような孤児院で育ち、この小さな体で院長の老婆を支えようとする姿にマリアンヌは心を打たれたのだ。
これまでも過酷な状況に置かれた子供たちを見たことはあった。
それでも、これほどまでに心を打たれ、惹かれたのはトリスティアが初めてだった。
「きっと、運命だったのね」
そうマリアンヌは思った。
その一年後、マリアンヌは不慮の事故で亡くなり、そして、マリアンヌが愛したトリスティアは追放されることになる。




