18 喜びに胸が苦しい
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トリスティアの淑女教育が始まり、家庭教師は令嬢としての立ち居振る舞いを指導してくれる作法の先生と、パーティーに出席した時のためにダンスの先生がつけられた。
まずは貴族間の礼儀を学ぶことを優先するため、教養に関しての家庭教師はつけられていないが、それでもアルスターはトリスティアの忙しさに心配になった。
「トリスティア、疲れてはいない?」
夕食の席でそう聞いたアルスターにトリスティアは予想に反して明るい笑顔を見せた。
「貴族の礼儀作法などは新しく学ぶことが多くて大変ですが、先生がとてもお優しいです。それに、ダンスの授業で音楽を聴くことができるので楽しいです」
家庭教師の人選はフランツに任せたが、トリスティアに合ったいい人選をしてくれたようだ。
「そうか。それならよかった」
「音楽がお好きでしたら、ピアノやヴァイオリンなどを学ぶのもいいかもしれませんね」
「ピアノでしたら、歌いながら弾けますわ」
フランツの言葉にサラも続いたが、アルスターはそれには首を横に振った。
「習うことは構わないが、聖女の教育や淑女教育が一段落してからでいいだろう。トリスティアが疲れてしまう」
「わたくしは、そうしたことを習ってもよろしいのですか?」
トリスティアがアルスターを見つめる。
「もちろんだ。トリスティアが習いたいなら、どんな家庭教師でも用意するよ」
「アルスター様はわたくしのお父様みたいです」
ほんのりと頬を染めて、トリスティアがそんなことを言った。
トリスティアは実の両親のことを知らないが、孤児院のおばあちゃんやマリアンヌのような存在がきっと母親に近いのではないかと思っていた。
しかし、身近に男性がいなかったために、父親というものがどんなものなのかはわからなかった。
だが、街の子どもたちとその両親の様子を見て、どんなものからも自分を守ってくれ、自分のどんな希望でも叶えてくれようとするアルスターのことを、父親とはこうしたものかもしれないと思い始めていた。
そして、アルスターはトリスティアに「お父様みたい」と言われて、感動していた。
あまりに強い高揚感に襲われて、心臓がぎゅうっとした。アルスターは胸に手を当てて、喜びに叫び出したいのを堪えて、トリスティアに微笑んだ。
「トリスティアが望むなら、私はいつでも父親になるつもりだよ」
しかし、そんなアルスターの言葉にはトリスティアは首を横に振った。
「街のみんなが言っていました。アルスター様は早く結婚した方がいいと。だから、わたくしにばかり時間を使わなくても大丈夫です」
(一体、どこの誰がそんな話をトリスティアに聞かせたのだ?)
アルスターはフランツに視線を向ける。フランツはこくりと一つ頷き、調べておくと無言のままに返事をした。
「あ」とトリスティアは小さな声をあげた。
「で、でも、もう少しだけ、アルスター様と一緒に寝てもいいですか?」
恐る恐るそんなことを聞くトリスティアがものすごく可愛くて、アルスターは再び胸に手を当てた。
夕食の後も執務を行い、トリスティアがベッドに入った頃にアルスターは寝室に行ったが、トリスティアはぐっすりと眠っていた。
「ベッドでトリスティアに本でも読んでやりたいと思うが、なかなか難しいな」
「最近、トリスティア様は寝つきがいいのです」
そうサラが答えた。
「寝つきがいいのはいいことですね」
トリスティアの寝顔を覗き込んでフランツが言った。
「悔しいですが、トリスティア様はアルスター様の隣が安心できるようです」
「最近は深夜に体を起こすことも少なくなった」
アルスターの言葉にサラがその目を輝かせた。
「では、私がトリスティア様と一緒に寝てもいいですよね!?」
「それで再発されたらどうするのですか? アルスター様と寝るのをやめるかどうかはトリスティア様に判断を任せるべきでしょう」
サラの期待の言葉にフランツがすぐさまそう返した。
「うう……」と、サラは黙ったものの、やはり悔しそうだ。




