15 カフェ 02
お読みいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけますと幸いです。
トリスティアは朝食を食べてきていた。カフェに行くと聞いていたために、朝食は控えめにしたけれど、そもそも食が細くてそれほど食べられないのだ。
ここで料理を食べてしまってはケーキはもう食べられないだろう。
トリスティアががっかりしているのではないだろうかと思って、フランツはそっとトリスティアに視線を向けた。
案の定、トリスティアはなんだか寂しそうな表情をしていた。
「トリスティア様、お料理は持ち帰りにして、ケーキをいただきましょうか?」
サラの言葉にトリスティアが不思議そうな表情になる。
「ケーキではなく料理が出てくると聞いてがっかりしていたのではないのですか?」
「いえ、マリアンヌ様のことを思い出して、少し寂しくなってしまったのです」
サラに心配をかけまいとにこりと微笑んだその愛らしさにサラはトリスティアを抱きしめた。
「マリアンヌ様はたくさんの人々の心の中で生きておられますから、きっとこれからもお話を聞く機会があると思います」
「はい」
トリスティアは寂しいけれど、嬉しいという複雑な表情で微笑んだ。
「お料理のことは、フランツと騎士団長様にご協力してもらいたいです」
トリスティアの言葉にフランツはその瞳を輝かせた。
「我々もご一緒してもよろしいのですか?」
「わたくしでは、食べきれませんから」
「それと」とトリスティアは言った。
「ケーキは持ち帰って、アルスター様と一緒に食べたいです」
「それは、アルスター様もお喜びになるでしょう」
フランツはそう頷いたが、サラは少し面白くなさそうだ。
「トリスティア様、私のこともグランヴァイツとお呼びください」
トリスティアから役職で呼ばれたグランヴァイツはサラやフランツのことが羨ましかった。
「グランヴァイツ様?」
「はい。そのように呼んでいただけましたら大変光栄です」
本当は敬称もなくても構わないと思ったグランヴァイツだったが、それはこれから貴族達と交流を持たねばならないトリスティアにとってはよくない習慣になってしまうかもしれないため、敬称不要との言葉は飲み込んだ。
カフェの店主は本当に張り切って料理を用意してくれたようで、大の男二人と女性一人がいたにもかかわらず、かなり満腹になった。
最後にトリスティアがケーキの注文をしようとした時にも「全種類を持って行ってください!」と言われたが、それにはトリスティアは首を横に振った。
「それでは、申し訳なくてもうこのお店に来ることができなくなってしまいます」
トリスティアにそのように言われてしまった店主は引き下がる他なく、非常にがっかりしていた。
「アルスター様! お土産です」
トリスティアは城に戻ると、すぐにアルスターの執務室に向かった。そして、ケーキを見せる。
「やぁ、おかえり。トリスティア。私にお土産を買ってきてくれたのかい?」
アルスターは非常に嬉しそうだ。事実、執務をしながらもトリスティアがどのように過ごしているのかをずっと気にしていたアルスターは、トリスティアが出先でも自分のことを思い出してくれたことがとても嬉しかった。
そして、トリスティアが選んでくれたケーキはとても甘く、普段ならアルスターには甘すぎて食べられなかったかもしれないが、トリスティアが自分のために選んでくれたのだという事実が嬉しくて、それはとてもとても美味しかった。
「トリスティア様は本当に利発でいらっしゃいます」
「カフェの店主をあのように黙らせてしまうとは」
何かあったのだろうかとフランツを見たが、フランツの言葉の後に続いたのは騎士団長のグランヴァイツの言葉だった。
「まさに、才女とはトリスティア様のための言葉のようです」
「カフェの店主が何かしたのか?」
痺れを切らしてアルスターは聞いた。
「トリスティア様のために全種類のケーキを用意しようとしたのですが、それをトリスティア様が止めてくださったのです」
「それはすごいな」とアルスターもトリスティアを褒めたが、トリスティアはまったく嬉しそうではない。
子供というのは褒められればなんでも嬉しいものかと思っていたが、トリスティアはそうではないようだ。
「フランツもグランヴァイツ様もお世辞をおっしゃらなくても大丈夫です」
「いえ、お世辞ではございません。トリスティア様は大変優秀で……」
「フランツ、トリスティアは自身の行いを冷静に評価できるのだ」
アルスターの言葉に、フランツはアルスターが以前にトリスティアは頑張りすぎてしまうところがあると言っていたのを思い出した。
それならば、優秀だというような言葉はあまり言わないほうがいいのかもしれない。
気負ってしまい、これまで以上にさらに頑張ろうとしてしまうかもしれない。
アルスターだけでなく、今トリスティアの周囲にいる大人たちは、トリスティアがどれほど頑張ってきたのかを知っているし、これ以上頑張る必要はないと考えている。
むしろ、トリスティアに必要なのは休息だ。
それなのに、トリスティアは城にいる間は聖女としての勉強をしたり、本を読んだりして勤勉に過ごした。
サラや他の侍女に誘われて庭に出ることもあるが、気になる動植物を見かけると図鑑が見たいと言って結局は図書室へと向かってしまった。
「トリスティア様はどうしてそんなに勤勉なのですか?」
「マリアンヌ様が生きるためには知識が必要だとおっしゃっていたもの」
確かに、サラもそのような会話を聞いたことがある気がするし、マリアンヌの言葉だったと言われてはそれを否定することもできず、なんとも言えなくなってしまった。
(しかし、子供とは外で遊ぶことのほうが好きなものではないのだろうか?)
アルスターはそう思ったが、トリスティアが自分から外に行こうという時は、神殿に行ってレクイエムなど、人々を慰める歌を歌うためだった。
だから、アルスターやサラ、フランツなどトリスティアの周囲の大人たちは、トリスティアを積極的に誘い、外に連れ出そうとした。
神殿ではなく、街の他のところへ連れ出すのだ。




