14 カフェ 01
お読みくださりありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけますと嬉しいです。
その後、トリスティアはサラと一緒に自室へと戻り、着替えて食堂へと向かった。アルスターも身支度をして食堂へ行き、トリスティアと一緒に朝食を食べる。
「トリスティアは今日はどこに行きたい?」
アルスターの言葉にトリスティアは少し考え、首を横に振った。
「今日は出かけないのかい?」
「アルスター様はお仕事があるでしょう? わたくしと一緒に出かけてしまうと、夜遅くまで」
「そんなこと、気にしなくてもいいんだよ?」
(何せ私は丈夫なのだ! トリスティアに認められるほど!!)
そのことをアルスターは誇らしく思っていた。
「アルスター様が来るまで、サラがわたくしと一緒にいて、休もうとしないのです」
トリスティアが自分のことを心配してくれたのかと少し嬉しくなっていたアルスターだったが、どうやら、トリスティアの真意は違ったようだ。
トリスティアはサラのことが心配なのだ。
「トリスティア様」とサラは感動している。
アルスターはそんな二人の様子に微笑ましくなった。
ほんの少しだけ、トリスティアが自分を心配してくれての言葉じゃなかったことにがっかりはしたけれど、トリスティアが自分のことをどこまでも丈夫で強い頼れる人間だと思ってくれているのならばそれでいいと思えた。
(やはり、これが父性なのだろうか?)と、アルスターは少しワクワクとさえしていた。
トリスティアが大公国にいてくれる限りは、自分は頼れる人間でいたいと思った。
「トリスティア様のサラに対しての心配もごもっともですから、アルスター様は今日は外出せずに執務をするのがいいでしょう」
フランツがトリスティアの味方のような顔でそう言った。
フランツの態度が少し鼻についたアルスターだったが、トリスティアの提案に賛同することにした。
「そうだな。それでは、今日は私は執務に専念することにするよ」
「では」とフランツがニィッと口角を上げた。
「本日は、私がトリスティア様をカフェにご案内しましょう」
「え?」とアルスターが動揺する。トリスティアが出かけるのならば自分もトリスティアと一緒に出かけたい。
「あ、護衛には騎士団長を連れて行きますから、アルスター様は執務に専念していただいて大丈夫ですよ」
「いや、トリスティアが出かけるのならば、私も一緒に出かけたいのだが?」
しかも、カフェに行くという。大公国は小さな国だが、聖王国の高級ホテルでシェフをしていたという男が経営している評判のカフェが一軒あるのだ。
「トリスティア様、アルスター様があのように申しておりますが、いかがいたしましょう?」
そこでトリスティアに聞くのはずるいだろうとアルスターはフランツを睨んだ。
「では、何かお土産を買って参りますね」
トリスティアの笑顔と百パーセントの善意にアルスターは泣きそうになった。
「トリスティア様、本日は私がしっかりとお守りいたしますので、安心してください」
大公国騎士団長であるグランヴァイツの言葉にトリスティアは頷いた。
「でも、大公国の国民は皆優しくて、不安に思ったことはありません」
「そうですか。それは大公国の一国民として嬉しいことです」
トリスティアがこの国を気に入ってくれたなら嬉しいとグランヴァイツもフランツもそう思っていた。
それは、彼女が聖女だからではなく、幼くして聖女の役目を担い、さらに親しい人との別離を体験し、その上、大人の悪意に晒されて追放などという酷い状況に置かれた幼い少女には大きすぎる運命に同情していたからだ。
最初はそのような同情の気持ちでトリスティアを受け入れた。
しかし、実際に接してみたトリスティアは本当に愛らしかった。
過酷な運命の中でもトリスティアの愛らしさは揺るぎのないものであり、その純粋さに大人達は目を奪われたのだった。
「さぁ、トリスティア様、カフェに到着しましたよ」
フランツが馬車の扉を開けると、目の前には華やかな建物があった。
聖王国にいた頃にはカフェになど行ったことのなかったトリスティアはその建物の華やかな様子を見ただけでワクワクとした。
「悲しみの聖女様、ようこそおいでくださいました」
大公の紋章のついた馬車が到着したことに気づいた店主が店から出てきて頭を下げた。
「そのような出迎えは不要と伝えたはずだが?」
フランツの言葉に初老の店主は「そういうわけにはまいりません」と答えた。
「私は前悲しみの聖女であられたマリアンヌ様の祈りの歌に何度も心を救っていただいたのです」
カフェの店主は聖王国の出身のため、大公国の人間たちよりもずっと聖女という存在に馴染みがあり、特に、それなりに年齢を重ねた者ならば親しい者を亡くした経験もあり、何度となく悲しみの聖女に慰められたのだろう。
「本日はケーキ以外にもお食事も召し上がって行ってください。腕によりをかけて準備させていただきます」
「いや、朝食はとってきたので、ケーキだけで……」
フランツの言葉に、店主は「いやいや、そんなことおっしゃられないでください!」と張り切っている様子だ。
「困りましたわね」
店主はトリスティアを席まで案内すると、厨房へと戻っていく。その嬉しそうな様子の背中を見つめて、サラはこぼした。




