12 サラの懸念
お読みいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけますと幸いです。
アルスターは懸命に書類と向き合ったが、その書類が片付いたのは結局、夜遅くだった。
またトリスティアが眠った状態で動いては悪いので、アルスターの仕事が終わるまではサラとフランツがアルスターの寝室で先に眠っているトリスティアについていることになっていた。
最後の一枚に印を押すと、アルスターは執務室を出て寝室へと急いだ。
寝室の扉の前にはいつもなら立っている護衛騎士の姿がなく、今日はすでに部屋の中にいるのだと推測できた。
トリスティアとは、夢遊病だとわかった昨日の夜から一緒に眠っている。
護衛騎士は元々は廊下に立って警護をしているのだが、昨夜からは部屋の中で警護を行っているのだ。
それは、フランツの配慮だった。
アルスターは昨夜のやりとりを思い出す。
昨夜も、護衛騎士は室内にいた。
「どうして中に?」とアルスターが疑問を口にする前に、フランツがアルスターに気づいて近寄ってきた。
ちなみに、トリスティアはすでにアルスターの広いベッドに横になって眠っており、その傍らにサラが椅子に座っていた。
「トリスティア様のご病気が治り、お二人が一緒に眠る必要がなくなるまでは護衛騎士が室内で護衛をいたします」
「そうか」とアルスターは頷いた。
万が一にも、トリスティアが眠った状態で起きてしまった時に、自身が気づくことができなくても、護衛が室内にいれば、自分を起こしてくれるだろうと思った。
そのアルスターの様子を見て、フランツは満足そうに頷き、トリスティアが眠るベッドの横にいたサラに視線を向けた。
「サラ様、それでよろしいですね?」
「彼女がどうかしたのか?」
「サラ様はアルスター様がトリスティア様に不埒なことをしないか心配で、自分もこの部屋で過ごすと主張していたのです」
「はぁ!?」とアルスターは声を上げた。
「そのようなことするわけがないであろう!?」
「バカ真面目なアルスター様のことをよく知っている我々はアルスター様がそのようなことはなさらないことはわかっていますが、そうではない者が心配するのもわかります」
何せ実際にそのような性癖を持つ変態というのは世の中に存在するのだから。
アルスターは額に手を当てて頭痛を堪える。
「他の貴族にも誤解を与えないように、護衛騎士を中に入れさせていただきました」
「わかった」
「さぁ、サラ様も自室へとお戻りください」
「しかし……」とまだトリスティアのそばにいようとするサラにフランツは言葉を続けた。
「あなたまで倒れては、トリスティア様は聖王国の王太子の言葉が本当だったのではないかと不安になりますよ」
トリスティアが不幸を呼び込むなど絶対にないことだが、優しいトリスティアはその言葉を信じ、傷ついているために夢遊病になってしまった。
夢遊病の治療に必要なのは、絶対にそんなことはないとトリスティアに信じさせ、安心させてあげることだ。
しばらくトリスティアの寝顔を見ていたサラだったが、「わかりました」と椅子から立ち上がり、自室へと戻っていった。
それが、昨夜のやりとりだった。
(今夜はサラはすぐに納得して部屋に戻ってくれるだろうか?)
少し不安を感じながら、アルスターは自室の扉を開いた。
部屋に入ると、意外なことにすでにサラはいなかった。
「サラはどうしたのだ?」
フランツに聞くと、フランツは苦笑していた。
「サラは、今夜はトリスティア様と一緒に寝たいと言い、トリスティア様に自分のせいでサラまで倒れたらダメだと諭され、トリスティア様もサラのことが心配だから、サラが部屋に戻るまでは寝ないと言われてしまい……」
それで早々に部屋に戻ることになったらしい。
「トリスティア様は非常に賢いですから、あまりこちらがわがままを言うと諭されてしまうようです」
「我々も気をつけなければいけないな」
きっとサラはひどく落胆して、トボトボと部屋に戻ったのだろうと思うと、アルスターはサラに少しばかり同情した。
「では、アルスター様、私も失礼します」
そうフランツも恭しく頭を下げてから退室した。
ベッドにはトリスティアがすやすやと心地良さそうに眠っていた。
その寝顔に、今日も何事もなく朝まで眠っているかもしれないと思った。
昨夜は起き上がることなく、トリスティアは朝までしっかりと眠っていたのだ。
今夜も安心して、朝まで眠ってくれているといいと願いながら、アルスターは目を閉じた。
しかし、それから数時間後、アルスターは隣の小さな存在が身動いだのを敏感に感じた。




