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襲撃です

悠々自適とした生活もそう長くは続かなかった。


 生成した木材を資材置き場に収めている所で森の騒めきに気付いた。

 薪割をしていたフリージアも同じ方角を見ている。


「…まさかモンスター?」

 フリージアが呟いた。 


 人と相容れない魔物達。モンスターが近づくと被捕食者の性か、人間は本能的に不快感を感じる。普段は緑豊かな森も、心なしか魔境じみて見える。肌が泡立つ感覚と言い、ほぼ間違いないだろう。

 …そして森には罠の確認の為に朝から出て行ったソラリスがいる。


「フリージアさん、お願いできますか?」

「フリージア、でいいですよ。…私は南側から。ソラリスの猟の手伝いをしたから、道は分かるし」

「俺は北側から合流するようにします。…お気をつけて」

 言ってから苦笑した。実力からして心配する立場が逆だ。



 

 眉間に矢を受けたオークが仰向けに倒れた。だが、まだ二体のオークと数十体のゴブリンが木々の隙間を縫うように迫ってくる。オークは圧倒的なパワーで邪魔になる木々を圧し折りながら進んでくる。


 ソラリスは次の矢を番えるのを諦め、全力で逃げた。…数が違い過ぎるし、弓で戦うには相手が悪すぎる。強力なモンスター数体より、ゴブリンのような集団で襲ってくる雑魚敵の方が苦手だった。必然的に矢が大量に必要になる上、どうしても押し込まれやすくなる。 …オーク三体だけなら何とかなるのだが…


 足に何かがぶつかって、ソラリスは躓いた。驚いて足元を見ると、ゴブリンの投擲した棍棒だった。


「っ!」


 転んでいる間にゴブリンの集団が迫っていた。矢を番え、狙いを定めずに一射してから再び駆けだした。

 背後で同胞の体に躓いた数体のゴブリンが倒れたらしい怒号が聞こえたが、振り返らずに森の中を走り続けた。


「ソラリス!」

 前方にフリージアが立っていた。ボルトアクション式のカービンライフルを構え、ゴブリンに向けて立て続けに発砲。

 五発全弾を撃ち尽くすと、腰回りに下げた革のポーチから5発装填のクリップを抜き取り、手慣れた素早さで装填を済ませた。

「オークを仕留められますか?オークさえ居なくなれば、ゴブリンも高確率で逃げ出すでしょう」

「わかりました!」

 ソラリスもその隣に並び、オークに向けて矢を放った。…僅かにずれ、矢はオークの片目を裂きながらも外れた。


 怒りに駆られたオークが勢いを増して突進してくる。ソラリスが怯み、息を呑んだ。


「もう一度!一体は私が引き受けますから」

 フリージアがサーベルを抜き払い、ゴブリンの群を切り払ってオークに肉薄した。オークの振り下ろす斧を避け、その腕を切り上げて両断。更に追撃でオークの硬い、鎧じみた体毛と筋肉を易々と刺し貫いた。肋骨の隙間から突き入れられたサーベルが心臓を貫いていた。


 最後のあがきにオークが斧を投げつけるが、それも軽々と躱す。


 ソラリスももう一体を狙い澄まして矢を放った。今度こそ眉間の間を突き破り、オークが前のめりに倒れ伏した。


 ゴブリンはまだ二十体近くいるが、群れで襲い掛かってもフリージア一人に触れる事すら敵わず、一斉に反転して逃げ出した。


「仲間を呼ばれてもまずい。私は追撃しますから、ソラリスはこのまま南の沢を抜けて家に戻って下さい。きっと途中でウルズと合流できる筈ですから、この事を伝えて下さい」

 

「わ、わかりました。…お気をつけて」



 まとまって逃げ続けるゴブリンの背に走りながら銃撃を浴びせた。5、6歳児程度の体格しかないモンスターの中でも最弱の代名詞であるゴブリンは、銃弾が腕以外のどこかに当たっただけでほぼ確実に戦闘不能になる。ゴブリンの脅威はその集団連携にあるが、それもさっきのオークのように大柄で手強いモンスターを主力として、その間隙を埋めるのがゴブリンの役目だ。いくら数十体いたところでフリージアほどのベテランの敵では無かった。

 

 それ故、ゴブリンの討伐報酬も限りなく0に近い、あってないようなものだが。…1000体やって店で紅茶一杯飲める程度だろうか。


 だが、より強力なモンスターに人間の居場所を教え、より強力な大軍で押し寄せてくる事もある。決して油断していい相手では無かった。



 撃ち減らされたゴブリン達が逃げるのを止め、反転した。少し広まった場所に四体のトロールが待ち構えていた。


「…それで罠に嵌めたつもりですか」


 ガサ、と藪を鳴らしながら人影が近づいてくる。

「ウルズですか?」

 …返事は無く、代わりに漂って来た腐敗臭にフリージアは顔を顰めた。人影はゾンビだった。人間の腐敗した死体にゴーストが憑りついたモンスターが森の中を数体、こちらに向かって近づいてくる。

 ゴブリン、ゾンビ、トロール…大量のモンスターに囲まれ、フリージアは舌打ちした。…人間相手であればもっと大勢を相手にしたことはあるが、モンスター…それも三種類ものモンスターの大群を相手にするのは初めてだった。…合わせて50体前後居るはずだ。


「…しかし、一体どこから…」

 …いや、今は考えている場合ではない。先ずは生き残らねば。 退路は既にゾンビの集団によって塞がれていた。

 強引に突破して逃げる事もできるかもしれないが…そうなるとさっきソラリスがやられかけたように、足の速いゴブリンが自分に追い縋って妨害して来るだろう。万一捕まり、続くゾンビやトロールに囲まれてしまえばまず助からない。 …背を向けるにはリスクが高すぎた。 それに、上級執行官である自分がこんな下等モンスター達に背を向けて逃げるのはプライドが許さなかった。


 トロールと、その後ろに続くゴブリンが迫って来た。棍棒を避け、飛び掛かるゴブリンを蹴り払いながら、トロールを一体斬り捨てた。別のトロールの棍棒が鼻先を掠めるが何とか躱す。足に飛びついてきたゴブリンを切り払い、一旦距離を取った。


 背後から近づいていたゾンビの胴体に突きを放った。

「しまっ…」

 思い出し、剣を引き抜こうとするがゾンビがサーベルをガッチリと掴んで離さない。

(頭をやらねばならないのだった…!)

 ゾンビに蹴りを放つが、それでも剣を手放さない。


 他のゴブリン、ゾンビが迫ってくる。剣を諦め、短刀を抜き放った所で右足にゴブリンがしがみ付いた。短刀で頭部を一突きして引き剥がす。 反対側から迫って来たゾンビの頭部を一突きしてこれも倒した。

 …ゾンビに噛まれたら同じゾンビになるという噂は聞いている。実際に見た訳では無いので真偽の程は分からないが…こんな姿にされるのは絶対に嫌だ。

 空がどんよりと曇り、小雨が降ってきた。


 敵の包囲網が狭まり、次第に身を躱す事もままならなくなってきていた。…このままではいずれ…

 と、一条の矢が背後から迫っていたゾンビの頭部を射抜いて仕留めた。ウルズとソラリスが駆けつけてくれた。

「フリージア、こっちへ!」


 ウルズの声に従い、矢で倒されたゾンビによってできた穴から逃げ出し、敵の包囲網から逃れた。


「敵の数が多すぎる!…一旦逃げますか?」 

 ウルズを見た。何故か剣ではなく、数本のスローイングナイフを持っている。


「そうしよう。…あいつらから離れて!」


 そう言いながら手に持っていたスローイングナイフを無造作に敵集団の方へと放り投げた。…あれでは刺さりもしないし、撒き菱にもならないだろう。


 敵に背を向ける屈辱を抑えつつ、ウルズに背を押されてソラリスと共に駆け出した。ウルズは何やら地面を横一文字に…まるで結界でも張るように撫でている。 


 直後、ばら撒かれたスローイングナイフを飛び越えてやって来た三十体以上のモンスターの集団に落雷が襲い掛かった。悲鳴を上げる間すらなく、全てのモンスターが黒焦げになって倒れた。周囲の草木にも幾らか延焼しかけたが、折からの雨で山火事にはならないだろう。

 …天の御加護…だったのか? しかし…


 ウルズを見るが、ウルズは視線を逸らした。


「…ウルズ…今のは君が?」

「いや、偶然だと思うよ」

「嘘。…仕事柄、嘘を見抜くのは得意なんです。…君は本当に魔法が使えるのですか?」 

「…調律を使って、あのナイフに時限式で電荷を蓄えさせただけだよ」

「デンカ?」

「要するに雷が落ちやすくなるって事」

 簡潔に説明し、スローイングナイフを回収してきた。


「…まさかこんな所にモンスターが出てくるなんて…下見した時にはそんな気配全く無かったのに…」

「と、とにかく雨も強まってきたし、今日は一旦家に戻りませんか?」

 確かに。ここで話していても風邪を引くだけだろう。 ソラリスの提案に従い、家へと戻った。

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