居候が増えたので買い出しです
女憲兵・フリージアへの高い評価と人物像はわずか三日で180度…とまで言わないが、90度は下方修正されることとなった。
まさか3日後の夕飯時にまた訪ねてきた時は茫然自失としたものだ。
それも、悪びれる様子も無く、あの糸目でニッコリと満面の笑みを浮かべながら「ここを拠点にして脱走した副騎士団長を捜索する」ときたのには参った。正式な徴収令状まで用意してくる周到さだ。
…どうやら、餌付けが効きすぎてしまったらしい。
勿論断る事などできず、呆れながらも今は増えた住人の為に増築作業に勤しんでいた。
ソラリスはシチューなど簡単な煮込み料理はできたが、フリージアは家事全般がまるでダメだった。これまではどうしていたのかと聞くと、駐留先や自身の邸宅では専門の世話役や家政婦がおり、そうした人々に任せっきりだったという。
彼女が居候として提供できる見返りは、自分を見逃し続ける事による身の安全の保障と、力仕事、狩猟の補佐、外敵へのセキュリティだった。
憲兵上級執行官という立場もさることながら、剣の腕前と格闘能力も見事な物だった。
間違いなくどちらも、ステータスも自分より上。職種は重騎兵。持ってきたカービンライフルも扱える。
本人曰く、騎士団長クラスの造反や取り押さえを想定して徹底した鍛錬を続けた結果だという。
長身とはいえ細身な体にも拘わらず、ステータスのお陰か重労働はお手の物だった。その為、増築作業を手伝ってもらった。個室を新たに二つ作り、ベッドも作った。
とはいえ、快適な寝具などはさすがに一から作るのでは手間がかかり過ぎる。
二人とも料理を楽しみにしているようなので、買い出しも兼ねて王都へと向かう事にした。フードを被り、フリージアの従者という体で向かえば誰にも怪しまれることは無い。
留守をソラリスに任せ、フリージアの馬に跨って王都を目指した。
およそ二ヶ月ぶりの王都だった。確かに街中の至る所に自分の張り紙が貼られているが、兵も人も血眼になって探している訳でも無い。…肝心の懸賞額は…中々に魅力的な値段だった。…よくフリージアは自分を突き出さなかった物だ。…まさか本当にシュガードーナツで釣られた訳では無いと思うが…
寝具等生活必需品を二人分揃え…虫の知らせというか嫌な予感がして、もう二組ほど自分の金で余計に買い足しておいた。
そして牛乳と卵、海魚を幾つか買った。今のところ、これ以外はあの山で取れる物を調律と精製することで大抵の物は手に入る。それでも念の為、家庭菜園ができる程度の種も買い揃えた。
正門でもそうだったが、フリージアの顔パスのお陰で誰にも怪しまれる事なく、悠々と用事を終える事ができた。
「夕食に何を食べさせてくれるのか楽しみです」
フリージアへの不満を強いて挙げるなら、ちょくちょく自分に話しかけてくる事だった。基本不干渉で無駄口を殆ど叩かないソラリスとは違う。 それでも許容範囲だったが。
基本的に必要な場と必要な時以外口を動かしたくない自分は、独り言かどうか判別し兼ねる時は独り言と判断して聞こえない風を装ってスルー…無視した。それでもフリージアは気にした風でもなく、執拗に詰ってくる事も無かった。 だから自分の傍に居ても不快には思わなかった。
夕食はジビエをほぼ豚肉にしたものと山菜を生成した野菜類で肉野菜炒めと、ソルガムを精製して米に近付けたもの。山中で手に入れたツルマメを調律して大豆代わりにして、更にそれを豆腐に精製して豆腐の塩スープも作った。
味噌汁を作るにはまだ試行錯誤と手間暇が必要だった。
このユニークスキルにはつくづく感謝する。まさか異世界転生しても日本と同じ物が手軽に食べられるとは。
一流グルメ批評家が食せば日本のブランド米には到底及ばない事はバレてしまうだろうが、二度と米が食えないと諦念していた自分にとってはこの上ない御馳走だった。
…テーブルの対席に座った二人の反応もすこぶる良い。
「このトーフ? 不思議な食感ですね。栄養もありそうだし、傷病者の食事に出してやりたいものです」
「ヤマクジラの肉がこんなに柔らかくなるなんて信じられません!このゴハンも食べ応えがあって美味しいです!」
「念の為柔らかくしたパンも用意したんだけど、二人とも口に合って良かった」
料理の感想を聞くのは好きだった。その時だけは頬を緩め、種明かしと蘊蓄に饒舌になっている自分がいる事にウルズは気付かなかった。
食事を終えると、キッチンに置いていた樽を持ってきて開けた。調律によって氷がたっぷりと詰まった冷凍庫状態になっている樽の中からボウルを取り出した。ボウルの中にはソラリスが取った獲物から精製したゼラチン質・牛乳・卵・砂糖を加えてかき混ぜたクリームが詰まっている。それをパン生地から精製したコーンに盛りつけ、ソフトクリームを二人に振舞った。
初めて食すであろうソフトクリームに、ソラリスは勿論、フリージアも感動してペロリと平らげてしまった。
「腕も立って手先も器用で、不思議な料理を次から次へと作り出す。あなたには驚かされてばかりです」
「魔法使いでも驚かされるでしょうね。…ここへ来てから、初めて里を追い出されて良かった、と思えました」
(…まぁ、二人とも悪い奴じゃなさそうだ。…最初の計画とは違うけど、暫くはこんな生活もアリかな…)
アイスクリームのお代わりを幸せそうに食べる二人を見て、そんな事を考えるようになった。




