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婚姻で身を固めさせられるくらいなら脱走です

 休日を申請して王都で必要な物資を買い漁った。当面の食料、衣類、武器防具、狩猟具、生活用具…


 買い物をしている間は楽しかった。新しい生活の準備というものは須らくして楽しいものだ。


 前世では入社二日目でその新しい生活もぶち壊されたが。


 まぁ、それも転生した今となってはある意味で自身の経験値となったのだから良しとしよう。



 12の体では到底運べないような大荷物だが、身体強化が大いに役に立った。荷台一杯の物資を積んだ荷車を引いて目星をつけておいた辺境の森の中に隠し、翌日の早朝に王都へと戻った。


 

「休暇なんて珍しいわね?」


 兵舎に戻ると、珍しくエイミーが話しかけてきた。


「ええ、両親の頼みで野暮用がありまして」 


 エイミーが何か言い出そうかと迷う素振りを見せた。酷く嫌な予感がして、一礼してその場を後にした。



 

 その晩…城の殆どの者が寝静まった頃、ウルズは城から抜け出した。

 勘の良い衛兵が一人、自分に気付きかけたが手早く取り押さえて眠らせた。


 夜闇に紛れて王都を抜け出し、すっかり日が昇った頃、例の辺境の地へと辿り着いた。


 

 家づくりから始めた。わざわざ伐採鋸を買って来たが、思いの外過酷な作業だった。…もしやと思い、王都で買った剣を調律して木を切りつけた所、一撃で伐採できた。


 鋸には武器補正が掛からないが、剣なら自分の汎用剣士としての補正が掛かるらしい。


 剣で自分の家を建てる敷地にある木々を伐採し終え、大量の丸太を「精製」する事で木材とした。基礎まで作るか迷ったが、流石にそこまでの知識は無かったし、そう大きな地震が多発する世界にも見えなかったので、箱型のログハウスを建てた。

 建築しながら調律を掛けて固定する事で、釘や建築用接着剤、防腐剤を使う事も無く住居が出来上がっていく。


 木材の積み重ねと組み立てにはやはり身体強化が十二分に活躍してくれた。



(初めてのお家作りにしては上出来だろう)

 

 時間と資材は幾らでもあったので気長に増改築を進めていき、木製家具に土を精製して陶器の湯船も作った。

 ユニークスキルの助けがあるとはいえ、意外にも自分の手先が器用だったことに気付かされた。 

 

 DIYの時間も実に楽しかった。仕事と違って好きな物を作れるし、ゲームと違って実績が形として残る。


(こんな事なら前世でも休日にこうやって…ああ、その時間が無かったか)

 

 半月ほどで取り合えず前世でも過ごしていた程度の生活が行えるだけの家具や設備を整えて出来上がり。水回りだけが厄介だったがまぁ何とかなったし、いつでも増改築はできる。


 後は試行錯誤しながら罠を作って設置し、弓矢の練習をして猟に臨む準備を整えた。

 自分の仕掛けに獲物がかかるかどうか、密かに期待しながら。




 

 …まさか記念すべき最初の獲物が人になるとは思わなかったが。

 


 蔦で編んだ仕掛け縄が、美しい色白な脚を吊り上げていた。重力でローブがめくれてしまい、気の毒な姿になっていた。…若い女性。面倒な事にならなければいいが…


 訴訟、暴行罪…そんな良からワードが脳裏に浮かぶ。


(しかしなんてこった…一ヶ月程度でもう人が来るとは…)

 


 確かに王都からそう遠すぎる訳では無い。だが、周囲は急峻な地形に囲まれており、ここは開発するにも猟をするにもうまみのある場所では無い筈なのだ。


「申し訳ない、すぐに下ろします!」


 女性は反応しなかった。何時間逆さづりになっていたか分からないが、体への負担は相当な筈だ。

 死んでなければいいが…もし、死んでいたら…

 良からぬ考えを振り払いながら縄を掴みながら切り、女性を解放した。


 地に這いつくばった女性はやはり動かなかった。非常にまずい。


 冷や汗を流しながら被さっているスカートを元に戻すと、長く豊かな黒髪が溢れた。体を仰向けにすると、目を瞑ったまま…気を失っていた。呼吸はしている。


 安堵の溜息を吐くと同時に、違和感に気付いた。長い耳。 


(エルフってやつか…王都では見なかったな…)


 いや、見た。奴隷のオークション市と、繁華街で調達中に通りかかった女衒で。


 …どうやらエルフ族はこの世界であまり良い扱いをされていないらしい。


 と、眠っていたエルフの少女が目を覚ました。自分と同年代に見える。


「あ、あなたは…!? …一体何が…?」

 

「申し訳ない、俺の仕掛けた猟罠だったんだ。…体の方は大丈夫?」

「え、ええ…」


「お詫びに必要な物があれば、少しですがお金や食料もありますが?」


 魅力的な少女ではあるが、自分は静かに暮らしたいだけだ。詫びを渡して後腐れ無くして、お互い不干渉のままそれぞれの生き方をしたいものだ。


「あなたはここに住んでいるのですか?」


「…そうだけど」


 調べられる範囲でこの国の法を調べてみたが、土地の所有に関しては「占領したもの勝ち」が基本だ。…極めて野蛮だが、「例え誰かの土地だろうと奪われた方が悪い。文句があるなら傭兵なり軍隊でも雇って自力で奪い返せ」というものだ。


 この地もガラド王国領だが、隣国とを隔てる峡谷はとても軍隊が行き来できる地形ではなく、また戦略的価値の低さから隣国からも王国軍からも見放された辺境の地だった。

 だからこうして自分が住み着いた訳だが。


「お父さんやお母さんは?」

「いないよ」

 即答。

 …というか必要な物を言って早めにどこかへ行ってもらえると助かるのだが。さっさと猟をしなければ、今日の成果がこの少女へのお詫びという、赤字決済で終わってしまう。



「…あの、もしよろしければ匿って欲しいのですが」

「え」

 余程嫌な顔をしてしまったのだろう。少女の顔が曇って、流石に心が痛んだ。



「…何があったの?」 

 せめて話くらいは聞こう。数日寝泊まりさせるくらいは構わない。


「…ご覧の通り私はエルフなのですが、髪が黒いのです」


 

 …おそらく一分弱、間抜けな時間が流れた。だから何だ、と思わずツッコみたくなる所を、少女の真剣な眼差しに免じて堪えた。


「…確かにエルフと言えば金髪、碧眼というイメージがあるけど…」

 あくまで自分の元居た世界での一般的な固定イメージだが。

 だがこの少女は日本人と変わらぬような黒髪に赤い瞳だ。しかし、だから何だという疑問は解消されない。


「そうなんです。この見た目によって同族達からは疎外されて里を追われ、そうでなくとも奴隷商からは高値で売れると狙われているのに、この風変わりな容姿が希少価値だとでもいうのか、一度正体が知られれば血眼になって追われ…王都からも逃げ延びてここに…」



「…王都の様子はどうだった?」


「奴隷商に追われた以外は特に変わった事は…あぁ、国一の剣士…騎士団副団長が失踪したと噂を聞きました。懸賞金をかけて生け捕り・通報を呼びかけていました」


「…そうか」


 強いて挙げるなら罪状は軽い暴行罪と兵役未了だが。あの状況ではああするしかなかった。なし崩し的に逃げられない状況にされる所だったのだから。


「お互い大変だね。…まぁ、落ち着くまでしばらくいると良いよ。ええと…」

「申し遅れました、ソラリスです。ソラリス・イベリシアです」

「俺はウルズ。…見ての通り何も無い所だけどよろしく」

 

 こうして奇妙な逃亡者同士の生活が始まった。 

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