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平団員でもいいです

 無理矢理騎士団制式の武器防具を身につけさせられ、兵舎に押し込められる形で入団させられてしまった。


 取り合えず平団員からと言う事で末席に置かれるのは良いのだが、懸念した通り…集団生活はウルズにとって苦痛以外の何物でも無かった。

 せめて個室でも与えられれば良かったのだが、騎士団に置いてそんな上等なものが与えられるのは団長と副団長のみ。実力に物を言わせてのし上がれば副団長の座も目指せるらしいが、そこまでするくらいならさっさと除隊してしまいたい。


 数週間だけ在籍して、無能を演じて不名誉除隊にしてもらう作戦を取った。


 

 あえなく失敗したが。


 

 流石に最強騎士団と呼ばれるだけあって、手加減と手抜きは全く見逃してもらえなかった。

 

「貴様の実力はそんなものではない。我らの目は節穴では無いぞ」

「貴様はいずれ、この銀狼騎士団を背負っていく身なのだぞ」

「私達に遠慮をするな、お前の全力を見せてみろ」 

 

 などと、自分が最も嫌う体育会系の暑苦しいノリで迫られ、あれよあれよという間に副団長の栄転と言う形でその座に成り代わる事となった。 僅か一ヶ月の、逆に大丈夫なのかと心配になるスピード出世。


 

 個室が手に入った事はありがたかったが、そもそも自分は騎士団に入りたかった訳では無い。


 しかも副団長ともなると、個室に引きこもっている暇は殆どなかった。団長であるメアリーの隣に控え、各会議や、時には王族のいる厳粛な場にも同席しなければならなくなり、益々自分の描いた生活から遠のいていった。


 終いには自身の身辺調査をされてしまい、縁を切ったつもりのあの生家がこの世界でもかつて名家…没落気味の貴族だったことが判明してしまった。


 すると何が起こるかと言うと…現金にも今になって自分を熱心に探し出した家族愛溢れる両親がやってきた。


 会いたくなど無かったが、育てられた事は事実だし、周囲に押しやられるようにして感動の再会とやらを演じる羽目になった。

 

 もっともらしい顔で上の空の自分の前で、幾分老けて見える両親がぺらぺらと饒舌に何事か話し込んでくる。

 良く喋るものだが、と感心した。今まで自分に話しかける事など殆ど無かったのに。 

 その方がありがたかったのだが。


 両親が何を期待して来たのかは知らないが、恐らくその期待は破られるだろう。

 自分はここに長居するつもりは無いのだから。名声にも興味は無い。ただ、この世界では今度こそ極力人から離れて静かに暮らしたいだけだ。


 絵に描いた生活が、この世界なら出来そうだから。



 ともあれ、世間は自分の思惑通りに進んでくれないものだ。


 副官として苦痛の日々を送っている内に、どういう訳かあらゆる方面から何かとアプローチを受ける事が多くなった。どうやら、自分にとって当たり前にこなしていた雑事…騎士団幹部としてこなしていた事務処理の速さと正確さが周りには天才じみて見えるらしい。


 ハッキリ言って、こんなものは小学生のプリント提出レベルだった。…あの社畜時代の、人間を消耗部品として扱う仕事量に比べれば。

 

 チュートリアルEXPのお陰で手に入れた十分な実力に加え、身体強化。ユニークスキルを使うまでもなく、これまでに参加した幾つもの作戦に少なからず貢献してきた。その後もレベルアップを続け、王都の新たな英雄誕生、などと浮かれた噂が立つのは迷惑だったが。


 更に迷惑なのは、それで手合わせを望む武芸者が自分を尋ねてやってくるようになった事だ。これはどんな悪評が立とうと、悉く断った。どうせもうすぐ騎士団も辞めるのだから、悪評などどうでも良い。


 文武両道、騎士団の実質最高幹部として不本意な日々を送り続ける日々。

 最早不名誉除隊の道は閉ざされ、正規の除隊手続きへと方向を転換していた。正規除隊の為には、最低三ヶ月の在籍が最低条件である。既に二ヶ月半以上を過ごし、あともう一週間、という所まで来ていた頃。


 

 メアリーの様子がおかしい事に薄々勘付き始めた。


 節介焼きな鬱陶しい人間の特徴に漏れず、何かとスキンシップを仕掛けてきて口うるさく指図をしてきたのが、二ヶ月を過ぎたあたりから言葉少なになり、時折視線に気づいて振り向くと目を逸らす。


 騎士団の業務と立ち振る舞いに慣れ、言う事も無くなったのだろうと勝手に納得していたのだが。


 そんな折だった。

   

 夜、他部署の業務を軽く手伝い終えて城内を移動する中、一室から蝋燭の仄かな明かりと共に話し声が漏れ聞こえてきた。


「ウルズ殿が自主退団の正規手続きを考えているらしい」

「そんな馬鹿な。副団長になったばかりだろうに」

「だが、人事兵務部にその手続きを熱心に聞きに来ている。辞める気の無い者がそんな事をするか?」

「しかし、アルバーン家と婚姻させるという話では無かったのか?」

「ああ、それでその事を知った大臣達が逃がすまいと王様に注進して、国ぐるみの婚姻式を計画しているらしい」

「三ヶ月まであと僅かだからな。ウルズ殿が万一他国へ仕官してしまったらと思うと、喉元に剃刀を置いて寝る様なものだ」




 ウルズは忍び足のまま、自室へと戻った。

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