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戦いはもう止めて頂きたいです

 魔王の料理番として一週間、二週間と時間が無為に過ぎていった。しかし無力感と浪費されていく時間と引き換えに、魔王はすっかり自分の料理に執着するようになった。三度の食事に加え、ティータイムを催促されるようになり、それに応じていた。

 

(ソラリスやフリージア達はちゃんと食べているだろうか… いや、ソラリスだってこれまで一人で生きてきたし、他は軍人だ。俺が心配しなくとも大丈夫か…)

 

 これまでずっと皆の食事係をしてきた身としてはつい余計な心配をしてしまう。

 …実際、特にこれまでウルズの料理に慣れてしまった若干三名はその味を恋しがって辛い思いをしていたのだが、それはまた別の話となる。


 そして今攻められている王都の人々。…エイミーも無事だろうか…。 …自分が他人の心配をする日が来るとは夢にも思わなかったが、今にも王都を滅ぼされようとしているかと思うと無力感に打ちひしがれる。…彼女らに出会わないままの自分だったなら、あの時…迷うことなく隣国へと逃げ延び、魔王軍の支配が届かない地を探して一人悠々と暮らしていただろう。


 だが力で叶わず、十分な交渉材料も妙案も無い以上、これまではただ黙って魔王に身を委ねているしかなかった。


 


「お前は小さいのぉ、一生子豚のままかもな」

「そんな背格好ではどうせ人間の女にも構ってもらえんだろう?一生我に飼われているが良い」


 …そして今日、自分の低い身長をネタにして魔王に揶揄われ、些末ながら気を害された。


 実際に腹が立ったのもあったが、自分の存在価値を測る為には好都合だった。 不機嫌を装って初めて逆らい、魔王の食事係をボイコットしてみた。 

 最悪、魔王の機嫌を損ねて即座に殺されるかも分からなかった。魔王にとって食事は戯れでしかないというし、自分にそこまでの価値が無いのであればそれまでだ。


 それでも自分も何か行動し始めなければならないという思いが募っていた。

 


 かくして決死の覚悟でボイコットに臨んだ。


「気分を害したので謝罪されるまで地下牢に閉じ籠ります。食事も作りません」

 

 …と、夫婦喧嘩した専業主婦のような書置きを残して。

 

 たとえ応じてくるとしても、数日間くらいはシェフの料理で耐えて来るだろうと予想し、自前の食料を用意して地下牢に籠城した。全く応じられなかった場合に備え、脱出か自害を選択できるよう、武器にもならないささやかな包丁まで持ち込んで。

 最大の難関はルルエの監視を欺く事だったが…厨房により、チョコレートケーキを作ってやることで隙を突いて逃れた。



 果たして担当する筈だった昼の時間が来る遥か前…慌ただしい物音と共に魔王が地下牢に飛び込んで来た。…頭にたんこぶを作って涙目のルルエも。


 

「お前がそこまで気にするとは思わなかったのだ、幾らでも謝るし、欲しいものがあればくれてやる!だから頼む、出てこい!出てきてくれ!」

 逆にこちらが困惑するほどに取り乱しかけた魔王を見て、少し可哀そうに思う程だった。それでもこれこそ好機と思い、思い切って説得してみた。



「…欲しいものと言うか、もう侵略戦争を止めて欲しいのです。…出来れば俺も解放して頂いて静かな森で暮らしたいのですが、侵略戦争さえ止めて頂ければ俺の事はどうでもいいです」


 言いながら後悔はあった。…だが、魔王の元に居れば庇護される自分と違い、今も傷つき殺されているかもしれない人々とを天秤に掛ければ、その重みから目を逸らす事は出来なかった。


 くそ、何が人間嫌いだ…今だって嫌な奴の顔ならいくらでも思い出せるのに、それでも…全ての人間が滅んで自分が助かれば良いとは到底思えなかった。 



「む、むぅ…勢力拡大を…か… ガラド王都とてあと五日も経たずに陥落できようという時に…か…」


 流石に魔王は逡巡した。…躊躇いの表情を浮かべつつも、ゆっくりと重々しく頷いた。…その表情は決して穏やかでは無かったが。


「…我はお前を寵愛しているつもりだ。…だが、手放しに何でもしてやれる訳では無い。…どうしてもというなら、それなりの代償が必要となる」


「代償…」


「簡単なのは我の夫となる事だ。本当なら我の意志一つで済むこれ一択で良い所だが…」

 いや、俺の意思は…?


「しかし生憎と、その為には時間が掛かる。その間、我の一存だけでは軍勢を止める事はできん。各魔物軍団長の軍事行動が優先となるからな。 よって、どうしても王都の人間を救いたければもう一つの選択肢しかない」


「それは?」


「お前が魔王軍の英雄と決闘して、自分の要求を押し通す事だ。それでとりあえずガラド王都侵攻は一時停戦できる。これなら魔物達も反発しないしな。その休戦の間にお前の望むよう、勢力圏の拡大を止めるよう私が政を進めてやることならできる」


「…その英雄って、やっぱり強いんですか?」


「うむ。…贔屓目に見てもお前の勝ち目は良くて一分だろう。 考え直してはくれんか? 今更お前を失いたくはないのだ。…ガラド王都の壊滅だけ目を瞑ってくれれば、後は穏便かつ確実に終戦させられる。…なるべく人が死なぬようにしてやるし、人間を可能な限り生かして捕虜にするよう命じる事はできる」



 リスキーすぎる… 戦いたくねぇ… 

 

 …それでも、一飯の恩義で自分を見逃してくれたエイミーや、今も過酷な状況であろう皆の為にも…やる価値はあった。


 …それに、全く勝算の当てが無い訳でもなかった。


 魔王軍英雄との決闘を申し込んだ。

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