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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
西都への旅編
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72.ショクラ2


「お待たせしました。どうぞ中に入って下さい」

「失礼いたします」


 寝ぼけた頭で話を聞くのも失礼だと、軽くストレッチなどをしていたので少し待たせてしまったかもしれないな。

 部屋に入ってすぐ、とりあえず老執事に椅子を勧めようとテーブルに目をやると、そこには鉈が出しっぱなしだので、失礼のない様に自然に回収した。

 危ない危ない、裸の刃物が置いてあるテーブルを勧める所だったよ……気を付けないとな。



「……どうぞ、掛けて下さい」

「いえ、私はこのままで結構でございます」


 鉈を片付けてから椅子に腰掛け、テーブルを挟んだ対面に座るように勧めたが断られた。

 あなたはそれで良いかもしれないけど、立ったままだと圧迫感が凄いんだよな……。



「あの、見下ろされている感じがどうも……」

「これは考えが及ばず失礼いたしました」


 その場で跪かれたらどうしようかと思ったが、「それでは」と素直に椅子に座ってくれたのでこちらから話を振る事にした。



「それで? 話があるとか」

「はい。まずは、お嬢様が勝手に部屋へ入った事と、深夜にも関わらずにご迷惑をお掛けしました事、申し訳ございませんでした」

「寝ぼけていたようですし、お気になさらないで下さい。それと、そちらがどの様な方なのかお名前を窺っても?」

「……大変心苦しい所ではありますが、家名は控えさせていただきたいと思います」


 ふーむ、家名という事は貴族か豪商だろうが、この老執事の格好から察するに恐らくは前者だろうな。

 面子もあるんだろうが、女児が来て「部屋を間違えてごめんなさい」と言えば済む事なのに、何でこうもややこしくするんだろうな。



「謝罪に関しては分かりましたが、他にも何かあるんですか?」

「……はい、まことに身勝手な話で申し訳ありませんが、この度の一件は他言無用でお願いしたいのです」


 そう言って老執事はテーブルの上にハンカチを…………ああ、布で包んだお金か。

 しかし、寝ぼけて他所の部屋に入っただけで口止め?

 ……ああ、未婚女性の純潔がどうのこうのといった類の話か。

 しかしなんと言うか、本当に身勝手な話だよな。

 


「謝意も受け取りましたし誰にも口外しませんので、こちらはお持ち帰り下さい」

「いえ、それではこちらとしても誠意に欠けるといいますか……」

「あのですね、誠意云々と言うのなら、当人をここに連れてきて謝らせれば良いでしょう。子供が寝ぼけてした事で実害も無い様な些事なんだから、それだけで済む話でしょうに。それなのに当人は来ない、謝罪も代理人で家名も明かさない。さらには金を渡すから黙っていろ? 失礼にも程があるでしょう」

「…………」


 ちょっと(いら)っときたので、溜まっていた感情が溢れ出てしまったようだ。

 そんな目くじら立てる事では無いじゃないか……ちょっと自制しないとな。

 


「……と、まあ、本音ではこんな感じですが、貴族令嬢の機微についても多少は理解していますので、その辺はご安心下さい」

「……失礼かとは思いますが、お名前を窺ってもよろしいでしょうか」

「ルクシアール・ディアレです。ここから西方に行った先にあるオロント領の領主、グラウ・ドリアル・ディアレ・オロントの三男になります。……分かっているとは思いますが、これも本来はそちらから名乗るべき事なんですけどね」

「失礼いたしました、私どもは――」

「ああ、そちらの事はもういいですよ。今から言われても悪い感情しか湧いてきませんし、そちらとしてもそれは本意では無いでしょう?」

「……はい」

「そう言う訳で、謝意は受け取りましたし口外もしません。それと、これはお持ち帰りいただくという事で終わりにしませんか?」

「――かしこまりました」


 老執事は何かを言いたそうだったが、半ば強引に見送ってからベッドで大の字になる。

 はあ、最後の方はこちらも大人気(おとなげ)なかった……まあ、子供だから当然だけど、嫌味交じりになってしまったのは反省が必要だ。

 

 ともあれ、これでこの件も終わった筈だ。

 朝から少し嫌な気分にさせられたが、美味しい朝食を食べて気持ちを切り替え、今日も一日、頑張ろう!


 ……朝食はここの名産品である、川魚を揚げた物をパンで挟んだサンドイッチだった。

 昨晩と同じメニューか……。

 これはこれで美味しいんだけど、ままならないものだなあ――。



 宿を出て少し、これから向かう隣街のホクソウまでは三日の道程なので、それに必要な物資を買い揃えながらも、周辺の情報も集めてみた。

 ここから先は川沿いを南下するルートになるので、森とは生態系が変わるだろうし、何か特有の鉱物でもあれば、それはそれで退屈な旅路に彩を与えるだろうしね。


 冒険者組合や商業組合があれば本などで調べられるけど、この街には無い様なので屋台や露店の店主に世間話も交えつつ聞いてみたが、どうやら河原では水晶が採れるらしい。

 でも、この街や周辺の住人も拾いに行くらしいので期待するなと言われた……ここの収入源になっているのなら仕方ないか。

 

 そう言えばオロント領でも採っている人が居たな。さすがに領主邸の近くの用水路は、ほとんど俺や姉専用になっていたけど。


 そんな事を思い出しながらも買い物を済ませてショクラの街を出ると、まずは予定通りに街道を外れて川へと向かう。

 街道と川の間には緩衝地帯ともとれる草原が数百メートルの幅ほどあり、そこには踏みしめられた土の道が何本か川へと続いているので、俺もそこを通る事にする。

 余所者は邪険に扱われるかもしれないが、見るだけなら問題無いだろう。



 各所で聞いた話の通り、俺以外にも川へ向かう人がいたし、河原に到着すると、そこにもすでに多くの人がいた。

 一様に下を向いてうろうろとしている人達は、日本で見たゾンビ映画のワンシーンのような異様な光景に映るが……俺も採集をしている時は、他人からはこういう風に見られているのかもしれないな。

 

 河原を合わせた川幅は百メートル位あるだろうか。対岸でも同様に下を向いてうろうろとしている人達が見えるし、この周辺では良い小遣い稼ぎになっているのかもね。


 しかし、こうも人が多いと観光地に来たようで採集って気分にはならない。

 仕方ないので、河原には下りずに何と無く草原と河原の境界を歩く事、数時間。昼を少し過ぎた辺りになると、ようやく人の影が(まば)らになってきた。

 それとほぼ同時に、ずっと使用していた『鑑定・改』にも『水晶』と言う文字が幾ばくか表示される様になる。


 まあ、水晶は在っても無くても正直どっちでも良いのだけど、どちらかといえば調合道具を作る為の普通の石が欲しいんだよな。

 拾った石は『収納庫』に入れる予定だけど、使用するのに何かしらの違和感は出てしまうので、出来るだけ周囲の人は少ない方が良いと思う。


 ともあれ、対岸も含めて両の手で数えられる程度には人も減ったので、ここいらで昼休憩を取る事にした。

 腰を下ろせそうな平らな石の横に背負子を降ろし、荷を漁る振りをして『食料庫』から、買った時とほぼ同じ状態で暖かいままの軽食を取り出して、それに齧り付く。

 どこの街で買ったのかは思い出せないが、熱々の肉汁が美味いからよしとしよう。


 しばらくして、空腹や喉の渇きも満たされ人心地ついた頃、そろそろ動きだすかなと重い腰を上げる。

 とりあえずは白い石を重点的に収集して、三個に一個を腰に提げた革袋に。残りは革袋経由で『収納庫』へと送るが、もちろん白い石だけではなく、気を引いた赤や青に緑色の石なんかも放り込んでゆく。

 そんな作業をしているうちに革袋も満杯になったので、それを背負子に纏めてから再び旅路へとついたが……。



「なあ、さっき拾ってたもん、こっちに寄越しちゃくれねえか?」


 だいぶ日も傾いてきた頃に、強盗まがいの輩とエンカウントしてしまった――。


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