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帰れなかった勇者の新・異世界生活  作者: 乙三
西都への旅編
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73.ショクラ3


「えっと、拾っていたのは特に価値も無い石ですよ?」


 盗賊風の男達四人に囲まれて、拾っていた石を出せと脅されたが、残念ながら俺が拾っていたのは水晶じゃないんだよな。

 実際にすぐそこの河原を見れば、俺の集めていた石と同じものが当たり前のように転がっているし。



「いやいや、そう言うのはいいからよ、大人しく出しちゃくんねえか? さすがに子供を痛めつけるのも気が引けるんでな」

「そう言われても……」


 特に敵対する必要性は感じないし、これは出した方が早いかな?

 『有り金を置いていけ』とか『身包みを剥ぐ』とかなら敵対行為とみなすが、現状では誤解とすれ違いが原因だし。



「本当にただの石ですよ?」


 仕方ないので背負子を降ろして、石の入った革袋を開いて渡す。



「おいおい、俺らが欲しいのはこういうのじゃないのは分かってるだろ? 手荒な真似は出来るだけしたくないんだがなあ」

「僕が拾っていたのは本当にその石だけですよ? 見ていたなら分かると思いますけど、僕が居たのは河原の端っこですし、水晶が欲しかったならもっと川に近い所を探しますし」


 俺の後ろに回っているチンピラが何かを言っているが、交渉に当たっている盗賊のリーダーらしき男は目を閉じ首をかしげて、俺の行動を思い出しているようだ。

 そもそも俺をつけ狙うなら、その時間で自分達でも探せば良いのに……とは、逆上させるだけだし、間違っても口には出せない。



「うーん、……本当に拾っていたのはこれだけだとして、こんな物なにに使うんだ? 価値がある物なのか?」

「石の価値は分かりませんが、ありふれた物だと思いますよ?」


 と、視線を河原へと移す。



「用途は、魔法である程度の大きさに纏めて、調合用の道具を作ろうかと思って集めていました。これでも調合と魔法が扱える冒険者ですので」


 脅すつもりは無いが、こちらの情報を得た上で適切な行動を取って欲しい。

 俺としては取り締まる立場では無いしその気も無いので、何事もなくこの包囲を解いて欲しいだけだ。



「なっ、冒険者だったのかよ。なあ、グラッグ、こうなったらやっちまおうぜ」


 後ろの二人は、どうしようかと思案中の様だが、『グラッグ』と呼ばれたリーダーの横に居たチンピラが、腰のナイフに手を掛ける。


 

「あの、刃物はやめてもらえますか? こちらから手を出す気はありませんし、あえて敵対する気もありませんが、さすがにそれを抜かれると、こちらも抵抗しなければなりませんので」

「んな、ふざけんじゃねえぞ、ガキの癖に!」

「おい、子供相手だ。やめておけ」


 グラッグの静止も聞かずにチンピラはナイフを抜き、俺に向けて突きつける。……が、次の瞬間にはナイフを地面に落とす。

 何の事は無い、俺が鉈でナイフを持ったチンピラの右手の甲を叩いたからだ。


 

「んがあっ」

「やめて下さいと言ったのに……ああ、後ろの方もやめて下さいね」


 前を向いたままだが、後ろの状況もはっきりと分かる。多分『空間把握』とか、そう言う類のものだろうけど技能関係は放置していたから確証は無い。



「おい、メット! 小僧……」

「ちゃんと警告はしましたよ。それに刃の無い方で叩いただけなので……骨折位はしているかもしれませんが、指や手首から先が無くなるよりは良いでしょう?」

 

 さすがにこの程度で命のやり取りをするつもりは無いだろうと思い、こちらも峰打ちにしておいた。

 血油がついたら、それなりに手入れも面倒だからな。



「そう言う事ですので、その石を返して僕を解放してくれませんか?」

「…………」


 黙り込まれてもな……恐らく(かね)、小銀貨の一枚でも渡せばすんなりと革袋を返してくれるだろうし解放もしてくれるだろうけど、それをする義理も無いしなあ。

 そうかと言って、暴力に訴えた強硬手段に出るほどでもないし。

 ……こういう場合の普通の対応が分からないと言うのも困り者だな。

 

 そうこうしていると、意識の端にこちらに近付いてくる一団が感じ取れた。

 前後を四騎の騎兵に挟まれた二列縦隊で、総数は二十人……と、街道で待機している馬車が二台。領兵か?

 河原と街道や草原では高低差があるから俺は目視できないが、その一団が街道から一直線にこちらに向かっている。

 そして急に足を止めたと思ったら、歩兵が散開しはじめた……大変ですよ盗賊さん、包囲されますよ。


 盗賊達は、俺や右手を抱えて(うずくま)るメットに意識が向いているので気付くわけもなく、そのまま包囲が完成すると同時に騎兵の二人がこちらに近付いてきた。



「全員動くなっ!」


 急に発せられた言葉に盗賊達は身を強張らせ、その声を合図に俺達を取り囲む様に槍を持った兵がわらわらと出てくる。

 特に目立った隙も無い包囲陣で、よく訓練されているのが分かる……これを抜け出すのは面倒だな。

 ……ああ、俺は別に逃げたりしなくても良いのか。



「こちらはハイクラッテ公爵領、領軍所属の巡視隊だっ! 全員武装を解除しろ!」


 無駄な抵抗でもするのかと思ったが、盗賊達は素直に剣帯を外して地面に投げて両手を上げる。なので、俺も鉈を鞘に収めてそれに倣い、剣帯を背負子に掛けた。



「協力、感謝する。それで状況を説明してもらいたいのだが……そこのお前」


 指名されたグラッグは、先程までと同様にだんまりだ。

 まあ、「私達は盗賊で、子供から水晶を巻き上げようとしていました」とは言えないよな。



「ふむ、……そこの少年、説明できるか?」

「はい、彼ら四人は僕から拾得物を奪おうとしていた所です」


 領軍が来た時に武器を抜いていたのは俺だけだし、心象が悪いままだと面倒な事になりそうなので、一応、グレッグの足元に置いてある革袋を指差して、完全な被害者だと言う事をアピールしておく。



「間違いないか?」


 そう騎兵が周囲に問うも盗賊達は何も言わない。が、そのまま領兵に指示して四人を捕縛し街道の方へ連行してゆく。

 俺はこのまま解放かな? と、革袋を回収して旅支度を整える。



「少年、申し訳ないが君も一緒に来てくれるかな?」


 …………ですよね――。



 前には騎兵、後ろには歩兵が二人……結局、包囲された状況は変わらないまま街道の近くまで連れてこられたが、そこではすでに野営の準備が進められており、簡易的だが四本柱の丈夫そうな天幕も設置されていた。



「それにしても災難でしたな、ルクシアール殿」


 その天幕の一つで事情聴取を受けている訳だが、貴族の三男と言う身分を明かしたために、対応してくれている領兵の対応もだいぶ軟化した。

 それにしても良いタイミングだと思ったら、どうやら今回が初犯ではないようで定期的に巡回していたそうだ。

 


「いちおう話の統合性は取れましたので、彼らはこのまま西都へと連行して犯罪奴隷送りになるでしょう。今回は未遂と言う事でしたが、余罪が多々ありますので十数年は労役に就かされるでしょうな。ルクシアール殿の対応につきましては、彼らが先に刃物を向けた事、反撃したと言っても峰打ちだった点から考えても、特に何の問題もありませんのでご心配なさらずに」


 あれで問題があったらそれこそビックリだよ。

 しかし、犯罪奴隷か……うちの領では奴隷って言葉自体も聞かなかったから失念していたけど、やっぱり奴隷が居る世界なんだな。



「それと、捕縛の報奨金と合わせて、奴隷商へ売った金額の三割がルクシアール殿に支払われますので、領内のいずれかも街で手続きをして頂ければと思います」

「捕縛って僕は何もしていませんし、どちらかと言えば囲まれていた所を助けてもらった側なんですけど……」

「そうなのですが、貴族様に(ゆかり)のある方々の場合は、この様にするのが慣例となっておりますので」

「……これが市井の方だった場合はどんな感じになります?」

「そうですね……大抵は注意喚起のみで解放。女子供など、場合によっては近場の街まで護衛として同行……そんな感じでしょうか」


 いわゆる貴族に対する特別処置って事か……治安維持が出来ていないせいで、他所の貴族が害されたとなっては問題になるだろうから、口止め料も込みでって所かな。



「それじゃ今回もそうしません? 僕も今は一介の冒険者ですし、そう言う面倒な事はなしという事で」

「ふむ、ルクシアール殿がそれでと言うのなら、こちらとしても構いませんが……」


 話の分かる人で良かった。

 力や魔法を表立って使わないのは、何かあった場合に保護者である両親に積を負わせるのが嫌だからであって、今回はその範疇に無いが……報奨金などを受け取ったら家にも書面で通知されるかもしれないし、こういう事で気苦労も掛けたくないからな。

 …………今更な気もするけど。


 そう言う訳で、小難しい手続きをする事もなく解放された俺は、そのまま先へ進む事にした。

 だいぶ傾いているとは言えまだ日も出ているし、何よりここで野営をすると気を使われそうな気がするからな。


 それから二日、道中で石や薬草などを採集しながらも、請け負った配達依頼の最終目的地であるホクソウへと到着した。


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