97.店が吹っ飛んでも珍客は来るようです
爆発+ギャグ=死なない
――アア……ウウ……ドクター?
――おお、フランシアか。どうした?
――ドクター……何……読んでるの?
――ああ、これかい。これは世にも珍しい宝石で出来た花『クリスタルフラワー』って呼ばれている伝説の花の資料だ。まあ……と言っても曽祖父が珍しい物好きの私に残してくれた物だけど。
――クリス……タルフラワー……それ、フランシア知らない……それ、ドクターから教わってない……それ何か特別な……お花……なの?
――ああ、そうだよフランシア。これはとても珍しくて美しい花なんだ。そしてこれを手に入れた者は生命の神秘を得る事が出来るって言われてる程でね。小さい頃から私の憧れだったのさ。
――あこが……れ?
――ああ、そうさ憧れだ。強く心が惹かれるって意味さ。だから何時の日かこの花が手に入ったなら、私は数日間嬉しさで暴れるかもしれない。
――ここ……ろ? うれ……しい? それ……よく分かんない。でもドクター欲しいの……すごく分かる。なら……今からフランシアが……それ取りに行く……でいいの? ドクター?
――あっはっはっは! フランシア。君の気持ちはとても嬉しいんだけど、このクリスタルフラワーが咲いているという洞窟はとっても危ない場所にあるから行ってはダメだ。分かったね?
――うん……分かった……探し、行かない。
――よしそれでいい! ではそろそろ昨日中断していた研究を再開しようか。フランシア、薬品瓶と作ってあった薬液を用意してくれるかい? 今度は怪力で瓶を割らないようにね。
――うん……分かった……用意する……。
――よし、偉いぞフランシア。さあてとそれじゃあ研究再開を……って何だ、この広告紙は……なになに《レオナルドのよろず屋》?
―― ―― ―― ―― ―― ――
朝一番。
「ぎゃあああああ! エミリア止めて!」
「ダメ……今日こそは観念するの!」
僕は命の危機を感じていた。
「うおっ!? だから誤解だって!」
「ふんだ……そんな嘘……私信じない!」
なお犯人の名はうちの会計係、エミリア。
色々と頼れる可愛い女の子にして僕の相棒。
その彼女がかなり理不尽な怒り方で店の棚を盾にして隠れる僕めがけて、容赦なく次か次へと物を投げつけてきているのが現状の簡単な説明だ。
「ねぇ、話し合おうよ! エミリア!」
「ダメ、聞かないの……貴方が反省するまで私は貴方に物を投げつけるのを絶対止めない……の」
ちなみに内訳は包丁、ナイフ、フォークの刃物は当然として他にもスプーンとかも飛んできてる……うん! どう考えても殺意100%だねっ!
(って……呑気に構えてる場合じゃない!)
「だからレオナルド……避けてはダメ……なの」
「いやいや、普通避けるでしょ!? だって刃物だよ!? 当たったらただじゃ済まないんだよ! それに君の剛速球並みの投擲だと、もしも脳天に命中すれば確実に即死するんだけどっ!?」
「大丈夫……貴方の死体の横で私も死ぬから」
「ダメだこりゃ! 話になんねぇっ!」
では、どうしてこうなったかと言うと……それは先日助けたある依頼客からの報酬が原因だった。
「じゃあ……どうしてレオナルドの部屋に……女の子の下着があったの……それも綺麗なラッピングまでされて……怪しいを通り越してるの!」
「だから聞いてって言ってるじゃん! お願いだからサーカスの人みたいに、器用にナイフを指の隙間に挟んで一気に投げてくるのは止めてって!」
依頼客は異世界にある魔物界のサキュバス。
色々あって失った女性フェロモンを取り戻したいって言う依頼で、僕はユニークスキル【万能―超調合】で強力なフェロモン薬を作ってあげた事でその悩みを解決したんだけど……その結果。
「それに……そんなに……女の子の下着が欲しいのなら……私のをたくさんあげる……なんだったら……脱ぎたてでもいいよ? レオナルド?」
「お願い、窓閉めてっ!? 今の誰かに聞かれたら誤解されるから! 僕が女の子を脱がす変態みたいに聞こえちゃうからあああっっ!」
今起きてるこの僕の殺戮ショーの発端。
彼女から黒を基調としたランジェリーの下着が送りつけられて来たんだった……それも自分の代わりだと思って大切にしてほしいとかふざけたメッセージカードを添えて……。
「そ……それじゃあ……まさかレオナルド……」
「なに!? 今度はどんな爆弾発言するの!?」
「ご、ごくり……大丈夫。私受け入れる……」
「お願い教えてっ!? 今、どんなヤバい内容を連想したの!? 明らかに只事では済まない妄想をされた様な気がしたんだけどっ!?」
しかも……運悪くそのラッピングを開けて中身を手に取った瞬間、部屋に入ってきたエミリアに目撃されるという悪魔が運命の糸を絡ませた様な最悪のタイミングがこの状況を作りだしたのさ!
本当に……いつもこんな不幸ばっかりだ!
「大丈夫なの……レオナルドに女装癖があっても受け入れるから……だから……安心して?」
「いやどこを安心しろって!? 身の潔白を証明するどころか、身に覚えのない冤罪を勝手に擦り付けられたみたいな気分なんですけどっ!?」
くそう! こうなったら仕方ないっ!
やっぱり強引にでも彼女の動きを止めて無罪を証明するしかない! あのランジェリーは僕の物じゃないって事を! そして何故か追加された罪状の女装癖についても無罪を勝ち取るんだっ!
「すぅ……ふぅ……すぅ……ふぅ」
よし……深呼吸は完了だ。
あとは飛び出し直後に刃物が飛んできても大丈夫なように防御魔法をっと……って、なんで僕は自宅なのに生命の危機を感じてるんだろう……。
「レオナルド……出てくるの。出てこないと……投げられるナイフやフォークが可哀想なの」
「僕の事は可哀想とは思わないんですね!?」
「もう……この一球で決めるの……えいっ!」
や、ヤバい……ええい、ままよっ!
覚悟を決めて冤罪を晴らすんだ!
彼女が何を投げたのか知らないけど、次弾が飛んで来る前にこの棚の影から飛び出して――
「エミリア、本当に誤解なんだって! あのランジェリーはこの前に来た……ほら、君も隣で依頼を聞いていた。あのサキュバスの女性から悪ふざけで送られてきた物なんだ! だから――」
即座に弁明を…………って、あ……れ?
彼女が投げてきた……この炎マークの描かれた薬品瓶って確か以前にモンスター撃退用にって……爆発系呪文を大量に詰め込んだ……。
「かやくび――」
パリィン…………ボンッッッッッ!!!
「ギャアアアアアアアアアァァァ!」
―― ―― ―― ―― ―― ――
結果。
「レオナルド……ごめんなさい……。私……ついカッとなってやり過ぎちゃった……の」
「あ、うん……もういいよ。どうにか僕はまだ生きてるみたいだし……それよりも君の方は大丈夫だった? 今の爆発で破片とか刺さってない?」
店頭は見事に半壊。
彼女の投げてきた火薬瓶が僕に命中後、即爆発。
事前に防御魔法張ってなかったら僕の体は消し飛んでたね! うん間違いない!
「うん……私は大丈夫……何処も痛くない」
「そっか。それなら余計に気にしなくていいよ」
でもエミリアが無事だったならいっか。
まあ時には意見の食い違いで家を爆破されるなんて事もあるだろうし……決して認めたくないけどこれも日常風景の一環だと思う事にしよう!
(まあ大元を辿るならあのチラシ配布係だしね。何処をどうやって飛んでチラシばら撒いたら、異世界の珍客ばっかり来るようになるのかな!? まったくいい迷惑だよっ!)
「あれ? レオナルド……何処に?」
「店がこの有様だからね。僕のユニークスキル【万能―修繕】で爆破前の状態に戻すまでこの閉店の札を下げとこうと思って」
って……今更言っても何も始まらないか。
それよりもこの焦げた臭い漂う店頭の修繕と、破片とかで危ないから早く閉店の札を――
「あの、すいません。レオナルドのよろず屋ってここですか? 一つ依頼したい事がありまして」
うんっ……あれ?
こんなタイミングでお客さんかな?
でも、流石に今は対応できないね。
「すいません。見ての通り店内が軽く爆発したせいで少々立て込んでまして、依頼の方は――」
「その……私。実は《心》が欲しいんです!」
「………………はいっ?」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
期間が少し空きましたがどうにか最新話を投稿致しました。
次話は現在執筆中ですので完成次第投稿出来ればと思っております。
ではでは最後にもしよろしければブクマや評価であったり率直な感想などお待ちしております!!
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