98.博士は心が欲しいようです
色々盛り過ぎて自分でも胸焼けしそうになった(小並感)
ヴィクター博士。
それがお店に訪れた痩せた男性の名前だった。
「……というわけで。今回私の研究室に紛れ込んでいたこのチラシを拝見し、依頼すべく友人が開発していた異空間転移装置……詰まる所ワープトンネルを通ってここまで来たという事なんです」
そして風貌に関しても博士という肩書らしく、その薬液か何かで汚れくたびれた白衣からは薬品の強い匂いを纏ってくるという自己紹介無しでも研究者と分かる見た目をしていた。
「へ、へぇ……それはまた随分とえらい装置を使ってきたもんですね……それもこことは違う世界にの『よーろっぱ?』の地方でしたっけ……」
ってか、それよりワープトンネルって何!?
いやそれよりもまた異世界の客なのっ!?
どんだけこの世界に繋がってんのっ!?
「そうです。ヨーロッパと言う地方にある国からこちらへお邪魔させていただいた次第です。ただしワープ位置の軸がずれたせいか、お店の外にあった花壇が消し飛びましたけど……まあ転移は成功したので大目に見てください」
「へっ? ちょっ、何だって!?」
「まあまあ、そうお気になさらずに」
いや気になるよ! 犯人が何言ってんの!
えっ、なにあの花壇を消し飛ばしたって!? 昨日、僕が時間かけてようやく手入れして綺麗に植え直した所なのにっ!?
(つい先日だって誰の仕業か知らないけど直した所なのに――)
「レオナルド……その……ごめんなさい」
「えっ? なんで今エミリアが謝るの?」
「実は……前に花壇ふっ飛ばしたの私なの……洗濯物を早く乾かそうとして炎の魔法使ったら……それで……うっかり花壇がチリチリになったの」
うそぉん! あの犯人は君だったの!?
どおりで灼熱に焼かれた後みたいになってたわけだ……くっそぉ、みんな僕の苦労を何だと思ってんだ! 次々から次へと問題起こして!
「それで如何でしょうか。依頼の方は……」
「えっ……ああ、そういや依頼の話してたね」
しまった。つい怒りで取り乱していた。
まあ、もう異空間に消し飛んだ花壇については後でどうにかするとして……ひとまず今は、
「えっと……もう一度だけ確認したいんだけど」
「はい。何度でもお答えいたしますよ」
「うん、それじゃあ……」
今一度、彼の依頼内容を確認するとしよう。
何と言うか思わず耳を疑いたくなる様な、余りにも奇妙で突拍子の無い話だったからね……。
「じゃあお言葉に甘えてもう一回。本当に大真面目で尋ねるけど……えっとヴィクターさんは心が欲しくて、ウチに来たんだよね?」
「はい! ズバリその通りです!」
「即答!?」
えっ……どういう事!? 心が欲しい?
アンタは心を何だと思っているのかなっ!?
バターとかチーズみたいに消耗したら軽々しく買い足せる様な日用品とでも考えてるの!?
「す、すいません。流石にこの店には『心』は売ってないです……それにそもそも心って商品として売れる物じゃないからねっ!?」
「……やはりそうですか。てっきりこのチラシの【貴方の欲しいアイテム、ココで見つかります。貴方の願い、叶えてみせます。何かお困り事ありましたら、まずはふらりと僕の店でご相談を】って書いてあったものですから。つい……」
だからアイテムじゃないって言ってんだろ!
そんなの何処探したっても見つかんないよ!
(逆に私は心を見つけましたって嬉しそうに語る奴がいたら怖いわっ! 仮にそれが友人なら付き添いで一時間くらい精神治療するくらいだよ!)
「ハア……そうですね。常識的に考えても『心』なんて置いてる筈ないですよね。私の愚問でした」
「あはは……分かってくれたのなら何より――」
でも……まあこのまま放置も忍びないな。
何かしら役に立てる事があるか聞いて――
「しょうがない。こうなったら周辺に住んでいる足の付かない若者を攫って【解体】し、なんか心っぽい物体を引きずり出して調べるしかないか。さて、どんな人間を標的にするべきか……」
アンタには人の心がねぇのかっ!?
良心の呵責とか罪悪感の類は無いのか!
ってか、心が欲しいってそう言う事!?
(くそ……それなら僕に出来る事は一つだ)
僕は彼の言葉を聞いてある決心をした。
「分かりました……ヴィクター博士」
「えっレオナルドさん? どうしたんですか……いきなり私の方に拳を向けて? それはこの世界の挨拶か何かなんですか。それでは私も――」
「いえ、違います。この拳は貴方にあったであろう良心を取り戻す為、過ちを起こす前に貴方を一度殺す為の拳です。どうかお覚悟を」
「えっ……ええっ!?」
さてと……どうしたものか。
僕達とは違う異世界から来たとはいえ魔法に対する抵抗力は一切無さそうだし……無難に自我を崩壊させるか、それとも人格を分けて悪い方だけ魔法で消し飛ばすか……難しい所だね。
「だからそういう事なんで……とりあえず動かないでくださいね。せめてもの優しさに僕の能力で一撃で済ませますから! 痛みはありません!」
「えっ!? ちょ、ちょっと待ってください! レオナルドさん、どうか落ち着いてください!」
よし……決めた!
ここは普通に記憶を消し去るとしよう!
では博士、新しい人生で会いましょう!
「じゃあいきますねっ! 【万能――記憶抹消】を発動……この生命の魅惑に憑りつかれてしまった悲しき客人に新たなる人生をっ! さらばで――」
「ヒィィィィッ! すいません冗談です! 冗談ですって! 死者の肉体ならばまだともかく、幾ら生物を研究する者とはいえ生者を解体なんかしませんからっ! 殺さないでくださいっ!」
「…………それならいいんです」
ほっ、冗談で良かった良かった。
まあ冗談にしては質が悪かったけど……とりあえず僕も一旦落ち着いて椅子に座り直して、
「それじゃあ気を取り直して話の続きを――」
もう一度依頼内容の詳細を詰めていこうかな。
何はともあれせっかく来てくれたんだしね。
せめて役に立てる話が少しでも出来れば――
「ねぇねぇ……レオナルド」
「うん? どうしたのエミリア?」
「私もレオナルドの心……欲しいの」
「んなっ!? まさかの君も便乗すんのっ!?」
ってか勝手に人の心欲しがらないでっ!
いや、それより……もその包丁は何!?
どこから拝借してきたんですかっっ!?
「エ、エミリアさん? その包丁って……」
「ふふ……言わなくても分かる……でしょ……私もこれで貴方の体を解体してその心を――」
いやぁ! やっぱり言わないでください!
怖すぎて逆に聞きたくもありませんから!
早く包丁を直して来て下さいぃぃぃぃ!
―― ―― ―― ―― ―― ――
「ゴホン。それじゃあ一旦話を戻して。仮にその心というか……それに類似した物を手に入れたとして博士は何に使うつもりだったんですか?」
「ああ……実はそれなんですが……厳密に言えば『心』が欲しいのは私ではなくて。【彼女】に与えてあげて欲しくてここまで来た訳なんですよ」
「……彼女?」
うん? 僕はてっきり博士が欲しいもんだと思ってんだけど……誰かに頼まれてきたのかな?
「おーい! こっちにおいで!」
すると僕がそう首を傾げる間にヴィクター博士はこの客間から店頭へ向け、誰かを待機させていたのかそう大きな声で呼び出した……すると?
「ドクター……呼んだ?」
「よしよし、偉いぞフランシア。レオナルドさん、突然ですが紹介しますね。この少女こそ私の傑作にして人造人間である少女フランシアです!」
「「フラン……シア?」」
そのフランシアという名前の可愛らしい女の子がトコトコと客間へと歩いてきたんだった……。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
また期間が少し空きましたがどうにか最新話を投稿出来ました。
次話は現在執筆中ですので完成次第投稿出来ればと思っております。
ではでは最後にもしよろしければブクマや評価であったり率直な感想などお待ちしております!!
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