82.それでも彼女は戦っていたようです
少し長めですが……勢いなので勘弁(´・ω・`)
……どちらかと言えば打撃に近かった。
「グガアッ!」
「ぐっ!?」
ブンッ! ブンッ! ガキンッ!
ブオンッ! ブオンッ! バキンッ!
「本当に……なんて馬鹿力なんだ!」
「グギギ! グガガガアァ!」
魔剣の呪いに蝕まれたマティルダの攻撃。
その赤く濁ってしまった瞳に、獣の様に鋭く伸びてしまった犬歯をむき出しにして狂暴に武器を振るう暴走マティルダの一撃一撃はかなり重く、
「グギャア!」
ブン、ブン、ブンッ!
ブオッ! バキィィィィィン!
(うぐぐ! 本当に僕が来て良かった……ここまで重たい攻撃ばっかりなら、兵士さん達の装備じゃどれだけ束になっても敵わないところだよ!)
それは例えるなら巨人の一撃。
その華奢な体の何処にそんな馬鹿力が秘められてるのか想像もつかないけど、まるで棍棒の様に魔剣を振るう彼女の攻撃力は文字通り一撃必殺。
もしも城内で支給されている武器防具なんかでこの魔剣に挑んでいたら、ほんの一回だけ瞬きする間に跡形も無く破壊されること請け合いだ。
だからこそ僕は通常の武器とは少し違う、
(一番僕らの世界から武器を持って来れれば良かったけど……ひとまずはこれで何とかしよう!)
イザベラ女王の許可の元。
右手には宝物庫にあった名剣に魔力を込めたもの、そして空いた左手には強力な防御魔法を込めた鋼の小手を剣を受ける防具代わりにして、どうにかマティルダの攻撃を凌いでいた……。
そう…………凌いでいたんだ。
「ウグガガガガ!」
「くっ…………マティルダ!」
……もうこの際だ、ハッキリ言おう。
僕はこの戦いで攻撃魔法を一切使っていない。
暴走する彼女の猛攻に耐える為に、武具の強度を上げる為に魔法は使っているが、この近接での戦闘を有利に運べる強力な魔法は使わなかった。
ブンッ! ブオンッ! ガキンッ!
「邪魔を……スルなッ!」
「ぐぐっ! 攻撃速度が上がってきた……」
正直、魔法を使っていれば倒せていただろう。でも僕の目的は彼女を傷つける事じゃない!
「目を覚ませっ! マティルダッ!」
「ウッ!? ウウググギギ……ギグガア!」
あくまで彼女の目を覚ます為だ。
彼女を救う為に僕はここに来たんだっ!
だからこのマティルダを殺すなんていう愚かな選択肢は元から存在しない! 必ずこの優しい女の子を家族の元へ返す! それだけなんだっ!
その為なら僕は躊躇無く命を張ってやる!
(もう少しだ……もう少し戦えば!)
そして……その救う【兆候】も既にあった。
通常、魔剣に吞まれた者は早々止められない。
その呪いがもたらす破壊欲といった強烈な快楽が所持者を誘惑し、底へ堕としてしまうからだ。
よって意思の弱い者や信念が無い者にとってはその接続を絶つ事が出来ず、己が滅ぶまで暴れて尽くさせてしまう危険な物体なんだ。
……でも!
バキンッ! ガキンッ!
――誰でも……いい……助けてくれ。
――誰か私の……暴走を……止めてくれ。
(!? また聞こえた!? よしっ!)
マティルダからは“聞こえて”きた。
僕が何度もその凄まじい攻撃を受け続け、その魔剣を用いた猛攻に耐えていく内、その握りしめる剣先を伝って僕の中に流れ込んできたんだ。
ビュオンッ! バキンッ! ガキンッ!
――私は……こんな力望んでいないっ!
――こんな人を傷つけるだけの力なんか!
攻撃を通じてそんな彼女の心の声が聞こえた。
表面上こそ完全に暴走しているけど彼女は心の奥底でそう抗っていたんだ! 恐らく彼女の抱く大切な人達を絶対護りたいというその鋼の意思。
妹達に安全な毎日を送ってほしいっていう姉馬鹿過ぎて微笑みたくなる、その純粋な心が魔剣のもたらす誘惑に必死に抗っていたんだろう……。
「グゴオォォォォォ!」
バキンッ! ジャキンッ!
――だからこんな力は要らないんだ!
――私はただアイツらを守れれば、それで!
ああ! だったら僕だって応えてやるさ!
そんな誰かを大切にしたいなんて尊くて温かい意思を持つ君を絶対に救ってやるさ! その為に皆を説得して、危険だけど“君の妹達”にも協力してもらったんだ! だからそんな下らない呪いなんかに負けたら承知しないからなっ!
「だから早く目を覚ますんだ、マティルダ! 君なら現実側に戻ってこれる筈だ! 君は誰もが認める最強の女なんだろ!? じゃあそんな下らない呪いに負けてる場合なのか!?」
「ググ!? うるさイ……だま……レ!」
「くっ!? まだ速度が上がるのか!?」
ビュン、ビュン! ガキリッ! キンッ!
――だから誰か……私を助けてくれ!
――私は戻りたい……アイツらの所にっ!
(でももうすぐだ……あと少しできっと!)
だからこそ僕は【そこ】に活路を見出した。
本来……魔剣の対処法は主に二種類であり、一つ目は取り込まれた人間を殺してしまう事だ。
心の奥底まで呪いに蝕まれ、それを受け入れてしまった時点でその魂は僕の知る限り戻らない。
たとえ魔剣のみを上手く破壊しても無駄。
その染まった狂気は決して抜けずに人を傷つけ続けるか、廃人になるかのどちらかなんだ……。
けれども!
(大丈夫だ、マティルダはまだ戻れる!)
彼女の場合はそれとは違う後者。
魔剣から所持者の意識を引きはがし救う。
まだ心が完全に侵食されきっていないからこそ。
まだ抗う意思が彼女の中に残っているからこそ、この魔剣とマティルダの接続を絶った瞬間、隙を突いて魔剣の核となっている剣柄のあの赤い宝石を砕こうと動いていたんだ……だから。
「戻ってこいマティルダ! 戻るんだ!」
「ウグギギギ……ウググッ!? グガガガ……」
今も僕はこうして彼女が疲弊するのを待った。
同時に声もかけ続けつつ、その呪いと純粋な心の狭間を彷徨わせて、少しでも呪縛から引きはがそうと僕は魔法を使わずに堪えていたんだ!
「今ならまだ間に合う! 君ならば必ず戻れる! だから早く戻ってこい! いつもの暴れん坊で、食い意地が張ってて、どこまでも不器用で、やる気出したと思えば空回りしたりするけど――」
「ウグ!? ギギグググ……グギギギ!」
そのマティルダが持つ心の強さを信じて、
「それでも誰もが君が城に戻ってくるのを待ってるんだよ! だからそんな魔剣の呪いに若干吞まれたからって何だってんだ!? 今も抗っている時点で君の心の強さは呪いに勝ってるんだ! だからあと一歩だ! あと一歩だけ踏み出せっ!」
もうどれくらい経っただろうか……。
時間の経過を感じさせる太陽の光が地平線に沈みゆく刹那、その朱色の夕焼けで神々しく染まると言われている現在の戦場、この暁の谷にて、
「そんな呪いなんて押しつぶせっ!」
「ウググググ……グガアアアアアアア!」
もう数えれ切れない程に武器を交え続け、彼女の染まりきっていない心の悲鳴が聞こえ始めてからどれ程の時間が経過したか分からないけど、
「グググ……ゼェ……ゼェ……ゼェ」
(ふぅふぅ……よし! やっと疲れが見えてきた! 次の言葉で確実に決める! 魔剣との繫がりを絶つ! ほんの一瞬でいい! その一瞬を見逃すことなくマティルダを救ってやるんだ!)
ついに待ちに待った好機が訪れたっ!
僕は激しい攻撃ばかりを繰り広げていたせいか、ようやく目に見える疲弊ぶりを見せ肩で息を始めたマティルダに、大声でこう言い放ってやった。
「勝てっ! マティルダ! 呪いを倒せ! それで君の大好きな家族の元に帰るんだ! まずはいっぱい謝って、それから楽しい毎日を送るんだ! 大切なヴィクトリアやメアリーと一緒にっ!」
……そうすると!
「グギ!? グガアァァァァァァァァ! ギ……ギギギギ…………レオ……ナルド……か?」
(よし! 来た! まだ微かだけど戻った!)
攻撃が……ついに止んだ。
剣先を下に下ろし、まだ片目だけだけどその魔性を帯びた赤い眼光も消え失せ、先までの雄叫びではなく彼女は自分の言葉を取り戻した。
……だが! これで決着とはいかない!
まだ“僕だけの言葉”では接続は完全に断ち切れておらず、今の彼女は未だ呪縛の鎖に繋がれた状態で、また呪いの強烈な力が働けば再び意識が吞み込まれてしまう可能性が充分にある。
(さあ! 踏ん張りどころだよレオナルド! ここまで状況をうまく運べたんだ! ここでしくじったら【雑用係】の名前が廃るってもんだ!)
そこで僕は……危険を承知で、
「ヴィクトリアッ! メアリーッ! 出番だ! 彼女の一番の宝物である“君ら妹の言葉”でマティルダを呪いから完全に切り離してやるんだ!」
「はい! お任せください!」
「マティルダお姉様の為ならば!」
城を出る前に協力を頼んだ二人を大声で呼んだ。
マティルダが僕との戦闘で気を取られている内に、こっそり近くの岩陰で待機していてもらったその完全なる解放の鍵を握る重要な二人を、
「マティルダお姉様! 私達は信じています! ずっーと長い間に渡って! 何度も何度も私達を窮地から護ってくださったお姉様の強さを!」
「……ワタクシだって同じです! 貴方はワタクシ達の憧れだった何処までも強くて、何処までも優しい理想のお姉様なんです! だからそんな呪いなんかとっととやっつけて帰りましょう! ワタクシ達のいつもの日常に帰るんですっ!」
とどめばかりは僕だけの言葉じゃ足りない。
彼女がこちらに本当に戻りたいと、帰ってどうしても会いたいという強く祈り願い、希望を抱くその対象の呼びかけこそ残る鎖を解く鍵だった。
「ギ……ギギギ……」
……すると。
「ヴィクトリア……メアリーか……良かった……また会えて……本当に良かったぜ、ちくしょう」
パーフェクト! 上手くいった!
ならば僕がやる事はただ一つだけ!
もしかしたら襲ってくるかもしれない危険性を承知で力を貸してくれた、何処までも姉想いのヴィクトリア達の覚悟を無駄にしない為にもっ!
「よし……今だっ! 少し痛いけど我慢だよ!」
ガキンッ!
「痛っ……うくっ!?」
「今のレオナルド様の攻撃で魔剣が!?」
「お姉様の手から離れましたわ!」
すかさず僕はその隙を突いた。
意識を取り戻したマティルダが僅かに緩めたその手から、散々蝕んできた魔剣を宙へ弾き飛ばし、
「これで本当に終わりだよ! ユニークスキル【万能―呪具破壊】を発動! もう二度と復活できないように粉々になって消えろっ! この鈍がっ!!」
バキイイィィィィィィィィィィィィンッ!
……そのまま、ここぞと言わんばかりに。
戦いの中で温存していた魔力の全てを拳に纏ったユニークスキルに全振りし、その柄の赤い核ごと僕は落下する【魔剣ティルフィング】へ向け、力一杯に魔力を込めた拳を振るって破壊したんだった!
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話も本日投稿予定です(/・ω・)/
投稿時間は……少し考えます。
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