81.最後に残っていた自我も……のようです
「ぐぐぐ……グぐぐ」
…………熱い。
「うぐぐぐぐ…………ぐぐ」
まるで体中の血がボコボコと泡立っているみたいな、体の底からとめどなく湧き上がるその“殺意”に似た激しい葛藤に……私は襲われていた。
「く……そ……が……」
そしてグラつく視界だけでなく、自分が自分でない様な自我すらも失いかけているこの中で原因だけはハッキリしていたんだ……それは……、
「何が……必勝の剣だ……ちくしょう……ふざけやがって……ハアハア……このクソジジィが」
「ほほぉ、大したお方です。やはり王族という身分に甘んじず心身ともに鍛えられた女性だ。その剣の呪いにまだ抗っているとは感服致します」
「だ……まれ……クソ詐欺野郎が……」
今、私の隣で静かにほくそ笑んでやがるこの吊られた男と名乗るジジィだ……コイツがこの【煌剣ディルフォーン】とか嘯きやがったこの魔剣こそ、今にも呪いの力で私の意識を消し肉体を乗っ取らんと蠢いていやがったんだ!
「ふむ……お気持ちは分かりますが詐欺野郎とはいただけませんな。私めは貴方様との取引通りに必勝の剣を譲渡させていただいたまでですぞ」
「うぐぐぐぐぐぐ……くそが……これの何処か必勝なんだよ……ただむやみに私の妹達を傷つけようとしただけじゃねぇか……剣を破壊するか……降参させるだけで充分だったのに……くそが」
そう私はこれ以上暴れないようにと剣を地面に力一杯に刺しながら、顎髭を軽く擦ってるクソッタレ老人に問いかけてやった……すると奴は、
「ふっ、はっはっはっは! ごほん……これは失礼致しました。確かに私は貴方様に必勝を授けると申し上げました。ですが私めが提供させていただきました“必勝”とはそんな都合の良いものでは無く、自分以外の全てを“確実に皆殺し”にし、所持者を常に勝利へ導くというものなのです」
そう……軽く笑いを挟んで言い放ちやがった。
私が決して望まねぇ血に塗れた最悪の勝利。
何もかも破壊しつくすような悪夢の言葉を、
「人間の多くは情に脆い。瀕死の敵や朽ちゆく相手に哀れみや情けなどをかけるからこそ隙が生まれ、いつかその寝首を掻かれる羽目になる。だからこそ永遠なる勝利、必勝という絶頂を望むのならば例え身内であっても確実に殺すのです」
「ぐぐギギギギ……てめぇ……」
くそが……ふざけんじゃねぇぞ!?
もしもそんな事をしちまったら……それこそ全てが終わるだろうが!? 私が望む未来は国民や家族を血で血を洗う様な戦争に巻き込んでしまうような暴君に成り果てる未来じゃねぇんだっ!
もう家族が“血塗れ”で帰ってくる様なあの時の恐怖を誰にも味わせたくなんかねぇんだよ!
「そして貴方様の場合ですとあの妹君達ですかな? 貴方様はあの二人の事をとても大切に思っている様ですが実際は……どうなんでしょう?」
ぐっ!? コイツ……なにを!?
「大変失礼ながら……私めが思いますに普通は姉想いの妹であるならば、いくら大衆が見守る正式な戦いの場とはいえ、反則とは言いませんが【共闘】して戦ったりはしないでしょう?」
「だま……れ……」
「ですがそれも仕方が無い事ですかな? 人間とはどこまでも欲深き生き物。権力という魅力的で甘い汁を吸う為には、たとえ情に厚き優しき姉であっても排除しようとするのは当たり前――」
「違う……違う違う違う……」
「しかも丁度そこで貴方様が二連敗し、そこで妹君達は共謀。姉妹間では暴君とまで呼ばれている一番の邪魔者である貴方様を追い詰めんと――」
「違うっつってんだろうが! このクソ野郎!」
知った風な口を聞いてんじゃねぇぞ!
私の妹はそんな事を謀る様な悪党じゃねぇ!
いつだって、こんな不器用で力しか取り柄の無い私を姉と慕ってくれる可愛い妹達なんだっ!
「私の妹を悪人みてぇに言ってんじゃねぇ!」
「ふむ……まあいいでしょう。解答はどちらにせよ、私めはもう目的である【こちらの品物】を既に入手した事ですし、あとは貴方様次第です」
うぐぐ……ああっ? こちらの品物だと……ぐぐ……こいつ一体何の事を…………なにっ!?
「て、テメェ! いつの間に【それ】を!?」
「いやはや、誠に勝手ながら先程の皆の注目がコロッセウムに集まっておりました競儀中、手薄となっていた城内より拝借させていただきました」
ば……馬鹿な!? どうして!?
どうしてコイツが【金の冠】を持って!?
いやそれよりもだ!? 確かコイツが欲しがっていたのは、私が案内した宝物庫に置いてたエメラルドの埋め込まれたアクセサリーの筈――
「ああ……申し訳ございません。実は私めが欲しかったのはあんなただのアクセサリーでは無く、この膨大な魔力が宿る秘宝の冠だったのです」
「だ……だが……あそこは……あの宝物庫の扉は母上……女王の血を引く者しか開けられな――」
「ええ、ですから貴方様に一度【案内】をしていただいたのです。大まかな場所と室内のイメージさえ分かれば、私めの時空魔法で容易く侵入出来ますので……本当にご案内感謝いたしますぞ」
「あっ……あああ……ぐぐぐぐぐぐ……」
ちくしょう……全部……。
全部コイツの手の上だったってのか……。
私は馬鹿な道化として遊ばれていたのか……。
くそ……くそ! 私はなんて愚かな事を――
「ああ、それともう一つだけ。そこまで妹様の事を庇われる貴方様へ質問があるのですが――」
「な……なんだ……今はそれどころじゃ――」
「ではどうして……何故貴方様はそこまで妹君の事を信頼していながら、私めなどの提案に乗られたのですか? 正々堂々じみた事を妹君達へ謳っておきながら“このような小細工”に身を委ねてまで勝利を欲されるなど……もしやその“妹君の厚い信頼を裏切ったのは貴方自身”なのでは?」
「!?」
瞬間……。
「うっ……ギギぎぐぐググ!?」
……壊れた。
「おや……少し口が過ぎましたかな」
「グギ……ギギギ……ギギ……ギザマ……」
何かが音をあげて崩れた気がした……。
私の中にあった何かが……私の内で暴れ出さんとしていた“呪いの力”と、それを抑え込まんとする“理性”の間にあった壁の様な何かが……、
「ググ……熱イ……くそ……くそッ!?」
「あまり無理はなさらない事です。貴方の精神はたった今崩れました。呪いという敵勢力を前に城門が突破されたのです……ですから後はただただ侵されるだけ、最早全て手遅れという訳です」
(うぐぐ……くそもう殆ど声も出ねぇ……)
ドクドク! ドクドクドクドクドクドク!
そう流れ込んできやがる……どす黒い何かが。
豪雨に見舞われた後の川みてぇに勢いよく。
(ウググ……グギギ……体が燃エていく……)
熱い……くそ熱い……その熱を持った邪気みたいなものが私の頭を、手を、腕を、胴を、足を、臓物を、全身を焼きながら意識を奪おうとしやがる……怖い……恐ろしい……く……そ…………。
「ヴィク……トリア……メアリー……ごめん……な……こんな不甲斐ない姉で…………わりぃ」
二人共……ごめんな……こんな馬鹿で不器用な私なんかが……姉で……本当に悪かった……。
「ふむ……まだ呪いに抗えたとは……ですがこれ以上は無理に抗う事はありませんよ、貴方はお望みの快楽に溺れる事が出来るのです。その必勝という貴方が渇望した快楽へ――」
目先の欲だけじゃなく……こんなクソッタレな呪いに負けちまうような……どこまでも弱っちぃ口先だけの姉で……本当にごめん……な…………でも最後に……お前達にもう一度会って……攻撃しちまった事を謝り……たかった……ぜ……。
―― ―― ―― ―― ―― ――
「……………………………………」
ふむ……ようやく堕ちた様ですな。
(またその気になれば戻ってきそうな気もしますが、とにかく……凄い精神力の女性でしたな)
魔力を持たぬ身でありながら魔剣にここまで抵抗できるとは、今までの所持者の歴史でも【最も強い精神力】を持ったお方だったようですな。
その辺にはびこっている有象無象の屑どもとは一線を画す、珍しく尊敬に値する女性でした。
「さて……」
……とはいえ、もうすぐこのお方も自我が崩壊した以上、やがて再び暴走を始め敵味方問わずに襲いかかる事でしょう。それに私の方も目的の金の冠も回収した事ですし、後は戻るのみ――
「マティルダ! 無事か!?」
と……そう思っていた矢先。
「ほお、これは面白い巡り合わせです。てっきり役立たずの兵士達が来ると思っておりましたが、まさか【あの方】が現れるとは。いやはや……」
私はこちらの王女様の名を呼びながらこちらへ向かってくる、なんとも懐かしい見覚えある若者を目撃しつつこの場を後にするのでした……。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
次話はもう殆ど出来ているので明日投稿予定です(/・ω・)/
……が! 次話は元々【二話構成予定】だったものを【一話】に纏めたせいか、勢いはありますが文字数が多め(4,000字超え)になった為、皆様が余裕を持って読めそうな時間帯を模索している所です。
ですので投稿時間は【今日の日付を変わった深夜帯(これが今一番の候補)】【朝】【夕方】のいずれかのタイミングで投稿するつもりです(´・ω・`)
さらに、一応明日も今日みたいに二話分投稿したいので……やっぱり深夜か朝かな?
ではでは最後にもしよろしければブクマや評価であったり率直な感想などお待ちしております!!
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