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第六話 coda / f゛

 その頃、ドーム近辺にて。


 両腕に鞄と飲み物を抱えてコンビニを出る。カップのベリースムージーが邪魔すぎる。ちなみにフラッペも買った。自分用。

 何やらドームの方が騒がしい。最初は生徒たちの歓声かとも思ったが、どうやら違うようだ。周囲の人々が不安そうな顔をしている。出入り口を見ていると、中から黒いローブの集団とともにツンツンした髪の男が現れ、口を開く。


「お前らぁ!!命令だ!ドームの外で好きに暴れろ!!応援に来た騎士団員はぶっ潰せ!!」


 集団の中心にいた男が叫ぶ。同時に、ローブの者たちが一気に散らばり、近場の人間に襲いかかる――


「させるかよ!」


 飲み物を地面に置いて飛び出す。こっちに来た黒ローブを殴り飛ばし、走りながら灰の仮面と灰溜まりを展開する。できれば顔は見られたくない。日常生活に支障をきたす可能性がある。近くの黒ローブを殴って制圧し、遠くの奴らには槍状の灰を何本も飛ばして一掃する。一瞬のことで周囲の人間は呆然としていたが、やがて走って逃げていった。


「ほう、やるじゃねえか。お前、騎士団員か?」


 ツンツン頭が近付いてくる。問いを無視し、逆に聞き返す。


「お前こそ何だ。テロリストか?」

「あー、あながち間違ってねえな。おれの名前はバルト。バルト・ドゥーロだ。騎士団員なら知ってるはずだぜ。危険度ってのが付けられてるからな。そうなると、テメェはなんだ?まあいいか。どうせ殺すだけだからな!」


 バルトが突っ込んでくる。灰外殻を展開し、四本の触手の先端を尖らせる。頭、胴、両肩目掛けて突き刺すが、その全てが弾かれる。


「はっ!柔いぜ」


 バルトが拳を振るう。左手で受け流しつつ、右の拳で顎を殴り上げる。ガキン、と鈍い音が鳴り顎が赤く染まる。


「なっ!いったっ!!」


 俺の手から血が出ている。バルトの顎の赤色は俺の血液だ。人間の固さではない。波導を使ってるな。


「驚いたか?今ので分かったと思うが、おれの波導術は『硬化』だ。お前の体術もその灰も通らねえ。逃げてもいいぜ。鬼ごっこは好きだ」

「誰が逃げるかよ。打つ手はまだある」


 鞄から白い筒を取り出す。筒の中心には黒色の核が埋め込まれており――


「起動しろ、『ゼクシオン』」


 筒が二メートルほどの馬上槍に変形する。先端から持ち手側へ十字になって広がり、持ち手付近は円形になっている。今朝受け取ったキメラの核を使ったマギアの一つだ。


「確かに、それならおれを貫けるかもな。じゃ、使うか。『アトラヴォルテ』!」


 バルトが取り出した棒が変形し、三メートルほどの、先端が太くなったメイスになる。変形と同時、バルトが急接近し武器を振り回す。ゼクシオンの側面で受けるが、勢いを消しきれず後退する。

 おかしい。直前の振りからはあり得ない威力だ。何かカラクリがある。


「まだまだいくぜぇっ!!」


 バルトがマギアを振り下ろす。俺は後ろへ飛ぶが、


「んなっ!?ぐおおお!!」


 想像より後退できておらず、なんとか攻撃を受け止める。地面がへこみ、脚が折れそうなほどの威力だ。だというのに、体には浮遊感があった。

 なんとか受け流してバルトの間合いから抜け出すと、マギアが地面を叩く。砕けた瓦礫と破片が宙を舞う。それらの軌道を見て、確信した。


「そのマギア、物を引き寄せてるのか」


 マギアは元となった魔獣の性質を有する。魔獣の波導術も含めて。それゆえ、マギアの中には特殊な能力を持つものも少なくない。俺のゼクシオンには無いが。加工した店主いわく、キメラの性質は形状に影響したらしい。研がなくていいとのこと。

 さて、問題はどうやってバルトを倒すか、だ。こちらはゼクシオンを用いた攻撃しか通らず、相手の攻撃は非常に避けにくい。

 対策を考えていると、突然バルトがマギアを振り回し、周囲を破壊し始めた。


「性能がバレたか。だが、お前はまだ真価を分かってねえ」


 瓦礫がマギアの先端に集まっていき、やがて巨大なハンマーのような形状へと変化する。


「アトラヴォルテの『物体の引き寄せ』と、おれの『自身と触れたものの硬化』ァ!合わせりゃ、壊れねぇ超重量武器の完成ってわけだ!」


 バルトが飛び上がり、俺目掛けてマギアを振り下ろす。ワンテンポ早く地面を蹴り、引き寄せられる前に後方へ回避する。直撃した地面周辺が吹き飛び、クレーターを作り上げる。


「ぬううううん!!」


 バルトが雄叫びを上げながらマギアを振り回す。一振り毎に周囲の全てが砕けていく。が、勝機は見え始めた。

 バルトが構えた瞬間、脚に波導を込めて前方へ飛び、接近する。ゼクシオンで頭部を狙って突くが、頭を傾けて回避される。狙い通りだ。ゼクシオンを横に振るう。


「は!? ただの槍じゃねえな」


 頭部をかする。バルトの左目の上が切れた。


「刃になってんだよ。先端周りの十字の部分が」


 斬撃が放てるランス。それがゼクシオンだ。出血で奴の左目は使い物にならないはず。もう一度バルトへ向けて突進する。


「オラァッ!!」


 バルトがマギアを横向きに振るう。

 今、バルトの意識はゼクシオンのみに向いているはずだ。灰はこの戦いで役に立たないーー


 それは、間違いだ。


 バルトの握るマギアに向けて大量の灰を放出する。その全てがマギアへ引き寄せられ、付着する。


「ぬおっ!!」


 一気に重量が増加したことでバルトが体勢を崩す。脳を狙って刺突を放つ。頭を反らされるが、ゼクシオンの刃が右目を縦に切る。

 直後、マギアを放したバルトが拳を固めて俺の鳩尾を殴り飛ばす。痛すぎる。かなり効いた。俺とバルトの距離は約十五メートル。視界はほぼ奪っているが、念には念を入れておく。


「"灰霧(はいきり)”」


 背中の灰溜まりから灰を放出して辺り一帯を包み込む。これでバルトは何も見えないが、俺は灰の動きで居場所を感知できる。次で、倒しきる――





 両目をやられた。潰れてはいないがしばらくは見えにくい。そこにさらに視界が悪くなる煙を出してきた。正直、油断していた。おれがこんな訳の分からない奴に負けるはずない、そう思っていた。これまでの人生で磨いてきた強さ。自らの手で掴んできた勝利。いつから、自信は慢心に変わったのか。


 前方から音が聞こえた。仮面の男が地面を蹴って接近してきたのだろう。肉体の動く音を聞けば、なんとなく位置はわかる。マギアによる突きをギリギリで回避し、反撃に移る。アトラヴォルテの引き寄せによる巨大化、重量化は使わない。縦に振り下ろし、周囲に衝撃波を発生させる。

 手応えはない。すぐに足音が聞こえてくる。おれの周囲を走り回っている。どこから仕掛けるか分かりにくくするためだろう。


「いいぜ、来いっ!!」


 そう叫んで構えをとる。一際大きな衝撃音とともに、空気が揺れる。揺らぎを肌で感じる。相手のカタチが像を結ぶ。仮面、お前は


「後ろだっ!!」


 アトラヴォルテで攻撃を引き寄せ、突きを防御する。高い音が響き、ビリビリと衝撃が伝わってくる。


「ツッ!!」


 仮面の男が声を漏らした。もう逃がさねえ。アトラヴォルテを振りかぶり、避ける間も与えず振り下ろす。


「終わりだ」


「お前がな」


 突如、腹部に熱と痛みが走る。左目でうっすら見えたのは、腹を貫通したランスだった。





 ゼクシオンを抜くと、血を吐きながらバルトが倒れた。俺もかなり重傷だ。左腕が折れている。


「どうやって、おれを貫いたんだ? 冥土の土産に教えてくれや」

「……最後、お前がマギアで受けたのは灰で武装した俺の左手だ。そのあと、灰外殻の先端に固定しておいたゼクシオンで後ろから刺した。」


 ゼクシオン側を守られたら負けていたのは俺だった。かなり不安な賭けだったが、灰外殻を認識させないための灰霧が役に立った。


「なるほど。結局おれは、お前の灰にやられたのか。油断ってのは、捨てきれねえもんだな……。もう十分だ。殺せ」


 バルトが見えていない目を瞑る。ゼクシオンを構え、刺そうとしたその時、二人の男が落ちてきた。見たことがある紫の髪の男とスキンヘッドの男だ。紫髪の方がバルトを抱える。


「撤退するぞ。バルト、なぜお前がやられている?お前の役目はドーム周辺で騎士団の応援の足止めだろう」

「ゴホッ。そこの、騎士団じゃねえ奴にやられた。ソイツがおれより強かった。そんだけだ」

「トロンー。この仮面男、潰していいかー?」

「撤退するって言ってるだろ」


 危険を感じ、ゼクシオンを構えるが、三人は睨むだけで去っていった。幸運だ。戦っていれば確実に負けていただろう。


 命の危機を脱し、一息ついた。買ってきた飲み物を取りに戻ろうとした瞬間、ドームから轟音が響いてきた。

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