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第七話 万雷

 数分前、ゼリアドームにて。


「あと、二人」


 シエルの言葉とともに、ドームを包み込むほどの光が発生し、雷撃がトロンとバルバに放たれる。剣を避雷針にして避けるトロン。電気を浴びつつも倒れないバルバ。シエルはバルバをターゲットにして追撃を仕掛ける。


「”電影(でんえい)”」


 超高速で移動したシエルがバルバの腹に手を添える。


「”秘雷掌(ひらいしょう)”」


 バルバは反応すらできず、無防備なまま電撃を受けて崩れ落ちる。

 トドメを狙うシエルに三本の斬撃が飛んでくる。シエルが避けるためにバルバから距離をとったタイミングで、トロンがバルバを起き上がらせる。


「起きろ、バルバ。時間だ」

「んー、んぐぅ。はっ!」


 目を覚ましたバルバはトロンの言葉の意味と周囲の状況を理解し、


「はぁー!? もう終わりかよ。チッ。仕方ねえ」


 などと悪態を吐きつつトロンを抱えて飛び上がった。その跳躍は軽く六十メートルを上回り、ドームの屋根をに巨大な穴を開けて外へ出て行った。

 シエルが追いかけようとしたその時、


「キシャアアアアアア!!!」


 ドームの天井が砕け散り、怪物が顔を覗かせた。





「なんだ、ありゃあ……」


 バルトたちが逃げた後、ドームへ向かった俺の目に入ったのは、蛇のような魔獣がドームに巻き付き、頭を天井から中へ突っ込んでいる姿だった。走って近寄ろうとしたが、


「止まれ。お前、先程まで側で戦闘を繰り広げていたそうじゃないか。それも、周りを滅茶苦茶に巻き込みながら」


 騎士団の制服に身を包んだ赤髪ショートヘアの女性が話しかけてきた。俺を捕えに来たのだろう。しかし、ドームの状況を鑑みるにそれどころではないはずだが……


「俺は壊してな、いや少しは壊しましたけど、魔獣の対処が先でしょう!?」


「ドームの心配など必要ない。この状況ではお前の方が危険だ。最近面倒な連中が派手に動いていてな。怪しい奴は力ずくで連行していいことになっている」


 そう言って拳を構える。この女は確実に強い。バルトを連れていった二人と同程度、もしくはそれ以上。対して俺は全身にいくらかの傷を負い、左腕に至っては折れている。

 ここは、逃げるしかない。


 灰を放出して視界を遮り、一目散に走り出す。後ろからものすごい音が響き、振り返ると、先ほどの女はすぐそこまで迫っている。伸ばされた手が俺に届く直前、


「灰外殻!」


 背中の灰溜まりから灰を放出、触手のように展開して女の手を弾く。が、


「見せてもらおうか。お前の顔を」


 女はもう一方の手で俺の頭を掴み、そのまま地面に叩きつける。仮面が割れる。


「ぐっ! うおああっ!!」


 顔を見られるより速く仮面を再生成し、灰外殻で女を弾き飛ばす。距離ができた今がチャンスだ。

 地面を蹴って逃げる。しかし、ただ走るだけでは確実に追いつかれる。そこで、灰外殻で側のビルを破壊して瓦礫で足止めする。


「現行犯だ。言い訳できないぞ」


 女が呟き瓦礫の間を抜けて来るがーー


「いない?どういうことだ」


 女は俺を見失ったらしい。周りを見渡しながら歩いていく。いなくなったのを確認して、瓦礫の下から這い出る。瓦礫の隙間に灰を詰めて見えにくくしたのだ。人々が騒ぐ声が聞こえてくる。周囲に人がいない間にこの場を離れることにした。





 天井から中を覗き込む蛇のような巨大魔獣。すぐに騎士団員らは戦闘配置に着くが、その顔には不安と焦りが見える。シエルの額にも汗が浮かび、眉間にシワを寄せながら対処法を考える。


(素早く討伐すること自体は可能。けれど、このまま戦闘を進めれば生徒たちを巻き込んでしまう。だったら、出力を多少犠牲にして……!)


「”電離結界(でんりけっかい)”」


 観客席を覆うように青色の結界が広がる。シエルは落ちていたマイクを手に取り、


『騎士団員、そしてこの場にいる皆さん、協力してください。今私が張ったものは皆さんを守る結界です。それに波導を流して維持していただきたいのです。』


 それを聞いた騎士団員と生徒、教員らが結界に波導を流す。結界の光が強まっていく。シエルはその強度を確かめ、


「これなら、注意しなくて済む」


 と呟いて放電し始める。彼女の周囲には蒼い光が生じ、稲妻が走る。

 魔獣がシエルへと首を伸ばす。天井が崩れ、結界に直撃する。

 魔獣の牙がシエルへ届くその瞬間、


「”空華(うろばな)”」


 電流が爆ぜる。熱と光が全てを包む。

 後に残ったのは、凛とたたずむ女性の姿だけであった。

 ドーム中から歓声が上がる。生命の危機を脱したと、自分たちは勝利したのだと喜びを分かち合う。

 ただ一人を除いて。


「まだです! 総員、構えろっ!!」


 シエルが叫ぶ。地面の割れ目から全長三メートルほどの蛇型の魔獣が現れる。

 その数は三百以上。先程の魔獣の分体である。


「きゃあああああああっ!!」

「うわああっ! ひ、ひいっ!」


 生徒たちが叫ぶ。結界の内側、観客席の下のヒビからも多数の分体が出現する。





 巨大な蛇の魔獣は十日ほど前から地下に存在していた。元は一メートルほどであったが、何者かの手により巨大化、自身の分体の発生が可能となった。二日前には、二百を超える魔獣の息吹きが、風に乗っていた。





 想定外の事態に、シエルは冷静に対処する。

 電離結界を攻撃へ転用、内部の魔獣へ雷撃を放ちながら指示を出す。


「三番隊! 私の攻撃をすり抜けた魔獣の対処を。幸い、一体一体は強くありません」


「「了解!!」」


 騎士団員が地面から出る魔獣を攻撃する。力自慢の生徒たちも反撃を開始する。

 アッシュのクラスのクラス長が指示を飛ばす。


「みんな、焦る必要はない! ヒビに注意して、出てきたらすぐに叫ぶんだ! 攻撃系の波導術を使える人で対応しよう!」


「怪我したらすぐに来て! 治すから!」


 団結して魔獣を倒していく。いつしか這い出てくる魔獣の数は減り、ついにゼロになった。


「今度こそ……!」


「俺たちの勝ちだーー!!」


 街中に響くほどの歓声が上がる。手を叩いて喜び合う。怪我人は早急に運び出され、外で治療を受けている。

 シエルはドームの中央に立ちマイクを持って


『皆さん、本当にありがとうございました。この勝利は私たち全員で掴んだものです。全員の無事を確認するため、足下に気をつけて外に出てください』


 生徒はぞろぞろとドームの外へ歩いていく。

 笑顔を浮かべる者、泣き出してしまう者、手を取り合う者。


 様々な表情を浮かべる人々を夕焼けが包み込む。

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