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第五話 襲雷

 目が覚めた。時計を見る。九時。遅刻。

 急いで荷物をまとめて家を飛び出す。体は相変わらずかなり痛いが、堪えて走る。学校に到着するも、まず連れていかれたのは生徒指導室である。教頭からここ一週間の無断欠席とトドメの遅刻について叱責を受ける。真実を話す訳にもいかず、ケガをした、スマホが壊れて買い換えたため連絡が遅れた、と嘘をつく。少しは信じたようで、今後はないように、と注意された程度で済んだ。さらに、保健室で波導を用いた治療もしてくれた。この学校の保健室の教諭は波導で怪我人の治療ができる。病院に行くより治りが早くなることで有名だ。ちなみに、内申点の生活態度の項目は下がった。

 一時間目と二時間目の合間の休憩時間に教室に入る。教室の全員から目を向けられ、


「……おはよう」


 と挨拶すると、


「よお、一週間も来ねえとは。ケガしたんだって?マヌケだなぁ『最弱』クン!」


 いつも絡んでくる奴が肩を叩く。他のクラスメイトたちも、


「まあいいんじゃなーい。戦闘訓練、見学でしょ。弱っちいゴミ相手にしなくて済むじゃん」

「確かに。まあ雑用はしてもらうけどな。多少は動けるんだろ?」


 などと言いたい放題だ。教師が教室に入ってきて、


「席つけー。明日は特別講義があるの分かってるな?午前中、ゼリアのドームで騎士団員の方の講義だ。午後は普通に戦闘訓練な。じゃ、講義始めるぞー」



 講義が終わり、昼食を購買で済ませ、戦闘訓練に移る。

 治療して貰ったとは言え、安静にするように言われているので見学だ。適当に雑用をこなしていると、訓練が終わった。



 帰り道、少し寄り道をする。

 大通りの脇に入り、薄汚れた戸を開けて中に入る。


「すみません」

「知らない顔だな。何の用だ?」


 奥から出て来たのは白髪の老人。衣服の下にはかなりの筋肉が見える。ここは武器製造、金属加工を専門としている店だ。


「はじめまして。アッシュ・グレーンです。この二つを武器にしてくれますか」


 そう言いながら、先日取り返した二つの魔獣核を取り出す。魔獣核を加工することで『マギア』と呼ばれる武器の作成が可能だ。マギアには元となった魔獣の性質が色濃く残る。それゆえ使いにくいものも少なくないが、現代では最もメジャーな武器だ。


「ほう、マギア二つか。お兄ちゃん学生だろう。ちとマケて50万くらいだな。」


 払えるな。昔かなり稼いでいたので貯金がある。


「じゃあ、お願いします」

「おう。明日の朝には出来上がる。……にしても、こんな核は久しぶりに見たな。どこで手に入れた?」

「……もらいものです。騎士養成学校に通っているので、強くなりたくて」

「そうかい。まあいい。明日、学校に行く前に取りに来い。代金もその時だ」

「分かりました。では」


 と別れを済ませて店を出る。若干危なかった。あの店主、意外と鋭いのかもしれない。

 その後はスーパーに寄り、食材や生活用品を揃えた。

 家に帰り、食事の用意をする。一週間ぶりの手料理だ。近所のスーパーで買ってきたスペアリブを取り出す。鍋に入れて茹でる間に、ソースの準備をしておく。酒、醤油、ケチャップを四対三対三で混ぜ、ニンニクを加える。十分火が通ったのを確認したら鍋の火を止め、茹で汁をソースに足す。ソースと肉をフライパンに移し、絡めながら焼く!最後に野菜とともに皿に盛り付けて完成!!


「美味い、我ながら」


 食事を済ませ、片付けて風呂に入る。お湯が傷にしみることもない。すごいな、保健室の人。風呂から上がり灰色の髪を乾かしていると、少し白髪が増えている気がした。


 翌日、朝。身支度を終え、ゼリアの繁華街そばのドームに向かう。途中で昨日の店に寄り、代金を払ってマギア二つを受け取った。やがてドームに着くと、既に大半の生徒がワイワイ騒いでいる。


「誰がくるんだろうなー」

「ドームでやるんだし、戦闘の実演してくれるんじゃね!」


 指定された席に着き時間を潰していると、放送がかかった。


『特別講義を開始します。皆さん、席に着いてください。本日お越し頂きましたのは、アヴァリティアス騎士団三番隊隊長にして、六天の一人、シエル・リュミエール様です!』


 会場から歓声と拍手が巻き起こる。現れたのは白いメッシュの入った濃紺の髪、特別な騎士団の制服に身を包んだ女性、シエル・リュミエール。この学校の生徒からすれば六天は最高の憧れ。役職に就いた騎士団員でなければ、滅多にお目にかかれないような人物だ。

 一方、かつての二番弟子を見て俺は、


「変わらないな、本当に」


 ボソッと呟く。二十年前から全く変わらない容姿。これは彼女が『混血(こんけつ)』であることに起因する。

 そもそも、ヒトには三つの種族がある。哺乳類から分岐した『純人類(じゅんじんるい)』と、数万年前まで存在したという『竜(りゅう)』から分岐した『竜人(りゅうじん)』、そしてそのハーフの血脈である『混血』。竜人の特徴として、自らの身体の全てまたは一部を竜のような姿に変化できること、寿命が300年ほどであることの二つが挙げられる。一方、混血は姿の変化はできないが、寿命は同じく300年近い。シエルだけでなく、俺やアルスも混血である。ちなみに俺は75才。竜人や混血から見るとまだまだ若い。



 さて、シエルがドームの中心で話始める。

「はじめまして。ご紹介にあずかりました、シエル・リュミエールです。皆さん、リラックスしていただいて構いません。かなり長く話をしますから」

 柔らかに微笑みながらゆっくりと話す。生徒は皆興味津々なようで、楽しそうに聞いている。そんななか、


「喉渇いたな。水筒忘れちまったし。『最弱』ゥ、何か買って来てくんね?」

「じゃあ俺も。いちごオレ二本」

「ウチはベリースムージーね。コンビニまで行ってきて~。十分くらいなら待ったげる」


 出たな、いちごオレ男。しかも二本?ベリースムージー!?また面倒なものを……

 などと考えつつ、今ならケンカしても勝てることに気付く。しかし、この公演中に騒ぎを起こすのもよろしくない。渋々従い、ドームを出ていく。





 アッシュが出ていって五分、彼はベリースムージーを求めてコンビニをハシゴしていた。

 一方、ドームにて。シエルは変わらず話を続けている。


「これは近年判明したことなのですが、波導神経は日々の適度な使用により成長します。皆さんの日々の戦闘訓練はこの点で――」


 突如、嫌な予感がシエルを襲う。ドーム全体を見渡し、違和感の正体を目撃した。


「総員、戦闘準備!!学生を守れ!!」


 シエルが叫ぶ。ドームの警備にあたっていた騎士団員たちが武器を構え、波導を体に巡らせる。学生たちが騒ぎ始めたその時、


「つっ!」


 シエルの足元が吹き飛ぶが、彼女はすんでのところで衝撃を回避した。そして、何もないはずの空間から二人の男が現れる。同時に、ドームの内壁に沿って黒いローブに身を包んだ者たちが出現した。

 シエルが目の前の二人を見つめる。スキンヘッドで筋骨隆々の男、紫色で後ろ髪の長く、長身の男。


(バルバ・ゼババ、そして、トロン・ランサー。二人とも危険度は第一階級オーバー。こんなにも人の多い場所で……)


 とシエルが考えていると、


「トロン、コイツ、殺していいのか?」

「考えなしに突っ込むな。少し待ってろ。おっと」


 トロンが無線機を取り出して何やら会話を始める。好機、と見たシエルが一瞬で背後に回り、蹴りを放つ。しかし、バルバが受け止め、


「なあ、もう殺り合っていいかー?」

「おい、作戦通りに……。チッ」


 トロンの言葉を無視してバルバがシエルを投げ飛ばし、追撃を仕掛ける。顔を目掛けて振り抜かれたバルバの拳が空を切る。横に回避したシエルが足を払い、更に頭を掴み膝蹴りを直撃させる。


「がっ!いってえ」

「忠告したぞ。考えなしに突っ込むなと」


 シエルに接近していたトロンが踵を振り下ろす。シエルは片腕で受け止め、もう片手に掴んだバルバをトロン目掛けて振り回し、そのまま投げ飛ばす。


「やはり面倒だな、六天は」


 トロンがどこからか片手剣を取り出し一閃する。


「っ!!」


 斬撃が飛んだ。回避しようとしたシエルだが、後方には学生がいることを思い出す。避ける訳にはいかず、波導を纏わせた両腕で防御するが、受け止めきれない。腕からは鮮血が吹き出す。


「肘から先を落とせると思ったが。流石、というべきか。だが、その腕で受けられるか?」


 トロンの言葉と同時、バルバがシエルに突進する。両腕を封じられたシエルは為す術なく吹き飛ばされ、観客席下の壁に直撃する。

 観客席の生徒たちから悲鳴が上がる。その周囲では騎士団員と黒ローブが戦っている。


「きゃああああ!!!」


 観客席で一際大きな悲鳴が上がった。黒ローブの一人が生徒を襲う、その時、


「”雷鳴飛鶴(らいめいひかく)”」


 鳥の鳴き声のような音とともに黒ローブ全員に雷撃が降り注ぎ、次々と倒れていく。

 攻撃の主は観客席の下から現れた。周囲には青白い電気がバリバリと音をたてている。両腕と頭から血を流したシエルがバルバとトロンを睨み、


「あと、二人」


 次の瞬間、閃光がドームを包んだ。

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