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第五十話 破壊者

 クレール王国南端付近より西へ進んだ場所、『障壁を越える者(スヴェラトール)』のメンバーで構成されたアヴァリティアス騎士団新五番隊もまた、『ACE』と接触していた。


「よし、そろそろ仕掛けよう」


 五番隊隊長となった『障壁を越える者』の指揮官 テルズ・ヴォーチェが無線を通して隊員に命令する。



 五番隊は他の隊に比べて戦力が不足している。その一方で、連携及び奇襲の能力に関しては頭一つ抜けているのだ。

 今回も彼らは『ACE』の部隊を遠くから視認した後にいくつかの班に別れて配置につき、襲撃のタイミングを窺っていた。



 彼らが見た『ACE』の部隊には黒ローブの他に一人の若い男。不機嫌そうな顔を浮かべ、いかつい雰囲気と波導を垂れ流しながら歩くその男。

 騎士団のデータベースにはその名前と容姿だけが登録されている。

 クルヴァンガ・ナーガリー。騎士団が最も警戒していた人物の一人である。


「かなり強そうです。できれば正面衝突は避けたいですね」


 建物の陰からクルヴァンガを見た五番隊副隊長ザイル・インヴィがテルズに伝える。


『最初の一撃でどれだけやれるかだな。ザイル、アンのカバーを任せる』


「了解です」


 ザイルが陰に身を隠す建物から少し離れた位置にあるビル。その内部でアン・ハイランドは自身の波導術である『糸』を紡ぎあげていた。


「テルズさん、もういけるッスよ」


 準備を終えたアンがテルズに無線で連絡し、そして、


「作戦開始! 総員、かかれっ!」





 街の中心を歩く『ACE』、その頭上。ビルから飛び出したアンが波導の糸を振り回す。周囲の建物やその陰からも五番隊員が現れ、一気に『ACE』の部隊へ攻撃を仕掛ける。

 アンの糸が何人かの『ACE』の構成員を絡めとり、クルヴァンガへ向けて鋼鉄と同等の硬度である特殊な糸が迫る。


「んあ?」


 クルヴァンガは糸を見つめた後、余裕を持って仰け反って回避する。その後も迫る何本もの糸を避けながら走って攻撃してくる五番隊員を蹴り飛ばす。

 奇襲を受けて対応できずにいた『ACE』の一般構成員はすぐに拘束され、または攻撃を受けて戦闘不能になったが、ただ一人クルヴァンガだけは笑みを浮かべながら首の骨を鳴らして戦闘態勢に入る。


「来やがったか、アヴァリティアス騎士団。随分弱っちそうだが、ガッカリさせんなよ?」


 クルヴァンガへの奇襲の後、建物の間に張った空中の糸の上に立っていたアン。彼女に向けてクルヴァンガが飛び上がる。その右手にはマギアが握られており、


「『トールバスター』"オーバーレンジ"!」


 巨大な斧に変形したマギアをクルヴァンガが振り回す。

 アンとクルヴァンガの間はとても届く距離ではないが、危険を感じたザイルがその間に割り込み、"隔絶現世(ノーゲート)"によってアンと自身を隔絶させて回避する。



 数秒経って元の空間に戻った二人は驚愕で目を見張った。

 アンが立っていた背後には跡形もなく消し飛んだ何棟ものビル。クルヴァンガの振りの速さ、斧の大きさからは考えられない威力と範囲であった。



 攻撃を放った本人は斧をクルクルと回しながら笑う。


「ハッ、こんくらいでビビってんのか? 期待外れだぜ、こりゃ。てめぇら、何番隊だ?」


「私たちは五番隊です。人を舐め腐ったその態度、足元掬ってひっくり返してあげますよ」


 糸の上に立ったザイルがクルヴァンガを見下しながら言い放つ。


「へえ、五番。……五番? バキラを殺ったってとこか! なんだ、もぉっと強いのかと思ってたぜ。あのオッサンも調子に乗ってるだけの雑魚だったか。ちっ、あん時殺しとけばよかったぜ」


 クルヴァンガは少し驚いた後、しかめっ面で独り言を呟く。その隙にアンが糸を紡ぎ直し、


「"鋼糸(はがねいと)・賽子裁断(さいころさいだん)"!」


 目の細かい網目を作った何本もの糸がクルヴァンガの頭上と左右から迫る。回避先など存在しない。クルヴァンガは一歩も動こうとせず、


「柔過ぎんだよ、カス」


 斧を一振りするのみ。瞬間、迫っていた糸がバラバラに千切れる。明らかに斧と糸は当たっていない。ただ斬撃だけが届いている。


「気になるか? 簡単なことだぜ。このマギア、『トールバスター』の能力だ。波導を流せば見た目以上に攻撃範囲が広がんだよ」


 そう説明しながら斧を回して担ぐクルヴァンガ。一方、それを聞いたザイルは波導術の準備をし、アンは次、そしてさらにその次の攻撃を用意する。



 アンとザイルの狙いはカウンター。斧の破壊力と範囲は相当なものだが、振った後の隙もかなり大きい。

 ザイルの"隔絶現世"でクルヴァンガの攻撃回避し、その後の隙をアンが突こうという考えである。



 しかし、これは失敗に終わることとなる。



 アンが数本の糸をコンパクトな振りでクルヴァンガへ伸ばす。クルヴァンガは前方へ跳躍しながら回避・前進してアンを狙うが、


「"隔絶現世"」


 ザイルとアンの姿が消える。構わず斧を振り抜くクルヴァンガ。

 二人が元の空間に戻ってきて反撃を放つ、その瞬間。


「アマっちょろいんだよ、愚図が。そんな単純な攻撃、誰でも思い付くぜ?」


 地面を抉ったクルヴァンガの攻撃の軌跡。

 彼の波導が漂っているその空間が、爆発した。

 一度だけではない。連鎖するように何度も爆発し、そのたびに赤い炎が上がり、爆音が鳴り響く。




 巻き込まれるザイルとアン。ザイルは全速力で波導術を発動しようとし、アンは糸を編んで展開して防ごうとする。


 舞い上がる土煙と黒煙。炎が広がり爆風が吹き抜ける。少し離れた場所で、捕らえた『ACE』の構成員を監視していた五番隊員らを衝撃波が襲う。

 直後、背中に大火傷を負ったザイルと、黒い煤に塗れたアンが彼らの前へ弾き飛ばされてきた。


「ザイル!! アン!!」


 テルズが叫び、治療を得意とする隊員が真っ先に二人のもとへ駆けつける。



 その二人を追うように煙をかき分け、煤を払いながら現れたのは無傷のクルヴァンガ。傷を負ったザイルとアンを見下して嘲笑う。


「一撃かよ、つまんねぇ。まだ生きてるしぶとさだけは褒めてやるけどな。残りの隊員はてめぇらより弱えんだろ? 寂しい思いはしなくて済むぜ」


 そう言って斧を振り上げる。


 五番隊員たちが必死に距離を詰めて守ろうとするが、間に合わない。




 ザイルとアンへ振り下ろされる斧。


 バキッ、と鈍い音が響く。


 砕けた破片が宙を舞う。




 斧は、地面に突き刺さっていた。




「あ?」


 アンとザイルは動く素振りさえ見せていない。しかし、二人は先ほどの位置から五メートル以上移動していた。

 クルヴァンガと五番隊員の頭を疑問が埋め尽くす。その様子を見ていたテルズも他の隊員と同様に、


「な、何が起きたんだ?」


 と呟いた。




 その答えは、クルヴァンガの後ろからやってきた。


「だから言っただろう、クルヴァンガ。油断と余裕は違う。お前はただ油断しているだけだ。私が持っているような余裕はない」


 響く低い声。ゆっくりと歩く壮年の男。死んだはずの亡霊は、確かな肉体を持って現れた。


 声の主を見たクルヴァンガが叫ぶ。



「なぜだ!? なんで死んだてめぇがここにいる!? なぜ騎士団を助ける! 



 バキラ・オード!!」



 手を後ろに組み、笑みを浮かべるバキラ。


「『死んだ』、か。誰か私の死体を見たのか? お前は当然だが、騎士団員でさえ見ていないだろう。


 そして騎士団を助けたのはただの気まぐれだ。私はお前を倒しに来たのだから。

『王』が神になろうとしているのだ。その部下を殺してこそ、私に罰が与えられるだろう?」


憎らしい亡霊との再会に、クルヴァンガは怒りと喜びを爆発させる。


「フッ、ハハハ! 俺を殺す? よく吠えるじゃねぇかバキラ! いいぜやろう。他の奴らなんざどうでもいい。ずっと前からてめぇは殺したかったんだよッ!!」


 斧を振りかぶりクルヴァンガが走る。一歩ごとに爆発が生じながらその体は加速していく。



 クルヴァンガの波導術は『波導の爆発』。バーンモルトやブランの『炎』と違い持続力は低いが、炎の他にも爆音や爆風といった現象も利用できる。



 突っ込んでくるクルヴァンガを前に、バキラは、


「それでは、『悪行』を為すとしよう」

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