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第五十一話 決死の一撃

 傷ついた主力であるアンとザイルの保護と回復に勤しむアヴァリティアス騎士団を尻目に、バキラはクルヴァンガと正対する。

 斧状のマギアである『トールバスター』を片手に、爆発を巻き起こしながら走るクルヴァンガ。バキラは懐から数十本のナイフを取り出して『完全掌握(マニピュレーター)』で操作しながら投げつける。


「お互い戦い方は割れてんだ! 対応の仕方も分かってる。だったらよぉ、火力が高え方が強えだろ!!」


 クルヴァンガが斧を振り回す。攻撃範囲の拡大と波導の爆発でナイフを全て撃ち落とし、粉砕する。

 斧を振った勢いが付いた強烈な踏み込み。文字通り地面を爆発させながらクルヴァンガが飛び出す。バキラの頭上で斧を振り上げるが、突如高速で移動してきたビルがクルヴァンガに直撃する。事前にバキラが触っていた建物を操作しているのだ。


「その火力を有効に使えてこそだろう、クルヴァンガ。私がお前の肉体を操ってやった方が強そうだ」


 その後も複数の建物を操作してクルヴァンガの体を空中で挟む。バキラが動けないクルヴァンガの脳天目掛けてナイフを投げるが、


「その自信に満ち溢れた顔面と脳ミソ、爆発させてやるよ……」


 クルヴァンガの周囲から紅蓮の炎と黒煙が上がり、建物が崩れ落ちる。

 着地したクルヴァンガは再び斧を構え、バキラが次の一手を打つより早く振り抜く。



「"バッドバイト・バウンドバースト"!!」



 斧が振り抜かれると同時、拡大された攻撃範囲全体で超高火力の爆発が連続で巻き起こる。周囲の建物と地面を消し飛ばし、バキラはおろかその後方、およそ三キロメートルほど離れた位置にいたアヴァリティアス騎士団五番隊さえも包み込む炎と煙。間にあるビルは衝撃を受けて崩れ去り、地面は大きく抉られる。街の外を爆風が吹き荒れ、灼熱が木々を焼いた。


「まとめて死んだか? 流石のオッサンも大ダメージだろ。建物操ったところで、その建物ごと吹き飛ばされちゃ無駄だしな」


 クルヴァンガが独り言を呟きながら斧を肩に担ぐ。煙が晴れた街の跡地には、布切れ一片も残っていなかった。



 しかし、


「まったく。助けてくれたのは感謝していますが、なんであなたと協力しなきゃならんのです? バキラ・オード」


「そうッスよー!! あんたにやられた傷、どんだけ痛かったと思ってんスかー!? ああん!?」


「まあそう言うな。悪い話ではあるまい。私一人でも対処自体は可能だったのだがね。お前たちの力を借りる方が楽だったのだよ」


 何もなかったはずの宙空に突如として現れるバキラと五番隊。一度目の爆発に巻き込まれたアンとザイルは体を引き摺りながらも自力で立っている。

 それを見たクルヴァンガは、


「チッ。復活してやがったか。まあいい。その消える波導術、連発できねぇだろ? 何回でも爆発させてやるよ」


 両手で掴んだ斧を横に回転しながら振り回す。

 三百六十度全方向に斧の斬撃と爆発が発生、面影のない街を再び大爆発が包み込む。しかし、


「馬鹿の一つ覚えだな。私のように自由度の高い波導術でない以上、工夫を凝らすのが重要だろうに」


 バキラが地面に手をつく。

 大きな音とともに地面が揺れ始め、クルヴァンガを囲むように土と瓦礫が壁を形成していく。波導を纏った壁が爆発を押さえ込み、衝撃を上空へと吐き出していく。


「ハッ、そんくらいじゃ意味ねぇんだよ!!」


 一際大きな爆音。地面を蹴ったクルヴァンガが壁を飛び越え、斧を高々と構える。彼の目に映るバキラと五番隊目掛けて斧を振る、その直前。



 彼は気づいた。糸を使う黒髪の少女がいない。どこかで何かを仕掛けているのか? 


「いや、構わねぇ。吹き飛ばしちまえば一緒だ!!


 "バッドバイト・バウ――"」



 クルヴァンガの腕が止まる。


 糸だ。


 どこからか伸びた糸がクルヴァンガの動きを拘束している。糸を操るアンがいたのは、バキラが作った土と瓦礫の壁の中。空いた穴から糸を絡めている。


「チッ、こんなもん!!」


 クルヴァンガが糸を爆発させようと波導を流す。しかし、


「させませんよ。はあっ!!」


 彼の頭上に移動してきたザイルが竜化した姿で降下・突進する。

 地面に叩き落とされるクルヴァンガ。

 そこへさらにバキラの拳が直撃する。


「ぐっ、カハッ!!」


 強烈な一撃をモロに受け、壁に大穴を開けながら吹き飛んだ。




 追撃の手を休めまいと五番隊が追いかける。



 内臓が潰れ、口から血を吐きながらクルヴァンガは、『王』に挑み、完敗した自分自身の情けない表情を思い出す。

 そして、これまでに殺してきた人々が死を前にした顔を思い出す。



「ハア、俺は、俺は二度と……! 奪われる側にはならねぇ!! 俺は、勝者だ!! 全員まとめて、ぶっ殺ォォす!!!」



 全身から波導を放出し、柄が折れるほどの力で斧を握り締める。壁を越えて迫る五番隊とバキラ。クルヴァンガは彼らを前に、ありったけの力と波導を振り絞る。



「"バッドビート・デスデトネイト"ォォ!!!」



 斧の最大範囲、彼の最高火力。

 そのどちらもを超越している、本来であればありえない一撃。

 揺らぐことのない勝利への執念が限界を塗り替える。

 回避不能にして必殺の威力の一撃。




 これを前に、五番隊は誰一人絶望してなどいなかった。空中を歩くアンが上空から深紅の糸を伸ばす。


「"十億綾糸(ビリオンスレッド)・紅弁慶(カランコエ)"!!」


 高密度に纏まり、もはや超硬度の布となった糸が爆発を受け止めるが、衝撃によって徐々に押し込まれていく。

 内側に包まれた五番隊員らが内側から布を押して形を保つ。


「「うおおお!! 押せ押せ押せ押せえっ!!」」


 しかし、破壊的な爆発の威力を受けて生じる綻び。布に穴が空き始める。熱い爆風が流れ込み、隊員らが全力で耐える。


「ふん、まだ音(ね)を上げてくれるなよ?」


 バキラが糸に触れる。『完全掌握』でアンが伸ばした糸を操作して布の穴を直していく。




 耐え続ける五番隊とバキラ。


 限界を超えて爆発を起こし続けるクルヴァンガ。




 そして彼の前に現れる、ザイル・インヴィ。



「終わりです、クルヴァンガ・ナーガリー!!」



 "隔絶現世(ノーゲート)"の範囲拡大によって安全圏を移動してきたザイルが爆発の中に飛び込む。全身を竜化させ、鱗で炎と衝撃を受け止める。


「うっ、うおあああ!!」


 熱と痛みに堪えながらザイルが右腕を振り抜き、クルヴァンガに巨大な爪が直撃する。その一撃を受けて気絶した彼の手からマギアが離れ、爆発が収まっていく。






「ザイルさんっ!! 早く! 治療を!!」


 爆発の中でクルヴァンガに一撃を放ったザイルは重傷を負っていた。アンの糸に守られた隊員らが駆けつけて応急処置を急ぐ。


「アン、ミスター・テルズ……。勝ち、ましたか」


「喋るな。深く息を吸って、死なないことだけに集中しろ!」


 ザイルのそばに来たテルズが言う。ザイルのバイタルは、生きている人間のそれではなかった。死は目前に迫っている。

 応急処置は言うまでもなく、万全の医療班による治療を受けたとしても生き残れないほどのケガ。


 黒く焦げた全身、焼けて短くなった髪の毛。


 弱くなっていく呼吸と心拍。



「死んじゃダメッスよ! ザイルさん……!!」


「アン……。私は、みんなを、守ることができたのなら……」


「ダメっス!! 嫌だッ!! ザイルさんが死ぬなんて、嫌だぁッ!!」


 泣きわめくアン。テルズや他の隊員らも涙を流しながらザイルに声をかけ続ける。


「耐えてくれ、生き方るんだ! ザイル!!」


「あなたがいてこその『障壁を越える者(スヴェラトール)』なんです!」


「死ぬなっ! どんなことだって一緒に乗り越えて来ただろ!?」




 微かに聞こえる大声を受けてザイルは、


「いい仲、間に……出会え、た、ものです……」



 わずかに開いていたザイルの目が閉じる。

 彼の耳にはどんな音も届かなくなる。

 彼の体は指一本動かない。

 アンの大粒の涙が彼の体に落ちる。


 ザイルが声を放つことは、無かった。

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