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第四十九話 導体

 一方、アルスと別れて各方向へ移動したアヴァリティアス騎士団の部隊もまた、本拠地を守る『ACE』の部隊と接触し始めていた。


 南へ進んだ一、三、六番隊は、『ACE』の本拠地が見える街まで移動しており、彼らの周囲にはいくつか高いビルが建っている。

 騎士団の指揮を執るコールが部隊の中心から周りの様子を確認していると、正面から大規模な『ACE』の戦闘部隊が接近しているという報告を受けた。


「全体、戦闘準備だ。大部隊は正面から来ているが、周囲の警戒も怠るなよ!」


 コールは無線で全員に伝え、進行を止めさせる。

 騎士団の部隊の先頭にいるのは二人の『六天』。シエル・リュミエールとレレア・クライン。二人は地響きとともにやって来る『ACE』の部隊を眺めながら波導を溜め始める。


「こういうのは初撃が大事だもんねー。準備オッケー、シエル?」


「ええ、いつでも。全力で吹き飛ばしましょう」


 シエルの『厳雷霊(イカツチ)』とレレアの『表裏の境界(クロス・ボーダー)』。

 空中を走り抜ける超高電圧の雷撃と空間を歪ませる莫大なエネルギー。

 その二つが合わさり、蒼い光と耳をつんざく爆音が轟く。


「"破天雷光(はてんらいこう)」・「大乱重界(たいらんじゅうかい)"」


 まばゆい光と時空を乱すほどの純粋な力の奔流。一般的な騎士の目には映らぬ速さで『ACE』の部隊へと迫る。




 その一撃が黒いローブの集団を呑み込む直前、緑と茶色の何かが盾となって防ぎ、衝撃の全てを受け止めて爆発した。


「やっぱ止められちゃうか~。いくよ、シエル。先手必勝ー!」


「ええ、できる限り迅速に、かつ被害を最小に倒しましょう」


 レレアとシエルが飛び出し、その他の騎士団員が二人の後に続く。





 一方、『ACE』の部隊を囲うように伸びた緑と茶色の植物が解ける。

 そこにいたのは全身に蔦を絡ませた緑と黒が混じった髪の男 セルーバ・アマズ。

 そしてもう一人、髪の毛の半分が真っ黒、もう半分は光輝く銀色の長髪の女性がいた。ジャラジャラと着けたアクセサリーを揺らしながら女性はため息を吐く。


「はあーー、嫌だーー! 早く戻りたい。死にたくないし。あたし帰っていい?」


「……」


 セルーバ・アマズは答えない。いや、正確には答えられない。

 彼は前回の戦闘において重傷を負い、魔獣核の力によってかろうじて生き長らえているため、既に社会生物としての意識はない。ただ『王』を妨害するものを、己の生命を脅かすものを殲滅する。そのためだけに彼の肉体は動いている。




 黒と銀の髪の女性は膝を曲げてしゃがみながら再びため息を吐く。


「話せないんだった。帰りたいけど、置いていくのは気が引けるし。はあーー。あたしも、覚悟決めないと」


 その背後、音も無く移動していたシエルがその女性の肩に手を置いて話しかける。


「投降するのなら命はとりませんよ。約束します」


「ひゃあっ! だ、だだ、誰!? って『六天』!! ううっ、負けちゃうよぉ……」


 派手に驚きながら目を潤ませる女性にペースを乱され、一瞬キョトンとするシエルだが、もう一度冷静に提案する。


「戦いたくないなら降参してください。私も不要な戦闘は避けたいですし、抵抗しないのであれば危害も与えませんよ?」


「優しい……。もっとすぐに殴ってくると思ってた。顔怖いし」


「そう言われると手が出そうですね」


「ひいっ、やめてー! あたし、戦いたくなくて、でも、戦わないといけないから! だから、だから! 


 死んでくれる!?」




 黒と銀の髪の女性が身に付けていたアクセサリーが、融ける。

 液体となった金属が物凄い速度でシエルを貫かんと伸びる。シエルは四つの流れとなった液体金属を跳んで躱し、


「急にやってきましたね。私も手加減なしで戦いますので、覚悟を」


 身体中に雷を纏いながら両手両足へ波導を集中させたシエルは地面を這うような低い姿勢で女性へと走る。正面から高速で飛来する液体金属を回避しながら接近し、女性の周囲を動き回って防御のタイミングを乱す。地面が削れる速さで走りながらシエルは、


「そういえば名前を伺っていませんでしたね。敵同士ですので答えないとは思いますが」


「っ、はやっ! な、名前!? あたしはセリン! ううっ、余裕を感じるっ!」


「まさか答えてくれるとは。私はシエル・リュミエール。アヴァリティアスを守る『六天』である以上、全力で倒させていただきます」


 シエルの足音が消える。コンマ一秒にも満たぬ刹那、シエルは既にセリンの懐に入り込んでいた。


「"秘雷掌(ひらいしょう)"」


「ぐっ、間に合え!!」


 セリンがアクセサリーを液体に変え、シエルの手のひらが体に触れるのを防ぐ。液体金属を操って雷を纏う手を受け流し、体勢を崩したシエルの背中へ向けて金属が高圧で噴射される。

 しかし、液体金属はシエルに掠りさえしない。"電理眼(でんりがん)"と身体活性による超反応。セリンはその動きを目で捉えられない。彼女の左側に移動したシエルは胴へ向けて蹴りを放つ。セリン防御とその直後の反撃にかなり液体金属を使用していたため、シエルの蹴りを防ぐ方法がなかった。なんとか左腕でカバーしようとするが、


「くっ、ああっ!!」


 強烈な一撃により為すすべなく吹き飛ばされる。シエルはその後を追って接近した後、


「もう一度聞きます。降伏する気は、ありませんか?」


 セリンは頭から血を流し、覚悟を決めた瞳でシエルを見つめながら答える。


「ないよ。あたしは戦わないといけないから。それがあたしの役目だから」


「そうですか。非常に残念です」


 シエルは悲しげな目をしている。


 セリンの『金属を操る』という波導術は脅威ではあるものの、かなり話が通じるうえ周囲への被害も少ない。騎士団がマークしていた相手ではないため少しばかり温情を掛けてもよいと思っていたのである。




 シエルが再び手に波導を集中させ、雷を纏わせる。その瞬間、


「ゴメーン! シエル、避けてー!」


 シエルの耳に入ったのは上空から響くレレアの声。シエルが後退すると、先ほどまで立っていた場所を巨大な植物の枝が破壊する。

 空中には街一帯に拡がるほどの植物の枝が一瞬で張り巡らされ、その一部をレレアが吹き飛ばしていた。シエルの横に着地したレレアは、


「ホントごめん。手こずるかも。そっちはどうー?」


「まあ、なんというか、やりにくい相手です。油断しなければ勝てるとは思うんですが」


「オッケーオッケー。じゃ、もうしばらくアタシ一人でなんとかするから、決着ついたら協力してねー」




 レレアがセルーバへ向けてジャンプしようとしたそのとき。レレアへ何かが飛んできた。受け止めたレレアは、


「おわっと、大丈夫? 何があったの?」


 レレアに飛んできたのは三番隊副隊長 イブ・ランデル。竜化した腕には傷が入っているが、本人は気にしていない。


「隊長、レレア六番隊長、どちらか対応を。 マークしていたカノンが、ここに来た」


「カノン・グラキエス、『ACE』の中でも相当な強さを誇るそうですが、どうします、レレア?」


「三番隊副隊長ー、まだ動けるー? オッケーね。じゃあ一対一×三じゃなくて三対三で戦おっかー。アタシたちが上手く連携できれば勝てるかも」


 数十秒ほど話をしていた彼女らの前に、その銀髪の女性は現れた。


「見たことある顔だね。今日は逃がしてあげないよ?」


 周囲を凍りつかせながら歩くカノン。彼女を見たセリンが慌てて立ち上がり、とてつもない速さで近づく。


「助けてカノン!! あたし死んじゃうよぉー!」


 セリンに抱きつかれたカノンは呆れた顔をしながらも黒と銀の髪の頭を撫でる。


「私が来たからにはもう大丈夫よ、セリン。でもちゃんと協力してね?」


 ブンブンと首を縦に振りまくるセリン。目尻に涙を浮かべながらもゆっくりと立ち上がる。セルーバは二人の上に伸びた枝に立ったまま動かない。




 そんな様子を見ていたシエルは、


「何を見せられているんでしょう?」


「さあね?」

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