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第三十三話 証明の火

 ゼリア中心街付近。

 巨大な氷の壁に覆われたなか、『王』とカノンに逃げられた俺は、新たな問題に立ち向かわなければならなかった。

 目の前に立つのは『六天』にして俺の元弟子、そして二十年前に俺を倒した人物であるアルス・エルバート。

 恐らくアルスは俺の正体に気づいている。そのうえで、俺がどう動くのかを見ているってところか。

 騎士団員はかなり集まっている。『裏切りの英雄』とされ、『灰貌』としてもマークされている以上、いつ戦闘になってもおかしくない。


「アッシュ・グレーン、だったか? アンタはなんのためにここにいる?」


 アルスが俺を睨む。試すような目だ。


「俺はただ、仲間を取り戻しにきただけだ。連れて行かれてしまったが」


「……そうか。ならもう一つ聞こう。なぜアンタが生きている?」


 やはり、気づいていたか。バーンモルトだと分かっていなければその質問は出ない。答えあぐねていると、事情をほぼ完全に把握しているレレアが間に割って入った。


「アルス、ちょっと待ちなー。取り調べ的な事は、こんな大勢の目の前じゃなくたって――」


「そうですね。私が聞いておきましょうか。そこの彼が、危険因子であるかどうか」


 雷鳴とともに目の前に現れたのは三番隊隊長 シエル・リュミエール。ダインでの一件がある以上、俺は確実に警戒されている。


「思ったより遅かったな、シエル」


 アルスが言う。一方のシエルは呆れた顔で、


「一番隊が無視した魔獣の処理にあたっていたこちらの身にもなってください。

 それより、『灰貌』で間違いないですね。聞きたいこと、話したいことが山のようにありますので、連行しても?」


 シエルが俺を見る。その目には様々な感情が混じっている。

 シエルも気づいているのだろうか。髪の色と波導術は変わったが、顔、体格、癖などは変わっていない以上、かつての仲間には案外バレるな。


 レレアが再び口を挟んだ。


「待ってってばー。アタシたちも彼に聞きたいことがあるワケ。突然やってきた三番隊には渡せないねー」


「どこにも連れていかせる気はないぞ。今ここで話を着けておきたい」


 アルスが二人に言い、俺の方に振り返る。


「それでいいよな? バ(・)ー(・)ン(・)モ(・)ル(・)ト(・)」


 アルスの一言。

 騎士団員たちが騒ぎ始め、アンとザイルは顔を見合わせている。

 シンは『あちゃ~、ドンマイ』とか言いたそうな顔をしている。呑気か。


「バッ……! アルス!?」


 驚きつつ半ギレのレレア。レレアはなんとか俺の状況を丸く収めたかったようだ。


「隠したかったのか? いずれ分かっていたことだろう? それに、『灰貌』として扱われてもロクなことにはなるまい」


 アルスがレレアに言い放つ。


「それは、そうだけどさー……。」


 一方、シエルは表情を変えずにじっと俺を見つめ、


「弁明か何かがあるのなら聞きましょう、バーンさん」


 シエルが俺に聞いてくる。先ほどよりは若干柔らかな目をしている気がする。


「信じてくれるかは分からないが、俺は騎士団とは戦いたくない。『ACE』を倒して、俺は……!」


「関わりがあったオレたちはともかく、騎士団員の多くは信じないだろうな」


 アルスが言いながら、ハンドサインで騎士団員たちを下がらせている。


「だからこそ示せ。アンタの存在がアヴァリティアスに与える恩恵を。アンタの強さを。騎士団員全員に、『この人は戦力になる』と思わせて納得させてみせろ。今アンタができることはそれだけだ」


 アルスが真っ直ぐに俺を見る。アルスの言動に納得したのか、シエルとレレアも下がっていく。途中こちらを振り返って、


「ご武運を」


「頑張ってよー」


 と言って騎士団員の集団に混ざっていった。





 正面に立つアルスはストレッチをしながら、


「随分と久しぶりだな。何度もやってきた訓練を思い出す。本気は出さないが、手加減もしてやれないぞ」


 かなり自信があるようだ。実際、今の俺とアルスの力の差は歴然。向こうもそれは分かっている。そのうえで挑んでこい、というのだから、俺がすべきことはただ一つ。


「挑戦者として、足掻くだけだ」


「いつでもかかってこい、師匠」


 余裕たっぷり、皮肉ったらしく言ってくる。

 流石に少しイラッときたが、アルスも油断はしていない。感情のままに動けば瞬殺されるな。


「"灰外殻・赫炎爪"」


 炎を纏った灰を放出し、同時にヴェルザを展開する。初めからフルスロットルでいかなければ、十秒も耐えられない。短期決戦だ。一発痛いのを当てれば騎士団員も認めるだろう。


「全力でいくぜ、アルス」


 地面を蹴る。一瞬で景色が流れた。

 アルスの目の前で強く踏み込む。

 炎を纏ったヴェルザを振り上げる。

 アルスは横に跳躍して避ける。反撃されるより速く、灰の槍で逃げ場を潰す。

 アルスの周りを囲うように地面に刺さった四本の灰の槍。俺が再びヴェルザを振るうと同時に槍が紅く光る。


「爆ぜろ、"灰炎槍(はいえんそう)"」


 槍が爆発し、熱と炎がアルスを襲う。

 上へ跳んで避けるアルス。

 空中のアルスに向けてヴェルザを伸ばす。

 絡めとるように蛇腹剣を巻き付け、燃える地面に叩きつけるが、


「流石にこの程度じゃな……」


 無傷のアルスが立ち上がった。服に着いた埃を手で払いながらジリジリと距離を詰めてくる。


「いや? 悪くない攻撃だったな。随分と火力が落ちていたおかげで助かった」


「よく言うぜ。避けれたクセに」


 アルスに言いながら少しずつ後退する。タイミングを計る。



 アルスが地面を蹴った。

 次の瞬間には俺の真横にいる。アルスの拳を柄の後端で受けつつ右足で蹴りを放とうとするが、膝を足で止められた。

 無理な反撃を狙ったせいで体勢が崩れる。焦り過ぎた! 次のアルスの一手は、


「"小再現・地震(リブレイク・クエイク)"」


 地面が揺れる。足下の地形が変化し、俺は完全にバランスを取れなくなってしまう。そこへ飛んでくるアルスの蹴り。両腕でカバーしたものの、踏ん張りようのない俺は吹き飛ばされた。


 目まぐるしく変わる視界。建物に背中から激突する。崩れた壁を掻き分けて這い出ると、遠くから観戦している騎士団が見えた。


 歩いて近寄ってくるアルス。

 ヴェルザを構え、足に波導を流す。

 蹴り出す瞬間に炎を爆発させて加速する。同時に、ヴェルザを巨大な炎で包んで振り抜く。蛇のようにうねる火炎がアルス目掛けて進む。しかし、


「"小再現・津波(リブレイク・ウェイブ)"」


 膨大な量の水が出現、波導を纏いながら壁となって炎を阻む。

 そのまま全てを飲み込まんばかりに波が立つ。

 三十メートルを超える高さの波が迫り来る。流すための波ではない。俺を潰すための、滝のような波が襲う。


「"灰外殻・黒燐"」


 途轍もない質量と威力を黒い灰の翼で受け止める。最初の衝撃には耐えられたものの、連続して波が襲い続ける。

 押し潰されそうだ。足だけでは耐えきれず地面に手を付く。四つん這いになりながら重量と衝撃に耐え続ける。


「ぐっ、おおおおお!!」


 叫びながら全身に力と波導を込める。

 それでもまだ足りない。徐々に肘が曲がる。体が潰れそうになる。全身を巡る痛みを堪え、両手足で肉体を支える。




 どれだけの時間が経ったのか分からない。

 疲労と激痛で身体の感覚がなくなりかけた頃、衝撃と圧力から解放された。

 灰外殻を解き、ヴェルザをつきながら立ち上がる。


 正面にはまだまだ余裕がありそうなアルス。

 一方の俺は既にボロボロだ。手足は赤く染まり、左腕の骨は折れている。筋肉と神経が麻痺しつつある。


「立ち上がるのが精一杯か? バーン」


「いや、まだ動ける」


 とはいえ、次の一撃が最後だ。その一撃さえ、大きく体を動かすことはできない。俺の最後の一手は決まっている。


 後ろへ跳んでアルスから距離を取る。



 その一撃には、タメの時間が必要だった。

 水に耐えながら、並行して波導を操作し続けた。

 既に術式は構築し終えている。

 ヴェルザを空高く投げ上げ、詠唱によって波導をブーストする。


「空を見上げろ。地に這いつくばれ。

 燃える炎は天空(そら)を焼く。煌めく剣は大地を削る。

 残り火は消えず――


 "地獄より天地を穿つ(ヘルズヴェイン)"!」

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