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第二十七話 再炎

「は?」


『クラリスちゃんの胸のマギアを喰えば、形勢逆転が狙えると思わない?』


 前方に立つ女、イリュスはそう言った。クラリスは気を失ったままだ。


「そんなことをすれば、クラリスはどうなる」


 一体化したマギアを外したならば、波導神経に大きな影響を受けクラリスは死ぬだろう。


「だってそうでしょ? このままだと負ける。二人とも死ぬ。でも、クラリスちゃんを犠牲にしたらあなたは助かるかもしれないわ。違う?」


 それは事実だ。俺は、魔獣核を喰えば波導神経の性能が向上する。ブランに勝てる可能性が出てくる。


「それに、あなたにとってクラリスちゃんは何? 自分の目的と命よりも大事なもの?」


「もう説得はいいだろ、イリュス。オレは本来の強さのバーンモルトと戦いたいんだ。無理矢理喰わせよう」


 ブランが近づいてくる。


「ほら、その女を離しなよ。核ならオレが取ってやるからさ」


 クラリスの体を掴む。灰の触手を構え、先端をブランに向ける。


「はあ。面倒だね、君」


 ブランが地面を蹴った。俺の左側に来たブランが刀を振りかぶる。

 振るわれる刀に灰の触手をぶつけて止める。

 火の粉が舞い、灰が散る。

 灰外殻が破られる。刀は地面に刺さった。

 俺が後ろに飛ぼうとしたそのとき、

 ブランの脚が俺の左腕に直撃する。クラリスの体が離れ、俺は側の建物に突っ込んだ。


「さて、と。じゃ、解体しようか」


 ブランが刀を持ち上げた。横たわるクラリスの胸の上に構える。

 動け! 動け!! クラリスが殺される!! 体が上がらない。脚に力が入らない。






 頭の中で、白髪の自分が聞いてくる。


『また失うのか?』


 暗い目をした自分が言う。


『クラリスを失えば、別の誰かを救える力が手に入るかもな』


 幼い自分が問いかける。


『俺が、本当に守りたいものは何?』






「俺が、守りたいもの……」


 国? 世界? 自分? 仲間?

 はたまた遠い過去の約束?


 決まっている。答えは一つ。


「全部だ!!」





 ブランの刀が突き刺さる。

 皮膚と肉ではなく、地面に。

 クラリスはもう、そこにはいない。


「ハッ! 流石だよ。それでこそだよ! バーモルト!!」


「まさか、この土壇場で?」


 ブランとイリュスが目を見開いている。



 波導神経が活性化する要素は主に二つ。

 ある程度過剰な波導の使用。

 そして、瞬間的かつ莫大な、ストレス。



 白と灰が混ざった髪の男は、クラリスを抱えながら、

「お望み通り、燃やし尽くしてやるよ。ブラン!!」






「ハ~イ、ちょっとタンマ~。久しぶりー、『灰貌』。そのコは医療班まで連れてくよー」


 いきなり上空から降りてきたのは、


「レレア? 騎士団が着いたのかって、あ、ヤベッ!」


 パシャリ、と写真を撮る音。


「いやー、イイ表情してるねー! 『灰貌』の素顔激写ー! じゃ、預かるよ。大丈夫、必ず助けるから」


 クラリスを抱えてビルの上を飛び渡っていくレレア。


「あの『六天』はわたしが追うわ」


 とブランに告げ、イリュスが飛び出した。





「邪魔者は消えた。ヤろうか、バーンモルト。これは、オレという存在の証明だ!」


 ブランが両腕を広げ、俺を見つめる。


「証明? 知らねぇよ。俺は、お前が気に食わないからぶっ飛ばす。それだけだ」


 俺の全身を炎が包む。

 ブランが刀を構え、火が点いた。

 燃え盛る二つの火炎。


 轟音、爆発とともに飛び出す。ブランが剣を振り抜く。

 袈裟斬りを下へ回避、燃える拳でブランの腹を殴る。片腕で受け止めるブラン。もう片腕で刀を振り上げている。斬撃を転がって避け、体勢を立て直す。


 ブランから距離を取れた。落としたヴェルザを拾っておく。


「速くなっただけかい? バーンモルト!」


 ブランの火力が上がる。刀から紅蓮の炎が立ち上り、爆発とともに俺に迫ってくる。

 ブランの刀をヴェルザで受けると、ブランが連撃を放ってくる。

 斬撃の度に炎が巨大化していく。火力が上がり続けている。


「いつまで耐えられるかな? ほら、反撃してこいよ!」


 ブランの斬撃の威力に耐えきれなくなり、足が下がってしまう。

 ブランが刀を振りかぶり、俺に飛び掛かる。


「終わりだ。炎の火力は上がりきった。焼き尽くしてやるよ!

 "強熱炎舞(フレアビート)"」


 周囲を溶かし、焦がす炎が刀身を覆う。

 先ほどとは比較にならない熱。

 刀が振り抜かれる前に、波導を帯びたヴェルザを振るう。


「その程度、今更効かないなぁ! 」


 蛇腹状のヴェルザを弾きながら、ブランが突っ込んでくる。

 ヴェルザがブランを囲う。

 無視してブランは進み続ける。

 俺の身体に刀が届く。

 その前に、波導術を発動する――


「ヌルいな、お前の火は。最大火力が足りない。『火力を上げていく』じゃ足りない。俺には届かない。


 俺の炎は、発動する瞬間から最大火力だ」


 ヴェルザの周囲に波導が満ちる。


「猶予(スキ)はない。遅延(ラグ)もない。時間(トキ)が進むより速く、炎は猛る。

 "須臾(しゅゆ)の閃炎(せんえん)"」


 一瞬でブランが炎に包まれる。

 ヴェルザの全体から同時に、超出力の火が出現する。


「な、にっ!? ぐああああ! あっ、熱う!」


「弱くなったとはいえ、元『六天』を甘く見るな。ま、活かすための次回なんてないが」


 ヴェルザを元の長さに戻す。ブランはまだ炎に包まれたままだ。


「がああっ!! 焼ける、焦げる!!」


 地面の上でのたうち回るブラン。腹を蹴り上げ、ビルに突っ込ませる。ビルの中でスプリンクラーが作動し、水がかかる。


「まあ、このくらいだと消えないか。殺しはしない。牢に入る前に反省しておくこった」


 ブランの首根っこを掴んで持ち上げる。





 レレアが向かった方向に進んでいると、シャイトスやハートたちがいた。


「アッシュ。その髪は……? ブランは……?」


 すこぶる悪い顔色でシャイトスが尋ねてくる。


「髪? 俺からは見えな、あ、白髪生えてる」


 目にかかった髪の一部が白くなっていることに気づいた。波導神経が活性化した影響か?


「ブランは、ほら、まだ生きてる。騎士団に引き渡すつもりだが。何か、言っておくか?」


 ハートがすぐに答えた。


「ああ。頼む。少しでいい。時間をくれ」


「もちろん、いいぜ。そこで待っとく」


 ブランを置いて離れる。もう抵抗することもないだろう。

 ハートがブランに近寄る。他の生徒もその後ろにつく。


「なあ、ブラン。俺たちの仲は、これまでの思い出は、嘘だったのかよ。俺にとって! お前は、仲間なんだよ! ブラン!」


「言ったじゃ、ない……か。オ、レは、嫌いじゃなか……ったよ。迷ったさ。なん、ども。何度、も。でも……譲れ……なかった。オレは、オレ、は……」


「馬鹿野郎……! そんなこと、俺たちは、どうすれば良かったんだよ! どうすれば、お前と……いられたんだよ、俺たちは」


「ゴメ……ンな。オレは、バカで、クズで、どうし、ようもな……い、な」


 ブランが目を瞑る。手から力が抜ける。

 みんなが驚愕と不安が入り混じった顔をしている。


「死んじゃいない。気絶しただけだ」


 ハートたちに言う。すると、シャイトスが話し掛けてきた。


「悪かった、アッシュ。それに、ありがとうな。ブランは、こんなんでも、友達なんだ。声が聞けて、良かった」


「そうか。こいつは騎士団に引き渡す。殺されはしないはずだ。気が向いたら、面会に行ってやれ」


 ブランを抱え、その場を後にする。


「お前なら、やり直せるかもな。ブラン」


 俺にとってはただのクズでも、あいつらにとってはそうじゃない。お前を待ってくれる人が、いるかもしれない。

 焼けた頬には、涙の跡が残っていた。

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