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第二十六話 eat or die

 数分前。ゼリア中心街西端にて。

 クラリスは突然鳴り響いた警報を耳にした。

 周辺の生徒たちが騒ぎ出す。教員が慌てて連絡を取る。

 混乱のなか、クラリスもスヴェラトールの仲間と無線を繋ぐ。


「テルズ、何が起きているの?」


『『ACE』の襲撃だ。同時に、何体か魔獣が出現した。ディクトたち四番隊が向かってる。到着まで持ちこたえられるか?』


「やれるだけのことはやる――」


 突如、無線が宙に放り出される。

 無線の先に声は届かない。


『クラリス? どうした?』





 無線機が落ちた場所から十メートルほど、クラリスは痛みを堪えながら立ち上がる。


「まったく、いきなりやってくれるわね」



 視線の先には、『市民役・右足負傷』のバンドをつけた茶髪のロングヘアーの女性。

 バンドが外れ、『ACE』のエンブレムが露になる。



「まさか、養成学校に潜入してるなんてね」


 茶髪の女が笑う。


「ふふっ。それは違うわ。わたしが来たのは今日、たった数時間前。安心して? バンドの持ち主なら学校で寝てるから。それに、わたしと一緒に来るなら生かしてあげる、クラリス・ヴェリテ」


「『生かす』なんて、実験台としてでしょう? そもそも、あなたたちと生きるのなんてゴメンだわ!」


 クラリスが腕を竜化させ、女を爪で貫こうとする。同時に、『反転』させた"真実の瞳(ジ・アンサー)"で幻を見せる。しかし、


「あら、それは残念」


 余裕ありげに、柔らかく笑う茶髪の女性。

 クラリスの爪が空を切る。

 女性は既に、クラリスの背後にいた。


「わたしたち、分(・)か(・)り(・)合(・)え(・)る(・)と思ったのに」


「幻術使いってワケね」


 クラリスは思考する。


(どのような幻術をかけられたのか、それが分からなければ攻撃は当たらない。まずは、『見る』)


 "真実の瞳"を発動しながらクラリスが飛び出す。茶髪の女はゆっくりと動きながら、


「しっかり見えてる? クラリスちゃん?」


 クラリスの瞳は女を捉え続けている。避けられそうな動きではない、受け止めるつもりか、とクラリスは考える。

 クラリスの爪が女に届く。しかし、


「なんで?」



 当たらない。女の姿が目に映らない。"真実の瞳"が、効いていない。クラリスに不安と焦りが生じる。



「どうしたの? 顔色悪いわよ?」


 背後には茶髪の女。クラリスは『反転』した幻術を使おうとするが、


「無駄よ。わたしに幻術は効かないから」


 クラリスは無視して幻術を使う。地面を強く蹴り、女を狙う。

 今度は明らかに女が避けた。幻術にかかっていないことを示すためである。


「おちょくってるわね。イライラしてくる」


「そんなつもりじゃないの。ただちょっと、力の差を教えたくなっちゃって♪」


 笑みを浮かべる女。性格の悪さが滲み出ているわね、とクラリスは思う。


「知りたい? わたしの波導術。教えてあげようかしら、ね?」


「そう。それはありがたいわね。あなたの波導術は何? ついでに、あなたの名前は?

 ……ああ、答えなくていいわよ。『見えた』から」




 "真実の瞳"は、質問に対する『正解』を見ることができる。答える側が嘘をついたとしても、本当の答えが見えるのである。例外として、回答者が真実を知らない場合は何も見えない。




 "真実の瞳"が答えを映す。


「あなたの名前は イリュス・ティグル、波導術は『感覚の操作』。合ってる?」


「大正解。わたしは自分と触れた人間の感覚神経を操れる。クラリスちゃんの瞳自体には幻術が効かないけれど、神経は別でしょう?」


(なるほど、最初の一撃で私に触れ、神経を操ることで幻術を見せつつ、自分に掛けられた幻術も解除していた、と)


 クラリスは理解したものの、


「知ったところで、打つ手があるのかしら、ねぇ?」


 イリュスが挑発する。事実、このままでは負けることをクラリスは理解していた。


 しかし、いや、だからこそクラリスは突撃する。


 イリュスが再びクラリスの感覚を弄る。実際にイリュスがいる位置と、クラリスから見えている位置をずらしているのだ。


 クラリスの爪が地面を削る。

 イリュスがクラリスの背後をとる。


「当たらないでしょ。もう諦めなさい」


「いや、当たるわよ? どこにいても」


 クラリスが全身を竜化させる。

 イリュスが避けるより速く、竜の翼と鱗が直撃する。


「うっ!!」


「そこね! 逃がさない!」


 純白の竜の姿になったクラリス。

 彼女の巨大な爪がイリュスを襲う。

 回避しようとしたイリュスだが、突然のことに対応できず掌が直撃する。

 勢いよく押し出され、周囲のビルを破壊しながら投石のように飛んでいく。

 飛んでいった先に追撃を仕掛けようとしたクラリスであったが、


「結構やるのね。ク(・)ラ(・)リ(・)ス(・)ち(・)ゃ(・)ん(・)た(・)ち(・)と(・)一(・)緒(・)にしておいてよかったわ」


 イリュスの服の右腕部分が裂ける。

 服の切れ目からは、白い魔獣核が見えていた。


「"鎌鼬(カマイタチ)"」


 イリュスの言葉と同時、クラリスの全身が切り刻まれた。白い鱗に血が伝っていく。

 クラリスがもとの姿に戻り、膝をつく。


「あなた、マギアを……!?」


「クラリスちゃんも胸に埋まってるでしょ? わたしも、あ(・)の(・)コ(・)に負けないためにね。あ、そうだ! クラリスちゃんは彼の居場所――」


 イリュスが話している最中にクラリスが地面を蹴る。奇襲を仕掛けるクラリスだったが、


「読めてるわよ。諦めないことくらい」


 イリュスがクラリスの脇腹を蹴る。


「う、ぐっ!! こほっ」


 クラリスの体がビルを突き破っていく。飛んでいった先、ブランと対峙するアッシュに直撃した。





 そして現在。いきなり飛んできたクラリスを抱える。全身傷だらけではあるが、まだ息はある。一秒でも早く撤退したい。だが、


「あら? あらあら? ブランくんじゃない。どうしてここに?」


「オレのセリフだよ。女ぶっ飛ばしてきて、なんのつもり?」


「それはごめんなさい。わざとじゃないの。そこにいるのは、ああ。バーンモルトで、アッシュ・グレーンで、『灰貌』ね」


 茶髪のロングヘアーの女がビルの穴から現れる。

 ブランとの一対一でもギリギリだってのに。最悪なタイミングの増援だ。


「イリュス、手を出さないでくれ。彼はオレの相手だよ」


 ブランが俺に近づいてくる。


「分かってるわ。そもそも、わたしが出るまでもないでしょう? ……でも、それじゃつまらないわね。


 バーン、一つ、イイコト教えてあげようかしら」


 イリュスと言う女が声を掛けてきた。『イイコト』、だと?


「知ってるでしょ? その娘の胸にはマギア、それもかなり強力な魔獣の核が埋まってる。

 そして、仲間の一人から聞いたのだけれど。『灰貌』は魔獣核を喰らって強くなったそうね。

 だったら――


 クラリスちゃんの胸のマギアを喰えば、形勢逆転が狙えると思わない?」

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