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第二十八話 予兆

 数分ほど走った先に、騎士団の緊急対策本部があった。

 レレアが俺に気づき、声を掛けてくる。イリュスのことは巻いたようだ。


「や、無事みたいだねー。抱えてるソイツはもらってくよー。おーい、誰か手錠と足枷かけといてー」


 気を失っているブランを引き渡す。とりあえずは捕虜にしておくつもりらしい。


「女のコならこっちだよー。今治療中。しばらくしたら起きると思うよー」


 シートの上に横たわっているクラリス。いくつかの傷が塞がり、顔色も良くなっている。


「良かった。治りそうだな」


「さて、ちゃんと聞いておかないといけないねー。

 今は、どっち? 二十年前のキミなのか、もっと前のキミなのか」


 レレアが俺に問う。今の俺はアヴァリティアスの味方か、敵か。レレアは気づいている。俺がバーンモルトであることに。二十年も前とはいえ、同僚だったから分かるのか。


「後者の成り損ないってとこだな。今の俺には、あの時ほどの力がない」


「聞きたいことなら山ほどあるんだけどねー。それどころじゃないかー。信用したげるよ、バーン」


 レレアが小声で囁く。周りには名前が聞こえないように配慮してくれたようだ。


「当たり前だ。そのためにここに来た。レレア、今はどういう状況なんだ?」


「とりあえず大多数の避難は完了。『ACE』の攻撃がなかなかヒドくてねー。人のいなくなった中心街を占拠されてる」


「奴らの目的は分かるか? この辺には『導脈』もその研究施設もないはずだが」


「そこなんだよねー。中心街の占拠も、いまいち何がしたいのか分からなくてさー。陽動かとも思ったんだけど、今のところ緊急連絡はない」


「難しいな。とりあえず、次の行動を考えるか」


「アタシたちは四番隊と合流したら中心街の奪還に向かうって感じ。キミは生徒たちのとこに戻りなよ。はい、無線渡しとくから」


「分かった。確かに点呼とってるかもしれないか」


「ふふっ。なんか可笑しいねー。元騎士団員、それも『六天』が学生って」


「うーん、何も言い返せないな。じゃあ、また何かあったら呼んでくれ。クラリスのこと、頼むぜ」


「はいよー。さて、と。六番隊! 引き続き周囲を警戒ー。いつ『ACE』が襲撃してくるか分からないぞー」


 本部を後にし、避難所になっている養成学校に向かう。





 一方、クレール王国某所。

 青年がある人物に問い掛ける。


「おい、俺の出番はねえのか? もう準備しちまったんだぜ、王」


「まあ少し落ち着きたまえ、クルヴァンガ。私たちが出る必要はない」


 ボス、と呼ばれた人物に代わり、壮年の男が答える。


「あんたには聞いてねぇ。その気持ち悪い薄ら笑いを止めろ」


「ふっ、薄汚い子供には分かるまい。これが大人の余裕というものだ。私の背を見て学ぶといい」


 壮年の男が笑う。クルヴァンガ、と呼ばれた男はこめかみに青筋を浮かべ、


「テメエはほんっとうに腹立つなぁ!! いいぜ、騎士団の連中より前に潰してやるよ!!」


「そこまでだよ、クルヴァンガ。バキラもあまりからかわないように」


 二人に声を掛けたのはローブに身を包んだ男。


「王……。ちっ、仕方ねえか」


「これは失礼。謝罪しよう、クルヴァンガ」


 『王』と呼ばれたローブの男が椅子から立ち上がる。


「さて、私は顔を見せに行ってくる。留守は頼んだよ」


「承った。我々の誰かがともに行きますか?」


 バキラが尋ねる。ローブの男は


「いや、いいよ。クレール王国の騎士団と行くから」


 男が歩きだす。一歩踏み出すごとに、世界が揺れていた。





 ゼリア南部、アヴァリティアス騎士団四番隊が中心街へ向かっていた。

 シンがディクトに話し掛ける。


「隊長、マズいんとちゃいますか」


「割りとまずい。囲われてる。どうして僕たちの位置が『ACE』にバレてるんだ」


「考えたーないけど、裏切り者でもおるんやろか? とんでもないことになるかもしれへんな」


「まあそれは後でいいや。どうやって切り抜けようかな」


 移動を続ける四番隊の後方から、ディクトに連絡が入る。


『隊長!! 今すぐ指示を! このままでは、『ACE』とぶつかる前に全滅します!!』


「は? どういうことだ? おい、もう少し詳しく――」


「ア(・)レ(・)か。こりゃ、かなり……」




 影が四番隊を覆う。ディクトとシンの目に映ったのは、上空を飛ぶ百メートル近い魔獣だった。翼竜のような見た目をした魔獣の口に、膨大な波導が集中していく。


 そして、エネルギーの塊が地上に放たれた。




 先ほどまで四番隊がいた場所には誰もいない。建物はそのほとんどが消し飛び、地面には巨大なクレーターができていた。



 強い光、大きな音とともに消失した四番隊の生体反応。

 応援を待っていた本部がざわめく。


「おい、四番隊が、れ、レレア隊長!! 四番隊の反応が、消失しました!!」


「え? ちょっと、画面見せて! って別に位置出てるじゃーん。脅かさないでよー、もー」


「アレ? ホントですね。さっきまで消えていたんですけど」





 一方、四番隊では、


「な、なんだったんだ? 今のは」


 隊員の一人が呟く。魔獣の攻撃が着弾する瞬間、景色が変わった。壊れていく街ではない。彼には荒野が見えたのだ。

 隊の先頭に立つディクトとシンの前に、その二人は現れた。


「全員無事ッスかー!? 大丈夫そうッスね! 流石ザイルさん!」


「久しぶりですね。ディクト、シン。ここからは、『障壁を越える者(スヴェラトール)』もともに行きましょう」


「助かった。悪いけど、もう少し手伝ってくれへんか」


「いいタイミングだ。テルズ兄さんのおかげかな?」


 ザイルが持つ無線から音が鳴る。


『やあ、ディクト。元気そうで何よりだ。その二人、うまく指揮しろよ。こちらでもサポートはする』


「もちろん。頼りにしてるよ」


「じゃあ、あの魔獣、撃ち落とすッスよ!」


「アンの『糸』とシンの槍以外にヤツに届く攻撃はありますか?」


 ザイルがディクトに尋ねる。


「僕の隊員だと、遠距離攻撃が数人かな。威力が足りないけど」


「援護になるなら十分や。オレがあの高さまで跳べばええんやろ?」


 シンが自信満々に伝え、ストレッチを始めた。


「いや届かないんじゃ……。まあ挑戦したいなら止めませんが」


「あ? やったるわ。見とけよ」


 シンがビルに上がり、屋上を蹴って飛び上がる。

 建物の倍以上飛び上がったものの、まったく届かない。

 上空では、嘲笑うかのように魔獣が飛んでいる。


「シン、いいんじゃないかな、そのチャレンジ精神は」


 ディクトが着地したシンを慰める。


「……。アン、『糸』で足場作ってくれへんか……」


 シンがポツリと呟いた。

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