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第二十二話 b(r)east

 落ち行く星が見えた。相変わらずものすごい規模の攻撃だな。東部の地形は変わってしまったことだろう。


「拠点に戻るのか?」


 横にいるクラリスに話しかける。俺たちが今すべきことはもうない。


「そうね。アンとザイルも戻るみたいだし。……一つ、帰ったら話をするわ。あなたに言っておきたいことがあるの」


 拠点に向かうクラリス。俺はその後ろをついていく。





 拠点の扉を開け、中に入る。鍵をかけ、リビングへ向かう。部屋には夕日が差し込んでいる。

 オレンジ色の光の中、クラリスが振り返る。


「口で説明するより、見てもらった方が速いかもね」



 クラリスがシャツを脱ぎ始める。



「ちょっ、いきなり何を!?」


 突然のことに手で目を覆っていると、


「目を背けないで、よーく見なさい」


 クラリスが俺の両手を掴んで目から離す。

 彼女が腕を動かし、シャツが床に落ちる。

 下着姿になったクラリスの胸には、




 藍色の石が、埋まっていた。




「ま、魔獣核?」


「まあ、正解ね。加工されているから、正確にはマギアよ」


 知っている。人間の肉体にマギアを埋め込む。その実験を、俺は知っている。


「『ACE』の、適合実験の被験者……か?」


「ええ、その通り。あなたもでしょう、バーン?」


 俺は騎士団に入る以前、『ACE』の研究施設で実験体として過ごしていた。

 アヴァリティアスとクレールの戦争によって、俺の生まれ故郷は焼け野原になった。生き残ったのは俺一人。両親の顔も名前も知らぬまま、俺は誰かに拾われた。そうして行き着いたのが『ACE』の研究施設。

 そこで、ある銀髪の少女と出会った。最後には、酷い別れになってしまったが。


「ああ。俺はそこから運良く逃げ出せた。その直前、心臓にマギアを埋め込まれたよ。皮肉なことに、二十年前は、そいつのおかげで生き延びれたんだけどな」


「あなたの身体にもマギアが埋まっているとわかったから、仲間に引き込んだのよ。『障壁を越える者(スヴェラトール)』のほとんどが元実験台。五年前、アヴァリティアス騎士団四番隊が制圧した『ACE』の施設に囚われていたの」


「それで……騎士団には入れないから自分たちの組織を?」


『ACE』の実験を受けた人間など、騎士団では受け入れられないだろう。俺が拾われた頃はまだ『ACE』の存在が浸透していなかったうえ、マギアが表面からは見えないため、俺は騎士になれた。でも、クラリスは違う。


「『障壁を越える者』は、騎士団から弾かれる者たちの集まり。普通の人とは違う者たちの居場所。そして、今も『ACE』の実験に苦しむ人々を救うための組織よ。

 あなたは私たちの希望。『障壁を越える者』の象徴になりうる存在。だから、これからも手を貸して、バーン」


「最初からそのつもりだよ、俺は。そもそも、騎士団に入ったのは『ACE』を潰すためだ。まあ、師匠と会って『この国を守る』もすべきことに加わったけどな。俺はお前たちと全力を尽くす、そう決めていた。改めてよろしく、クラリス」


「ありがとう……!!」


 彼女は本当に嬉しそうな顔をしている。普段とは違う、柔らかい表情。



 突然、ガチャリ、と鍵の開く音がした。


「ただいまッス~」


「二人ともいらっしゃるようですね」


 扉を開けて部屋に入ってくるアンとザイル。二人の目には俺と上の服を着ていないクラリス。


「あ、お邪魔しました~……。二人でごゆっくりと~。ほら、出ていくッスよ、ザイルさん!」


 ザイルを押しながら部屋から出ていこうとするアン。


「いや待て待て待て! 違うって! そういうことじゃないんだ!」


 俺が必死に弁明するも、


「はあー!? こんな状態でナーニが『そういうことじゃない』ッスかー!!」


 聞く耳を持たないアン。すると、


「アン……? いい加減にしなさい?」


 俺の背後のクラリスがスゴい表情を浮かべていた。目が冷たい。怖すぎる。さっきまで澄ました顔をしていたザイルでさえ恐怖している。


「……なるほど、そういうことでしたか」


 ザイルにこれまでの経緯を話した。ちなみに、アンは隣の部屋でクラリスから説教を受けている。よほど頭に来たらしい。


「ちなみにですが、私は背中、アンは右肩にマギアが埋め込まれています。アンの 『糸』はマギア由来の波導術なんですよ」


 埋め込まれているとはいえ、マギアはマギア。波導を流せば使えることに変わりはない。身体への負担は少し大きいが。


「私のマギアの波導術は『マーキング』です。円を描くと、その円の周囲の状況をどこからでも把握できる。『隔絶現世』の内側で描くと、隔絶した外の様子も見ることができます。私にとってはかなり有用な波導術ですね。ミスターアッシュ、あなたのは?」


「詳しくは分からない。なんせ、一回しか発動してないからな。まあ、おそらく『再生』だ。以前死にかけたときにマギアのおかげで全身の傷が治った。それ以前もそれ以降も、同じように治ったことはない」


「私のは『反転』よ」


 隣の部屋からクラリスが出てきた。横にはぐったりしたアンがふにゃふにゃと歩いている。コッテリ絞られたようだ。


「私の波導術を『反転』したものを発動できるの。『真実が見える』の反対、『偽りを見せる』になるのよ」


「なるほど。前に俺の素顔を隠したっていう幻術はそれのことだったのか」


 頷くクラリス。




 突然、俺とクラリスの携帯が鳴った。


「メッセージ? 学校からか」


 長々と書いてあったが、要約すると


『緊急時の人手不足を緩和するために、生徒にはアヴァリティアス騎士団の手伝いをしてもらう』


 というメッセージだ。担当するのは避難誘導などだろう。流石に生徒を戦力として見ているはずがない。


「どうしようかしらね、コレ。明らかに行動が制限されるわ」


「拒否できる感じしないけどな」


 かなり面倒ではある。しかし、アヴァリティアスにとっても、騎士養成学校の生徒にとっても重要なことなのだ。


「出るしかないかもね。私たちは『ACE』と戦えなくなるのが勿体ないけれど」 




 クラリスが言うと同時、何者かが扉を開けて部屋に入ってきた。


「君たちは学校に従っておいてくれ。市内の別の拠点に戦力を追加しておいた。心配するな」


 入ってきたのは青色の髪の男。どことなく見たことあるような……、と考えていると、その男が俺を見つめた。


「君がアッシュか。分からないかい? 少し前まで通信機で声を聞いていただろうに。まあいいさ。初めまして、テルズ・ヴォーチェだ。よろしく」


「ああ、よろしく。作戦の指揮官、だよな?」


「そうだ。スヴェラトールの行動の指示を出していた。ついでに言っておくと、四番隊隊長のディクトは弟でね、弟からも『面白そうな人』と聞いている」


 面白そうな人ってなんだ。どういう評価なんだ。


「まあ、無駄話はこの辺にしておこう。さっきも言ったが、君たちは学校に従っておいてくれ。『ACE』との衝突は騎士団のおかげでなんとかなりそうだ」


「ならいいけれど。私は機会があれば戦うから」


「俺も。何もしないわけにはいかない。もちろん、学校に与えられたぶんはちゃんとやるつもりだ」


「まあいいだろう。好きなようにやるといい。それが、君たちにとっての正解だ。

 今日はここに泊まらせてもらっていいか? クタクタでな」


 テルズが腕を曲げて言う。


「逆に俺は一旦自宅に戻りたい。荷物やら制服やらが家に置きっぱなしなんだ」


「じゃあまた明日、学校でね、アッシュ」


「ああ、みんなも。おやすみなさい」


 外に出ると、辺りはもう暗かった。二十分ほど歩くと、家が見えてきた。ボロアパートの一室の扉を開ける。




 誰もいない自宅。静まり返った部屋。

 シャワーを浴び、荷物を整理して布団に入る。

 緊張のせいか、嫌な予感か。

 寝つきがかなり悪かった。

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